連絡先、交換しない?
「ライラの乱暴な言葉はさておき、素直な気持ちを伝えるってのは、正しいかもしれないな」
「そうですよー。姫様ったら、さっきからキョロキョロ辺りを見回してますし、大方気持ちも落ち着いてきて、私達の姿を探す事にしたんでしょうね。まさか、客じゃなくて店員の方をやってるなんて思ってないでしょうから、探すのに時間がかかると思いますけど」
「え、そうなのか?」
「はい、ずっとこちらの方を見て探してますし」
「ライラって、ステラ姫の事よく分かってるんだなぁ」
「……全く分かっていませんよ。私は……落ちこぼれですから」
「……そんな事無いと思うけど。ライラは、その……何ていうか……いつも姫の側にいて、見守っている感じがするし。そういう存在って、あの子にとって大事だと思う」
ライラが、いつに無く寂しい表情で焼きそばを焼いているので、ラムド様はすかさずフォローした。
そんな優しい言葉に、彼女は苦笑する。
「慰めなら要りません。その場の流れで何となく慰めておこうか、みたいな気持ちなら逆に辛くなりますし。安易な優しさは人を傷付けるだけですよ?」
「肝に銘じておくよ」
ラムド様が反省したのを確認して満足したのか、ライラはそれ以上何も言わなかった。
ただひたすら無言になって、麺と野菜を焼き続ける。
行列は次第に捌けて行き、食材の方も底を尽きそう
になっていく。
そろそろ店番も、終わりが近付いてきたようだ。
「……時にラムド様」
「なんだい?」
しばらくライラは話さないと思っていたので、いきなり声を掛けられて、ラムド様は内心驚いていた。
だが、女性に話しかけられて驚くなんて失礼な事は彼には出来ない。
悟られない様に、とにかく平静を装っていると、ライラから驚愕の事実を告げられる。
「最後のお客様、姫様とレイ様でした」
「……は?」
ラムド様の目の前に、謝罪したい相手がいた。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
一番最初の感想は、何でこの人達焼きそばなんか焼いてるの? だった。
焼きそばを必死に焼くラムド様は、青と白のチェック柄をしたエプロンを着用していた。
それは凄く似合っていて、目の保養ではあったけれど、何してんのこんな所で、というツッコミが脳内を埋め尽くしていた。
ちなみに、ライラもエプロン姿ではあったが、普段の燕尾服が見慣れているせいか、違和感の方が強くて可愛いなんて微塵も思わなかった。
「何でですか、可愛いでしょう。可愛いと言って下さい」
「……あんたは、何で私の心が読めてるのよ。っていうか、二人ともどうして焼きそば屋台の店員なんてしてるわけ?」
「それは、ラムド様と私だけの秘密の話なんですよね?」
「へー、ラムド様はやっぱりライラとそういう関係なんですか。それは良かったです、どうぞお幸せに」
「ち、違うんだ姫! 誤解しないでくれ!」
「何を……」
何を勝手に、と思ってラムド様を睨む。
誤解も何も、ラムド様がライラをデートに誘ったんじゃない。
ライラはどうか知らないけど、少なくともラムド様は彼女の事が好きなんでしょ?
私に対する好感度がMAXになりながら、別の女の子とデートするなんて、これじゃあただの女たらしじゃない。
最低だわ、ラムド様。
最低野朗よ。
「……すまない、ステラ姫。僕は……レイと仲良くする君に嫉妬してしまったんだ。それで、ライラをデートに誘って君の気を引こうとした。すまない、この通りだ、許してくれ」
ラムド様が、美しい一礼をする。彼から、どんな言い訳が飛び出すかと思いきや、突然謝罪され戸惑ってしまう。
「ラムド様が……嫉妬?」
「そうだ。僕は、君をレイに取られたくないと思ってしまい、ついあんな行動に出た。そのくらい、君の事が好きなようだ。好きなんだ、姫。これからも僕の側にずっといてくれないか?」
「す、好きって……ずっと一緒にって……。ちょ、ちょっと待って下さい。いきなりそんな事言われても」
謝罪からの愛の告白って……。
恥ずかしいし、理解が追いつかない。
けど、これってラムド様との恋愛成就イベントじゃない?
少し景色が良い所でイベント発生、とかじゃなくて好感度MAXだと告白イベントはどこでも起きる仕様なの!?
ダメだ、阻止しないとノーマルエンドを逃してしまう。
「姫が、僕以外の男を好きになったとしても、その時はスッパリ諦められると思っていた。けど、ダメなんだ。君が僕を好きになってくれないと、胸が痛くてたまらないんだ。僕のこの想い、受け取ってくれないか?」
「えぇっ!?」
困る、非常に対応に困る。
前世でも男の人に、ここまで情熱的に告白なんてされた事が無かった。
そもそも、男性とこんな風に話をする事も少ない。
だから、私を好きになってくれて、告白されたのは嬉しい。
嬉しいけど……ラムド様の事好きなのかと言われたら、よく分からない。
だって、ラムド様からしたら昔から知り合いだったステラ姫だろうけど、私は今日初めて彼と会ったんだもの。
彼をよく知らないのに、告白をオッケーなんて出来ない。
そもそも、私はノーマルエンドを目指してるんだし。
「ごめんなさい、ラムド様。貴方の気持ちには、今は応えられないわ」
「姫……どうして……」
「……私、ラムド様の事を覚えてないからよく分からないの。自分の気持ち。だから、恋人は無理だけど……お友達から始めてくれませんか?」
「友達か……分かった。じゃあ、また遊びに誘って良いかい? 友として」
「えぇ、友としてなら」
「分かった。では、友として君にお願いしたいんだけど」
「なんですか?」
すると、ラムド様は少し照れながら私に言った。
「僕と……連絡先、交換しない?」