ep. 9 : じゃんけん
エラの拳に殴られたモヒカンは空中で23回転しながら15メートルほど飛んでいった。
アーツスコアは10/10をあげたい。
「うっ…!姐さん…!一言の相談もなく、どうしてこんなことをするんですか?!」
「黙れ!!!!お前が一人分寝るスペースなら、二人は十分寝られるんだ!!!」
確かにモヒカンは、他のエルフよりもひときわ背が高く、体も巨大だ。
選ばれた理由を知ったモヒカンは、自分の筋肉を抱きしめて落ち込んだ。
「さあ、残りの7人も決めよう!今すぐ出発しなきゃいけないから!」
「今すぐ?急ぎすぎじゃないか?」
「2日以内に来させるには、今送らないといけないんだ」
「2日?さっきは3日って言ってたのに、なんで急に減ったの?」
「人数を増やすんだから、もっと早く来るのを目標にするのが当然だよ?」
(…俺が無駄な意見を言ったのか?)
ドワーフが死ぬかもしれないということで提案したが、まさかエラがまた2日に短縮するとは思わなかった。
目の前のエルフたちの本当に行きたくないような表情を見ていると、申し訳ない気持ちになる。
「姐さん!質問があります。」
前にいるエルフの一人が手を挙げて言った。
かわいい外見の短髪の女性エルフだ。
(女エルフもエラを姐さんと呼ぶんだな…)
「何だ、【モネ】!」
名前はモネのようだ。
「7人はどのように選ぶの?いつも通り?」
「うーん…俺もそれが悩みどころなんだ。いつもなら殴り合いで決めるんだけど、それだと時間がかかるから…。」
普段はこういう時は喧嘩で決めることが多いらしい。さすがに普通ではない。
「何かいい案はない?」
エラは隣にいた僕に意見を求めた。
「まあ…早くしたいなら、くじ引きが一番いいんじゃない?公平で早く結果が出るし。」
「くじ引きって、あまり運で決まるんじゃないの?」
「運100%だから公平じゃ。」
「運よりも、普段から自分が磨いた力や技術で勝負する方が公平じゃない?努力した者が結果を手に入れるから。」
…妙にしっくりくる言葉だ。
「でも、早く決めたいんだよね?それならくじ引きが一番早いんじゃない?」
「エルフは実力主義だから、くじ引きみたいなもので選ばれると、みんな納得しない。」
「でも、早くできるのはくじ引きか、じゃんけんくらいしかないんだけど、これもただの運でやるものだから……。」
「じゃんけんって何?」
「こうやって指で形を作って、こうして、こうして……」
エラにじゃんけんを説明した。
「これでいいじゃん、これにしよう。」
「これでいいの?これもほとんど運でやるけど……。」
「俺が見る限り、これは運じゃないと思うけど。これでいいから、ここの子たちにもやり方を教えてあげて。」
僕が知っているじゃんけんは運で勝負するゲームだ。唯一の運以外の要素は心理戦だけだ。
前のエルフたちにもじゃんけんを教えた。
2人…4人…6人…8人…全部で13人だね。
数えてみると、エルフは合計で13人、出ることが確定したモヒカンを除くと12人になる。
「参加人数はモヒカンを除くと12人だから、2人ずつでいいんじゃない?」
「はあ?何言ってんだ、11人だろ?」
「お前ら合計13人じゃないか?」
「俺は親分なんだから、当然ここに残るべきだ。」
「姐さん…。僕も副親分なんですけど…。」
「だからお前は行かなきゃいけないんだ、親分である俺が命じたんだから。」
エラの毅然とした姿を見て、モヒカンは再び落ち込んだ。
「…さっき、何か公正だとか言わなかったか?」
「うるさい!俺が残ることに不満がある奴がいるのか!?」
「「……」」
不満だけど我慢しているのか、本当に不満がないのかはよくわからないが、とりあえず誰も不満を言わない。
まあ、不満があっても、さっきのモヒカンが飛んでいく姿を見て不満を言うのは簡単じゃないだろう。
「じゃあ11人か…。でも、11人だから2人ずつやったら1人残っちゃうよ?」
その瞬間、落ち込んでいたモヒカンの目が輝いた。
「姐さん!!!それなら僕も参加します!!!」
「お前はダメだと言っただろ!」
「一度チャンスをください!お願いします!」
本当にどうしても行きたくないようだ。
「モヒカンが入ったらペアもぴったりだし、大丈夫じゃない?一人だけ副戦勝にしたら、それこそ不公平じゃん。」
「ダメだ。それにしても中が狭いのに、あの野郎の体格を見ろよ。」
モヒカンを見てみた。
確かにずいぶん大きい。
「席がないなら、僕は野宿でもいいんです!姐さん!!!」
「中で何を聞いたんだ…。団体でここで野宿になるくらいなら、外に出て荷物でも運びながら野宿したほうがいいと判断して、今こうしているんじゃないの…。」
「それなら立って寝ます!!!僕の鍛え上げられた脚の筋肉は寝ても緊張が取れません!!!立って寝かせてください!!!」
あれだけ欲しがるんだから、もうちょっと可哀想だね。
「とりあえず参加させてあげたらどう?これだけ欲しがってるのにダメって言ったら、後ですごく拗ねそうだけど…。」
僕の提案で無理矢理参加させてしまったようで、ちょっと申し訳ない気がして、エラにモヒカンを参加させるのはどうかと慎重に提案してみた。
「…ああっ!!とりあえずわかったわ、時間がないから早く始めよう!モヒカンとモネ、前に出てきて!君たちから始めよう!」
「ねえ、姐さん!僕、実はさっきの説明をよく聞き取れなかったのでよくわからないのですが、後回しにしてもらえませんか?見ながらルールを覚えます!」
「それはお前の責任だし、時間がないから早く出てきて。嫌なら抜けてもいいよ?」
「…いいえ、やります。」
モヒカンとモネが前に出てきた。
モヒカンは前に出てきて、ずっとモネにじゃんけんのことを聞いているが、モネは一切教えてくれずに無視する。
(副親分とはいえ、勝負の世界は冷酷だな…)
「審判はルールをよく知っている、広志!お前がやれよ。」
「これは審判なんて必要ないゲームなんだけど…。とりあえずわかった。」
モヒカンとモネが僕の前で向かい合った。
「じゃあ、さっそく始めましょうか。じゃんーけんーぽんー!」
二人の手が互いの前に出てきた。
モネが出したのは拳、そしてモヒカンも同じように拳だ。
しかし…。
「…モヒカン失格。」
「ええっ?なぜですか?」
「モネが出したのを見て遅れて拳を出したんでしょ。『ぽんー!』のタイミングで出すべきだったんだよ。遅かったから失格だよ。」
「初めてだからよくわからなかったんです。もう一回だけチャンスを…」
「みんな初めてなんだから、ぐだぐだ言わずに早く出発の準備をしろ!」
横でゲームを見ていたエラが一喝した。
「くっ…。残念だけど、これも勝負だから、結果を受け入れます。」
モヒカンはモネがグーを出すのを見て、グーを出した。
「モネのグーを見て出したのに、パーを出さなかったところを見ると、どんな手の形があるのかもわからず、モネの手の形を真似していたようだ。」
(本当に全く知らなかったようね。)
せっかくチャンスを掴んだモヒカンは、こうして むなしくチャンスを逃してしまった。