ep. 32 : 提案
「エルフの皆さんがフェンリルの食料を?全然知りませんでした。」
エラの言葉に、ドワーフたちはみんな驚いた顔をしている。
「俺たちも別にフェンリルが好きで食料を与えていたわけじゃないよ…そうしないとモレノ山脈が混乱するから仕方なかったんだ。」
(なんでだろう?ご飯を与えないと暴れたりするのかな?)
ちょっと考えてみたけど、もしそんなことをしていたら、エルフたちの性格なら我慢できずにすぐにでも殺してしまっただろうと思う。
「フェンリルはモレノ山脈のどの魔物よりも比較にならないほど強いけど、フェンリルは他の魔物を狩るのが難しいんだ。それで俺たちが食料を与えていたんだ。」
エラの言葉が理解できなかった。
「それってどういう意味?強いなら狩りが得意なのは当たり前じゃない?」
「普通ならそうだけど、フェンリルは他の魔物に比べて過剰に強力だから、フェンリルの生息地の近くにはどんな魔物も現れない。来ても戦う前に狩られてしまうからね…だからフェンリルは狩りをするには生息地から遠くまで出ていかなきゃいけないんだ。」
「でも、そんなに強いなら、少し出かけて狩りをしても大した問題ないんじゃない?」
「問題はフェンリルが遠くに出ると、他の魔物たちもフェンリルを避けてさらに遠くに行ってしまうことだ。それで魔物たちが亜人たちの領域に侵入することになるんだ。」
「あ…だから君たちがフェンリルに…」
「そうだ。そんな状況が起こったとき、力が強かったり能力がある亜人なら問題ないけど、そうでなければ魔物によって被害を受けることになる。だから俺たちはフェンリルの食料を与えていたんだ。フェンリルが生息地から遠くに出なければ、他の魔物も遠くに行かず、亜人たちもその影響を受けることがないからね。」
「フェンリルに食料を与えるだけで、魔物による被害を抑える効果があるなんて、私たちは知りませんでした…さすがです、エラ様!」
「そんなに大したことじゃない。長い時間を生きていると自然にわかるようになるだけだから。」
その間にエルフたちと過ごしながら、一つ分かったことがあった。
エルフたちは実はとても情が深い。
口は少し荒いけど、仲良くなると誰よりも相手を思いやり、気を使ってくれる。
フェンリルに食事を与えて周りの亜人たちを守っていたのも、実はエルフたちの立場ではしなくてもよかったことかもしれないが、亜人たちのためにやっていたことだ。
「エラ…」
「ん?」
「知らなかったけど、エルフって実はすごくいい奴なんだな?」
「…知らなかったってところで殺してやりたい」
繰り返し言うけど、口はちょっと荒い。
「まぁ…まずはさっきの話を続けよう」
エラは僕を睨んでいた視線をやめ、再びドワーフたちと話を続けた。
「それで、今避難しているドワーフたちはどこにいるんだ?」
「今は近くの獣人族の村に避難したそうですが、あまり長くは居られない状況だそうです。」
「うーん…獣人族は心優しいから手伝ってくれるだろうけど、獣人族も余裕がないから…」
「はい、その通りです…お世話になっても2日くらいでしょうね…」
重苦しい雰囲気がさらに重くなったようだ。
「…とにかく、すまなかったな。俺たちがここに移住する前に魔物たちに対する対策を取っておくべきだった。」
「いえ!エラ様!これはエラ様が謝ることではありません!」
「いや…この森に移住することだけに気を取られて、フェンリルのことを忘れてしまっていた。フェンリルも1週間以上食事を与えられなかったから、村を襲うしかなかっただろう…俺がエルフの代表として謝るよ。」
エラはドワーフたちに謝罪した。
実際、先ほどエラが言ったように、エルフがモレノ山脈の魔物を管理していたのはエルフの善意からだったので、謝る必要はなかったと思うが、エラは一夜にして村が消えてしまったドワーフたちに対して少し申し訳ない気持ちを抱いているようだ。
エラと長い時間を過ごしたわけではないが、謝っている姿を見るのは初めてで新鮮だった。
「…意外と謝ることもできるんだな?」
「は?」
(あ…心の中で考えたことが口に出てしまった…)
「いや…謝っている姿を見たのが初めてだから、新鮮だなって…」
「…最近思うんだけど、君、なんか調子に乗ってる気がする。俺が君を殴らないってわかってるからか?」
エラの恐ろしい顔と共に、体から殺気が滲み出てきた。
「違うよ、冗談だよ…ははは…お願いだから落ち着いて…」
「…今はドワーフたちのことが急務だから、今回は見逃してやるけど…後で覚えておけよ」
幸いにも、エラは殺気を収めてくれた。
(ふう…助かった)
最近、エラにちょっと調子に乗りすぎた気がする。
自重しなきゃいけないって分かっているけど、正直楽しいからうまく調整できない。
「じゃあ、あのフェンリルはどうするつもりだ?」
殺気は完全に収まったが、まだ顔が良くないエラに尋ねた。
「正直、普通の魔物なら何もしてやるつもりはなかったけど…フェンリルだと分かってしまった以上、そうもいかない。」
「もしかして、何か方法があるのか?」
「俺が直接行って処理する」
「本当ですか!?エラ様!」
「…本当なの?」
エルフたちはまだこの森を絶対に離れたくないようだ。
もちろん、エラもそうだ。
「正直、行きたくないけど、フェンリルをどうにかしないと、こんなことは繰り返される。対策なしで無計画にここに来た俺のミスでもあるから、これ以上の被害が出ないように、最も早い俺が行って、早く終わらせて戻る。」
「本当にありがとうございます!エラ様!!!」
「「ありがとうございます!!!エラ様!!!」」
ドワーフたちは涙を流しながら、エラに感謝の言葉を述べた。
「よし…エラのおかげでフェンリル問題は解決したけど、しばらくドワーフたちの住む場所が問題だな。今避難したという獣人族の村には、もう長くは居られないって言ってたよね?」
「そうだね…獣人族に迷惑をかけたくないから、早く別の場所を探さなきゃいけないけど、なかなか難しいね…モレノ山脈の他の村も、僕たちを受け入れられるほどの余裕があるわけじゃないし。みんな大変な状況だ…」
(…亜人たちはどうしてあそこに村を作って住んでいるんだろう?魔物のせいで苦労してまで住む価値がある場所なのだろうか?)
疑問は湧いたが、わざわざ尋ねることはなかった。
今、ドワーフたちが抱えている状況に、そんなことを聞く時間はない。
「村が廃墟になってしまったから、村を再建しなきゃいけないね?」
「どうやらそうなるだろうね…その間は野宿でもしなきゃいけないだろうけど…僕たちは大丈夫だけど、子どもたちが心配だ…」
「…それなら、この森に来てみない?」
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