もしかして、これがヤキモチなの……?
なんで、ラムド様がライラとデートする事になるの?
全く意味が分からない。
「……えーと、姫様。私どうしてラムド様とデートする事になったんでしょう?」
「私が一番聞きたいわよ、そんな事」
「姫がレイとデートするって言うから、僕暇になってしまうし、今日はまだ時間も空いてるから同じ暇そうなライラを誘っても問題無いよね?」
「え……それは……」
ラムド様が、ライラとデートなんて。
そんなの絶対ダメだわ。
……どうしてダメなのか、って言われたら困るけど。
どうして?
「……じゃあ、ライラ行こうか」
待って、行かないで。
「私は、姫様の執事ですから。姫様を置いてなんて、行けません」
そうよ、断りなさいライラ。
「残念だな。美味しいケーキの店があると聞いて、食べるのが大好きな君に案内しようと思ったんだけど」
「え、マジですか。行きます!」
行きます、じゃねーわ。
行くな。
「……って言ってるけど、姫はどうする?」
「ど、どーするも、私はレイとデートするって決めてますから! 行くわよ、レイ」
本当は、違うのに。
どうして、あえて嘘の気持ちを言ってしまうんだろう、私……。
こんな複雑な感情、初めてだ。
この気持ち、一体何なの……?
「姉様、結構痛いです!」
レイが、顔をしかめる。
彼の腕を掴んで歩いていたのだが、私の手の力が強かったらしい。
しばらく何も言わずに進んで、振り返る。ライラとラムド様の姿が見えなくなった所で、息を吐いてレイを掴んでいた手を離した。
「……ごめん、いきなり連れてきて」
「良いですけど……どうしたんですか? 急に怒ったみたいな感じでしたけど」
「怒ったりはしてないけど……モヤモヤするの、何か」
「モヤモヤ?」
「よく分からないけどさ、ラムド様がライラとデートに行くとか言われて、何かこう……胸がチクッとするっていうか。これが何なのか、レイは分かる? もしかして、病気とか?」
「姉様……」
レイは、一瞬驚いてやがて悲しそうな顔をする。
弟の表情が辛そうな理由も、私には全く分からなかった。
色々理解出来ない事だらけだ。
「姉様、それってヤキモチなのでは?」
「ヤキモチって、普通に餅を焼いて食べるっていう、あの……?」
「いやその焼き餅じゃなくて。要するに、ラムド様に嫉妬してるっていうか」
「嫉妬!? 私が? そんな見苦しい、はしたない事するわけないわ」
「けどライラとデートするって言われて、凄く嫌な気持ちになったり、モヤモヤした気になったんですよね?」
「まぁ……そうね」
「それがヤキモチなんですよ……認めたくないけど」
レイの最後の言葉が小さくて、やはり聞こえなかったけれど、自分がまさかラムド様に嫉妬の感情を持っている事に驚く。
指摘されるまで、気付かなかった。
嫉妬って、あれよね。
ラムド様を、他の女の人に取られたくないっていう事よね。
「……」
「姉様?」
「いや、ないない!」
「何が!?」
突然私が笑いながら手を振り否定し出したので、レイは驚いている。
「そもそも、私別にラムド様の事なーんにも思ってないわけだし、なのに嫉妬するわけないじゃない。モヤモヤしたのは、最初ラムド様が私にデートをしようと誘ったのに、レイと仲良くしたら違う女と遊びに行こうとする、その不誠実さに腹が立っていたんだと思う!」
「そ、そうかな?」
「絶対そうよ! あー、解決した! なんか納得したら、喉が乾いてきちゃったわ。レイ、屋台に飲み物出てたかしら。買いに行きましょ」
「……あったと思いますよ。姉様、飲み物も良いですけど、もうすぐ広場で演奏会があるみたいです」
「へー、面白そう! 早くいきましょ!」
レイが頷く。
何度も、何度も悲しい顔をしている彼に、私は疑問を感じていた。
けれど、その理由を訊ねてはいけない雰囲気もあって、深くは追求出来なかった。
そこまで大規模な祭りでは無いので、屋台の数もあまり多くはない。
人混みはあるものの、同じく食べ物屋を探しに行ったと思われる、ラムド様達と出会ってしまう確率は高い。
今の状態で会うのは気まずいので、二人の姿を見つけたらその場を離れようと決める。
周りをキョロキョロ見回していると、背後から声をかけられる。
「姉様、頼まれてた緑亀ジュースです」
「凄いネーミングのジュースありがとう」
レイから受け取ったジュースは、緑色の炭酸ジュースの上にアイスクリームとさくらんぼが乗っているものだ。
要するに、メロンソーダフロートである。
とりあえず、ストローが挿さっているのを確認し、一口飲んでみる。
「美味しい……っ!」
「良かった。姉様に、笑顔が戻って」
「レイ、貴方本当に可愛いわね」