どこに向かってるの
「何でライラまで驚いてんの。まさか、これもバグってわけ?」
「いやぁ、よく分からないんですよ私も。セーラー服なんて無いと思うんですけど。ほら、このゲームって学園ものじゃありませんし、用途が無いっていうか」
「まぁ、そうよね……」
学園恋愛ゲームものもあるけど、この世界はどう考えてもそのジャンルでは無い。
お姫様が、ただ他国の王子や貴族様と恋愛するゲームで、お勉強が必要なシステムも無い。
自分が、後に女王になるなら勉強も必要になってくるんだろうけど、ステラ姫の兄が王位継承権一位ってのは既に確認済みだし。
勉強は苦手な方なので、しなくて良いのは助かるけど。
とにかく、学校に行くイベントが無いので、本来ならセーラー服は着なくて良いはずだ。
「どうされます? ネグリジェと、セーラー服しか無いみたいですが」
「何でその二択しか無いの、とはもう突っ込まないわよ。面倒だから」
「ありがとうございます。そう言って頂けると、説明を省けて楽です」
「ゲーム進行役と説明役が、説明を省くなよ……。とりあえず、脱いだ服を再度着るってのは気持ち悪いし、セーラー服しか無いんだったら仕方ないわ。これを着る事にする」
「了解しました。セーラー服の姫様も、大変お似合いだと思いますよ……知らんけど」
「知らないんだったら、言わないで」
「お世辞ですので」
ハッキリ言われ、私はライラの言葉を軽く無視した。
世辞って、普通バレないようにするもんじゃない?
ライラって、人間じゃなくて天使って言ってたけど、そのせいか私達みたいな言葉の配慮ってやつが、どこか欠けてるのよねぇ。
でも言葉をオブラートに包んだりして言うのって、日本人の特徴だっけ。
外国の人って、もっとストレートに言うイメージだし。
だとしたら、天使のライラには少し難しいかもしれないけど。
「さ、姫様。着替えたら、ラウール様のペットショップに向かいましょう」
これ以上、ライラに説明してもいつもみたいに交わされるか。
「そうね」
返事をした私は、急いでセーラー服に着替え始める。
クローゼットの中には、赤のスカーフと、紺色のスカートに、白のハイソックスまであった。
私、前世では高校の制服ってブレザーだったから、セーラー服って憧れてたんだよね。
急に人生終わっちゃったから、一生縁が無いと思っていたけれど、おもわぬ形で夢が叶ったわ。
「姫様、素敵ですね!」
「どうせお世辞でしょ。それなら言わなくて良いわよ」
「あ、じゃなくてそのセーラー服が可愛いなと思いまして」
「セーラー服の方かい!」
私の叫び声と、ライラの頰を平手打ちする音が、部屋中に響き渡った。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「……ねぇ、二つ程……はぁはぁっ……質問良いかしら?」
「えぇどうぞ……はぁはぁっ……何なりと」
私とライラは、城から出てラウール様の経営して
いるというペットショップへ向かっている。
もうかれこれ、一時間以上も歩いているので、二人とも息が上がってきた。
「はぁはぁ……一つ目だけど、あんたが徒歩で城から出ていくから、迷わずついてきたけどさ……はぁ……これ昨日みたいに馬車とか使えないわけ?」
「あー、うちの城って馬車が無いんですよねー……はぁはぁ……ちなみに、御者もいません」
「馬車が無いって、どんな城よ。不景気? 国の要が金欠って、ヤバすぎでしょ。ってか、あんたがやれば? ラムド様の御者みたいに」
「私、無免許なんで」
「車みたいに言うな。それで……はぁはぁ……後どのくらいで着くの?」
「えーと、距離はだいたい十四万キロルですね」
「キロルって何! どんな単位!? まさか、キロメートルと同義って事は無いわよね!? そんな果てしない距離を歩いたりしたら、絶対途中で倒れる! 乙女ゲーム攻略の前に、二回目の人生が終わる!」
「終わりませんよー。主人公補正ありますし」
「何よ、主人公補正って」
「姫様は、このゲームの世界で主人公ポジションなんで、崖から落ちようが馬車に轢かれようが、命を落とす事はありませんって意味ですね。ほら、主人公がいなくなったらゲームが成り立たないじゃないですか」
「怖っ! 私の体が、頑丈すぎて怖っ!」
「あ、姫様。そろそろ一旦休憩しましょうか」
その時突然、ライラに休憩地点を教えられる。
ようやくか、と思い周りを見ると、辺りは木々ばかりであった。
「ずっと気になってたけど、どんな道歩いてたのよ私達」
「えーと、山ですね」
「登山してたの!? どうりで坂もきついし、疲れると思った!」
「さ、姫様。私特製のジュースをどうぞ」
私の叫びを見事にスルーしたライラが、細長い水筒に入れた飲み物を紙コップに移して、手渡してくれる。
スルーされた事は苛立ったが、体を休めたい気持ちが勝った。
巨大な石の上に座り、紙コップを受け取る。
紙コップに水筒って、本当ハイキングみたいな準備してるわね、こいつ。
「ちなみに、バックパックや登山靴、杖まで持参してますよ」
「ガチの登山じゃん! 山登るなら、先に言っときなさいよ。ってか、ラウール様のペットショップって、こんな山道の先にあるわけ? 辺鄙なところに建てても、お客さんなんて来ないと思うけど」
「いえ、普通に街中にありますよ。城下町から自転車で10分くらいで行けます」
「だったら、何で山道通っとんねーん」
「趣味で」
「趣味!? あんたの奇妙な趣味に、私を巻き込まないでよ」
「山登り、好きになってくれると思ったんですけど」
「……ちなみに、このジュース……独特の味がするんだけど、何入ってるの?」
「蛇ですね」
ぶーっ、と私は盛大にジュースを噴き出した。