乙女ゲームの主人公に転生させられたみたい
「これから姫様には、攻略対象者と恋愛してもらい、結婚エンドを目指してもらいます」
目覚めたら、目の前に髪を一つに束ねた燕尾服の女の子がいて、そんな事を言ってきた。
目が覚めたら、いきなりよ?
頭がおかしいとしか思えない。
「あの、そもそもここはどこ? それで、あんたは誰?」
「ここは、ヴァレスト王国にある王家の者達が暮らす城です。そして私は、姫様が小さい頃からお世話している専属執事、ライラです。もしかして、若くしてもう認知症ですか?」
「失礼な奴ね。ライラですって言われても、ピンと来ないわよ。初対面なんだから」
「まぁそうですよね、私も初対面ですし」
何言ってんだ、こいつ。
「設定ですよ、一応。実は、私の本当の肩書きは執事じゃなくて、天使なんです。天界には、沢山の天使達がいまして、人生を終えた魂を次の命に転生させる役目を持ってます。私は小児担当の天使なんですけど、貴女の魂を今回乙女ゲームの主人公に転生させたわけです」
「人生を終えたって、私死んだって事!?」
「あー、覚えてないんですね。まぁ一瞬の事ですし、仕方ないですねー。貴女は、露原琴音さん、15歳の高校一年生でした。ここまでは大丈夫です?」
「……名前は何とか覚えてるみたい」
「なら良かったです。肝心の死因ですが、ご家族と動物園に遊びに行って、突然ライオンの檻が壊れてしまい、10歳下の妹さんを目掛けて彼らが走っていきまして」
「まさか、妹を庇って私が!?」
「あ、いえ。妹さんを庇おうとした所、つまづいてその場に転んで後頭部を打ちつけまして。打ちどころが悪かったんでしょうね。即死でした」
「恥ずかしい死因!! 自爆してるし! ライオン関係ないし!」
「ちなみに、ライオン達は他のお客さんによって無事檻に戻されたので、安心してください」
「いや安心できねーわ。飼育員じゃなくて、お客さんが檻に戻したんかい。飼育員は、どうしたの」
「檻からかなり離れた所で、ブルブル震えていたわ」
「辞めちまえ! そんな飼育員、辞めちまえっ!」
さて、とライラは急に話題を変えた。
本当に急だわ。
「そんなわけで、貴女は命を終えてしまったから、可哀想に思って今回乙女ゲームの主人公に転生させてあげたわけなのです」
「何で乙女ゲームの主人公? もう一度赤ん坊からやり直しさせてくれたら良かったのに。お金持ちの家の子とか」
「各カテゴリーに転生人数って決まってるんですよ。貧乏枠とか、金持ち枠とか、乙女ゲーム枠とか、虫枠とか、動物枠とか、ゴキブリ枠とか」
「……何でゴキブリは、別カテゴリーに入ってんの。虫枠で良いでしょ。ってか、虫に転生するのって一瞬で潰されて命終わりそうよね」
「なんて言ってると、話進まないので脱線はここまでにしますね」
「あんたが変な事言わなきゃ脱線なんてしないけどね」
と、その時どこからかベルの音が響いた。
「何の音?」
「どうやら玄関からのようですね。来客かもしれません。姫様も一緒に参りましょう」
「えー、やだなぁ」
「そう言わず、イベントが始まりませんので」
イベントって何よ、と思いつつもライラの視線の圧が凄くて拒否出来る雰囲気では無かった。
仕方なく、ため息をついて彼女についていく。
私が目覚めた所は、とても広い部屋で可愛いインテリアも沢山あって、女の子って感じの雰囲気だったのだが、部屋を出ると一気に様子が変わり、お洒落な造りの廊下が広がっている。
赤いカーペットに、天井は無数のシャンデリア。
廊下の端にあちこち花瓶が飾られていて、見たことの無い美しい花が生けてある。
そして壁には、誰か分からない巨大な肖像画があった。
どうしてお金持ちって、肖像画が好きなんだろ。
「ってか廊下長い! 結構歩いてるつもりだけど、まだ玄関つかないの!? 無駄に長い!」
「このお城は、八階建てですし。姫様のお部屋は、最上階にあるのですよ。もうすぐ螺旋階段が見えてきますから、そこから一階まで降りて目の前に玄関があります。そこまで頑張りましょう」
「八階って、エレベーターは無いの?」
「そんな設定はありません。今姫様は、キャミソール一枚という格好ですが、本来ならば来客時は何枚ものフリルがついたドレスでお出迎えしなければならないのですよ? ドレスは結構重量感がありますし、動きにくいですから、今から階段昇降の練習をしときませんと。ヴァレスト王国のお姫様が、華麗に階段も降りれないとなると、王家の恥ですし」
「……ちょっと待たんかい。何で私キャミソール一枚なのよ」
「さっき、この世界は乙女ゲームの中って言いましたけど、攻略対象者達の好感度を上げる為に彼らが好きな服でデートするイベントがあるんですよ。つまり、着せ替え要素があるんですが、初期設定はキャミソール一枚の格好ですので、そのままで部屋を出てきちゃったんですね」
「ですね、じゃないわ。専属執事なら、主人が恥をかかないようにするのが務めでしょうが。何普通に見送ってんのよ」
「けど、キャミソール一枚で裸足スリッパって、さすがにスースーして姫様も気付くと思うんですけど」
「確かに、何で私気付かなかったの!? ってか、服一枚で裸足なのに、スリッパだけ履いてるのキモっ!」
恐る恐る足元を見ると、本当に裸足スリッパだった。
お金持ちが好みそうな、ピンク色で柔らかな生地のフワフワモコモコスリッパだ。
言われるまで気付かない私、相当やばい。