ep. 7 : エルフの正体
エルフがこの森に住むことになった日の午後、久しぶりに女神が店にやって来た。
「女神様、久しぶり。何の用事なの?」
「さっき午前中、ここで誰かが私を呼ぶ合図があったから来たんだけど、おかしいね。」
「僕は呼ばれてないけど?」
「知ってるよ、合図が来たら誰が送ったかすぐにわかるんだ。でも、これは誰から来たのかわからないんだ…場所はここなんだけど、もしかして午前中に誰か来たことあった?」
「エルフたちが来てたよ。」
「エルフ…?私はエルフに私に合図を送ることができる祝福を与えたことはないんだけど…。エルフ以外いなかったの?」
「ええと、今日はエルフだけだったね。」
「おかしい…」
女神は椅子に座って考え込んでいた。
(そういえば女神に話したいことがあるんだけど…まずはこれから聞いてみようか?)
「女神さん」
「ん?」
「今日来たエルフたちが僕の後ろにある扉について知っていたけど、説明してくれる?」
「どういうことだ?エルフが扉のことを知っているって?」
(何だ、女神も知らないのか?)
「えーと、扉のことを知っていて、この扉を守るためにこの森に住みたいって言ってたの。」
「エルフが扉のことを知っているなんて不思議だな…この世界にあの扉のことを知っている人はあなた以外にいないはずなのに…。そして、扉を守りたいって?」
「何か心当たりはないの?」
「…え?!もしかして…?」
何か思いついたみたいだ。
「これなら、ここから合図が来たのも、エルフたちが扉の存在を知って、守ろうとしているのも、全て説明がつくよ」
「何だ?」
「実はこの森を最初から封印していたわけではないんだ。ずっと昔、この大陸には人間がいなかった。」
「あ、それは知っている。後で人が入ってきてしばらくして封印されたんだよね?」
「そう。でも、いくらここに人がいなくても、扉だけにしておくわけにはいかなかったの。魔物や亜人は知らないうちに突然現れることもあるから。だから、万が一に魔物や亜人から扉を守る存在を作る必要があったんだ。」
「…もしかしてそれがエルフなの?」
「いや、私が作ったのは魔物だ。強力な魔物を作って、扉とその周辺を守らせた。」
「魔物?」
「扉を守るために最強と言ってもいいくらい強力に作ったの。ここに人間がいない時は、その魔物たちでうまく維持できていたが、この大陸に人が入ってきて国が建ち始めると、むしろその魔物の存在が人間を扉に引き寄せた。」
「引き寄せた?避けているんじゃなくて?」
「その魔物を狩ろうとする人間がいたが、絶対に勝てなかったから。しかし当時、強さに挑戦したい変態のような人間たちが、この森に絶え間なく押し寄せてきて、その魔物たちに挑戦していたんだ。扉を守らなきゃいけないのに、むしろ魔物のせいで人が集まってきて、扉を守るのに不向きだと思ったから、魔物たちの代わりに結界にしたんだ。」
「じゃあ、その後、あの魔物たちはどうしたんだ?」
「…モレナ山脈に放牧しておいた。」
「…ペットの遺棄なんだね?」
「遺棄じゃなくて放牧だよ!」
「うう~動物捨てるゴミ女神~うう~~~」
「とにかくあの時、モレナ山脈に放牧したあの魔物が進化してエルフになったんだと思うんだけど、今思えばその魔物を使い続けると思ったから、特に寿命を決めていなかったんだ。」
「魔物は進化もするの? それって、完全にポケッ…」
「そんなことないよ、お前の世界でも進化はしてるだろ。お前の世界では人間も進化の産物だし…ただ、ここでは魔力の影響で進化が突然行われるってだけだよ。」
僕たちの世界では進化は少しずつゆっくりと起こるが、この世界では魔力の影響で進化が一気に起こるようだ。
「エルフが、自分たちは扉の向こうから来た者を攻撃できないって言ってたけど、これもお前がそうさせたのか?」
「そう。あの魔物たちには、扉の向こうから来た者は絶対に攻撃できないようにしたんだ。他の世界から来た者を殺してしまったりすると困るからな。その代わり、その魔物の隊長には私を呼び出す能力を与え、扉の向こうからお前の世界の人が来たら、すぐに私に合図を送るようにしたんだ。殺すまではいかなくても、記憶を消して送る必要があるからね。」
「あー、だから合図が……。」
「そうだ。たぶん、扉の向こうからここに来た君を見て、本能的に私に合図を送ったんだと思う。私が能力を与えたのは魔物なんだけど、その魔物がエルフに進化してしまったから、誰が合図を送ったのか、私がわからなかったんだ。」
「…せっかくの神の祝福なのに、エルフに進化したからって誰が呼んだのかわからなくなるのは、あまりにも雑じゃない?」
「仕方ないでしょ!今まではこんなことなかったんだから!問題点がわかったから、すぐに改善できるわよ。」
「でも、僕が来たのは朝だし、呼んだのは朝なのに、なんで今更なの?」
「前にも言ったけど、すぐに行くと暇そうに見えて威厳がなくなるから、君以外は合図が来てもすぐには行かないんだ。」
そういえばこの前、女神は僕の合図にはすぐに来てくれると言っていた。
(今日、エラに脅された時に合図を送ればよかったかな? 完全に忘れていた)
「じゃあ、すべての疑問が解決したので、私は行くわよ」
「え? ちょっと待て。違うだろ。全ての疑問が解決したって? 一番大きな疑問が残ってるんだけど」
「え? それは何?」
「商売がうまくいくって言ってたよね。」
「くっ…!?」
「女神様が封印が解けたら人が集まってきて商売がうまくいくって言ってたけど、どうしてお客さんはおろかハエすら来ないんだろう?俺、最近暇すぎて、今まで読まなかった本を読み始めたんだ。すごい分厚いやつ。1,000ページを超えるやつ。でももう読み終わったよ。」
「お前こそ、これがこの世界の技術を向上させるためのものなのか?これは完全にコンビニだろ?」
「とりあえずお金を稼がないとそんなものまで持ってきて売れないのに、お客さんが来ないからお金が稼げないじゃん」
「ちょっと待てよ、今は条約のせいで各国が沈黙してるから、封印が解けたとしても信じられないんだろう。国民からしたら森の封印が解けたのに全ての国がじっとしているなんて、意味がわからない状況なんだ。あと2週間後には状況が変わるかもしれない。確信はないけど…」
「…わかった、待ってみるよ。今は他の仕事もできないし、異世界生活も楽しいから。」
お金はあまり稼げていないけど、異世界の生活は楽しいだ。今まで仕事ばかりしてきた自分に余裕を与えてくれたし、同時に新たな刺激を与えてくれる。
(今日はエルフにも会えたしね…)
「楽しかったようで良かったわね…。よし!せっかくだから、どんなものを売っているのか食べてみよう!ラーメン一杯だけ作ってくれよ」
「いきなりラーメン?」
「ダメ?」
「いや大丈夫、種類がたくさんあるんだけど、どれにする?」
「何でもいいから、君のおすすめをいただくよ。」
「…わかった、ちょっと待ってくれ」
僕はインスタントラーメンが大好きだ。
好きなラーメンはいくつもあるんだが、その日の気分によって微妙に変わる。
そして今日はなぜか激辛焼きそばの気分だ。
僕はちゃんと何を食べるか聞いたんだから、辛くても私のせいじゃないんだから、恨んじゃダメよ、女神さん。
僕は店からカップラーメンを一つ持って家に帰り、調理を始め、調理が終わった後、箸と一緒に女神に渡した。
「ん?箸ね?」
「あ、お前箸が使えないのか? フォーク持ってくるか?」
「いや、使えるよ、ただこの世界で箸を見るのがちょっとぎこちないんだ」
たしかに、神にしては少し不器用に見えるが、それでも神なのに箸一つ使えないなんてことはないだろう。
「じゃあ、食べてみようか!」
女神は箸を手に取り、すぐに激辛焼きそばを口に入れた。
「…どう?」
「うーん、美味しいね」
「美味しいって…?辛くない?」
「プッ…」
辛くないのかという僕の質問に、女神は急に苦笑いを浮かべた。
「…お前は人生楽して生きてきたんだな、何が辛いんだ、神の人生の方がずっと辛いよ。苦しいことをたくさん経験していると、これが辛くなく甘くなるんだよ。」
…本当に神じゃなかったら一発殴っちゃうわよ。
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「あ~ご馳走様!」
女神はいつの間にか器を空にした。
「ごちそうさまでよかったね」
「じゃあ、私はそろそろ行くわよ、誰が合図を送ったのか疑問も解けたし。」
「そうそう、値段は...1シルバーだから、銀貨1枚でいいわよ。」
「え? 何が?」
「ラーメンの値段1シルバーだよ」
「…お金もらうため? 私たちの間で…?」
「お前が店に入ってきてラーメンを頼んだし、おいしく食べたんだから、お金を払うのが当たり前じゃないの?」
「私、お金ないんですけど… いや、そもそもラーメン7ブロンって書いてあったのに、なんで急に1シルバーなんだよ! 詐欺じゃないの?」
「あれはラーメンだけ買った時の話で、今回は僕が自分で調理してあげたんだから、調理費まで含めて1シルバーだよ。」
「…ツケにしてもいい?」
「もちろんダメだよ…」