連絡取れないんですけど!
──君が僕を好きになってくれないと、胸が痛くてたまらないんだ。
──好きだ、姫。
──好きだ。
──好きだ。
「ぬあぁぁぁああああっ!」
ラムド様から告白されてしまった翌日、私は自室のベッドの上で彼の言葉を脳内で無限リピートし、ついに眠れず朝を迎えてしまった。
あのイケメンな顔とボイスで、私の事を好きって言ってくれた事は嬉しかったが、言葉が忘れられなくなった。
ノーマルエンドを目指して無かったら、イチコロでラムド様に恋していたかも。
「……何回も言いますけど、ノーマルエンド目指すのやめたらどうですかね?」
「えっ、うわ! ライラ!? 何で部屋にいるわけ!?」
背後から声がしたので寝返りをうってみると、ライラが私と同じように横になっていた。
「部屋というか、私は姫様の隣でずっと寝ていましたよ。全くこちらを向かなかったので、気付かなかったんですかね。寝返りも、今初めてしたようですし、もしかして一晩中起きてたりします?」
「その通りだけど、そもそも城にあんたの部屋は無いの? 広そうな城だけど、私と一緒に寝ないといけない程、部屋ケチられてんの?」
「いえ、ちゃんと私の部屋もあります」
「じゃあそこで寝なさいよ」
「だって絶対姫様の部屋で寝た方が面白いじゃないですか。現に、ずっと悶えてたし。観察していたら、ラムド様カッコ良すぎてやばい私堕ちちゃいそうダメダメノーマルエンドを目指さないと、みたいな事を永遠にブツブツと言ってて、何度も噴き出しそうになりましたよ」
ライラが笑いを堪えていて、私は一気に顔が熱くなる。
「そ、そんな事言ってないもん!」
「姫様ならそう言うと思って、音声を録音してあります」
「あ、悪魔! 天使のくせに、悪魔だわ!」
「お褒めに預かり光栄です」
褒めてねーっての。
何を言っても、ライラにはサラリと交わされてしまう。
私が怒っている事も、全く伝わっていないだろう。
その証拠に、何事も無かったかのように話題を変えやがる。
「そう言えば姫様。昨日、あれからその愛しのラムド様と連絡先を交換しましたよね」
「……愛しのって、私は別にラムド様の事何にも思って無いけどね!?」
「はいはい、それもう良いですって。それより、連絡先を交換したらこちらも自由にラムド様に文通出来るんですけど」
「そりゃそうでしょ、文通する為に連絡先を交換して……って、文通!?」
そういえば、昨日連絡先を交換出来て、ちょっと舞い上がっちゃって気付かなかったけど、いや舞い上がっても無いけど、電話番号か何かをくれるのかと思いきや普通に住所を書いた紙をくれたのだった。
個人情報だし無くしたらヤバいから、と思ってすぐにライラに預けていたのだが、文通と聞いて住所しか書いていなかった事に納得する。
そもそも、私は気付いたら乙女ゲームの世界にいて、前世の時に持っていたスマホもカバンも何も持っていなかった。
スマホが無いのに、どうやってラムド様と連絡を取れば良いのかと思ったら、まさかの手紙とは。
古風だけど、スマホ社会の中で生きてきた私には、手紙なんて斬新で面白いかもしれない。
「ライラ、早速ラムド様に手紙を書くわ。これはあの方が好きだから書くんじゃなくて、交換日記みたいで、何だか楽しそうだから書くのよ?」
「誰に言い訳してるんですか。えーとですね、姫様。さっき言いかけた事なんですけど……」
「何よ」
「手紙を書いたらですね、相手の住所に送らないといけないんですが、この世界にポストが無いんですね」
「えっ、無いの!?」
「ちなみに、郵便局も無ければ郵便屋さんもいません」
「じゃあどうやって手紙を送るの? まさか、住所の場所に直接行って手渡しとか言わないわよね!?」
もしそうだとしたら、遠い場所にいる友達だったら届けるのも一苦労だ。
手紙なんて書かなくて良いか、と面倒くさくなってすぐにやめてしまいそう。
「手渡しとかでは無いんですけど、皆さん鳩を飼う事になっています」
「鳩? あのクルッポーって鳴く鳩?」
「そうですね。この世界の伝書鳩は、手紙だよんって鳴きますけど」
「何か……気持ち悪いわね」
「気持ち悪いなんて言ったら、鳩に失礼じゃないですか。私達の手紙を正確に届けてくれる、いわば姫様の相棒となるお方ですよ」
「相棒ねぇ……」
鳩が相棒なんて、あまり嬉しく無いんだけど。
「その伝書鳩って、どこかに売ってるの?」
「うーんと、それが……」
「何よ、はっきり言いなさい」
「えー……」
何故か、煮え切らない返事をしているライラ。
普段ハキハキ物を言う彼女にしては、かなり珍しい。
「気持ち悪いから、ちゃんと言いなさい」
「……そうですね。この世界で伝書鳩を買うには、ペットショップに行くしかありません。そして、店はただ一つしかなく、そこの店主の名は……ラウール様と言います」