決闘イベント
「いえ、姫様。私は、ただの執事ですよ」
ライラが、人差し指を唇に当てる。
天使である事は、周りの人に秘密にしとけってわけね。
「……それより姫様。ノーマルエンドを目指すと言いながら、バッドエンドの道を選ぶ事にしたんですね。バッドエンドを最後まで体験するのは姫様の自由なんですが、その場合クリアにはならないので、最初から始める事になりますけど」
「え、何が? 何の話?」
ライラの話が、意味不明すぎる。
バッドエンドを目指すなんて、私は一言も言ってないし、そんなつもりもない。
彼女と私が思ってる事が、まるっきり違っている気がする。
ライラも、話が噛み合っていない事に気付いたらしい。
首を傾げて聞いてくる。
「ん? ラムド様から、レイ様の攻略に切り替えたのでは?」
「んなわけないでしょ。レイは弟よ?」
「しかし、レイ様の好感度が八まで上がってますので……私はてっきり」
「待て待て。どうしてレイも攻略対象になってるのよ。異母姉弟だけど、父は同じなのよ? 好感度を上げても結婚出来ないじゃない」
「さすが姫様。そこに気付くとは、意外と頭が良いのですね」
意外とは余計じゃい。
「だからこそバッドエンドなんです。レイ様は、ゲーム内の隠しキャラみたいな存在でして。他の攻略対象と恋愛せずに、レイ様と仲良くして好感度MAXまで上げると、二人は両想いになります」
「……それで?」
「その後、二人で国王陛下に結婚の挨拶に行くんですが、陛下に異母姉弟だから籍を入れる事が出来ないよ、と言われてハッとして気付いた所でエンディングを迎える、というバッドエンドイベントがあるんです」
「気付くの遅すぎるでしょ。しかも終わり方モヤモヤする!」
「どうします? ゲームをやり直してもらっても、私は構わないんですけど」
「もちろん、ノーマルエンド一択よ! とりあえず、レイとの好感度を下げにいくしかないわね。あと少しでMAXまでいってしまいそうだし」
いつの間に好感度が上がったのか分からない以上、うかつな行動は出来ない。
ゲームなら好感度が上がった時点でお知らせ音が鳴ったり、画面表示で分かったりするもんだけど。
それに、実際に好感度を下げられるのかが分からない。
あれだけラムド様に嫌われようとしても、好感度が下がった気配が無いのだから、レイの場合もそうだったりして。
となると、今ある好感度をキープして、これ以上上げないようにするしかないか。
「ライラ、いい加減好感度を下げる方法を教えなさいよ」
「普通、私はゲーム進行役なので好感度を上げる方法を教えるべきなんですけどね」
「良いから、早く」
「……仕方ないですね。てっとり早く好感度を下げようと思ったら、イベントで相手が嫌がるセリフを言う事ですね」
「イベントって、都合よく起きないわよ?」
「実は、レイ様とラムド様が揃っている時に発生するイベントがあるのです。あれを見て下さい」
ライラが指差した方向を見ると、ラムド様とレイが何やら対話をしていた。
私とライラがコソコソ小声で話しているのに、何故二人とも気にならないのかと思っていたら、彼らは彼らで談笑していたらしい。
いや、談笑では無い。
ラムド様は真剣な顔で、レイの方は何故か怒っている……?
と思っていたら、急にレイがラムド様に殴りかかった。
「レイ、やめなさい。何をしているの!?」
驚いてラムド様とレイの元に駆け寄り、叫ぶ。
私の声に、レイはギリギリの所で拳を止める。
ラムド様の顔を目掛けていたので、イケメンの肌に傷が付かなくて良かった、と安堵する。
「レイ、何があったの?」
「……皇帝陛下に言ったんだ。姉様をもうたぶらかすのはやめろって。そしたら、関わるのをやめないって言うから、ちょっと懲らしめようと思って」
確かにこれ以上ラムド様に関わられたらドキドキして困るから、レイのやった事は褒めてあげたいのだが。
って、何でラムド様にドキドキなんてするのよ、私。
してない、してないぞ、絶対に!
ありえないんだから。
「姫様、悶えてどうしました。気持ち悪いですよ?」
「気持ち悪い言うな。レイ、私はラムド様にたぶらかされていないから大丈夫よ」
「けど……姉様、こいつの事好きなんじゃ……」
「断じて違うわ」
「違うの?」
私の返答に、レイは驚いている。
ラムド様が、ショックを受けた顔をしているが知った事か。
むしろ好感度が下がってくれたら良いのに。
「私は、ラムド様の事なんて、何とも思っていない。私の為を想ってくれていたのは凄く嬉しいけど、相手を傷つけるのは駄目よ? もう大人なんだったら、分かるわよね」
「はい……姉様」
「うん、レイはやっぱり偉いわ」
「そ、そうですか……」
頭を撫でて微笑むと、レイは嬉しそうにしている。
顔も赤くなって、照れているらしい。
何この子、本当に可愛い。