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ep. 30 : 絶対必要なもの

「広志さんが聞いたから思い出したんだけど、これは絶対広志さんに伝えなきゃいけないと思ってたことなんだ。」


「…なんだ?」


緊張した表情でランディさんに尋ねた。


「…この店に絶対必要なもの」


「うん?」


「前回、侯爵様がここは商品も良いし価格も悪くないのに、お客さんが来ないのが残念だって言ってたでしょ。帰り際にその理由がわかりそうだって言ってたんだ。」


「おお!なんだ?」


想像していた答えとは違うけど、絶対に聞きたかった言葉だ。


「馬車」


「馬車…?」


予想外の答えだった。


「ここに来る道は、ホイスト王国とジャフード王国を繋ぐ道の途中に繋がってるんだ。言ってみれば、ホイスト王国とジャフード王国の両方から行き来できる場所とも言えるけど、実際に考えてみるとそうじゃないんだ。」


「どうして?道が遠いから?」


「それってわけじゃなくて、みんなが個人の馬車を持っているわけじゃないから。」


「僕が知っている限り、ホイストとジャフードを行き来する馬車があるはずだよ。個人馬車がない庶民はそれに乗って移動するんじゃなかったっけ?」


「それはあるけど、1日2回しか運行されていない。ホイストを出発し、ジャフードに寄った後、また戻る馬車と、逆にジャフードを出発してホイストに寄ってから戻る馬車が、それぞれ1台ずつだけだ。」


僕が知っている通りだ。


「つまり、ここに来るために途中で馬車を降りて別の馬車に乗れなかったら、その日は家に帰れないってことだ。」


「そうか…!!!」


どこかに行くときに重要なことの一つは交通手段だ。


単に道を行き来する馬車があるから大丈夫だと思っていたのが間違いだった。


「だから、客を増やすためには、ここからホイスト王国とジャフード王国まで行ける馬車が毎日定期的に運行される必要があるんだ。」


来ることはできても帰れるかどうかが不透明なら、誰だってここに来るのを躊躇するだろう。


考えてみればとても当たり前のことだけど、その間全く考えもしなかった自分がバカみたいだ。


「馬車…言われてみると必要だなぁ。でもお金が…」


馬車を運行するには馬と馬車、そして馬車を運転する馬夫が必要だ。


正確にはわからないけど、どれも安いわけじゃないだろうなと予想できる。


「まぁ…お金がかかるだろうな。そしてお金をかけて馬車を運行しても、客が増えるかどうかは保証できないから、簡単に決められる問題じゃないだろう。」


「うーん…とりあえずありがとう、問題点がわかったよ。ちょっと考えてみるね」


「それと、これは僕たちもわかっていた問題なんだけど、後作様がここに人々の目を引く楽しめる場所を作るべきだって言ってたんだ。物がいくら良くても、それだけでここに来るのは難しいだろうってさ。」


「やっぱり後作様もそう感じていたんだな…これも考えてみるね。」


「うん、まあ、それじゃあガムも持ってきたし、後作様のペンも受け取ったし、僕は帰るよ。」


「ちょっと待って!後作様からまた何か言われてなかった?」


「え?ああ…ここにいるエルフのことも気になってたみたいだから、いろいろ説明してあげたよ。」


「ランディさんが?何て?」


「ただアルデンから聞いた内容そのまま伝えたんだ。エルフに偏見を持っている人にアルデンが言ったことを言ったら、みんなエルフについてもう一度考え直すようになったって言ってたから、僕もそれを広めてるんだ。」


(ああ…アルデンが適当に言ったあの言葉を広めてるんだな…)


ランディさんはエルフが怖いというイメージをなくすために頑張ってくれていた。


エルフがここに住んでいる以上、商売をするためにもエルフのイメージ改善は絶対に必要なことだ。


「そうなんだ…ありがとう!他に何かなかった?」


「それ以外は特に何もなかったよ…もしかして、聞きたいことでもあるの?」


「実は貴族に会うのは初めてで、後作様に失礼がなかったか気になってさ。」


素直に気になったことを聞いてみた。


「あー、それは心配しなくていいよ!むしろ、良い物を安く売ってくれる商人を見つけたって喜んでたから。」


「そうか、それなら安心だな。」


「うん、じゃあ僕は本当に帰るよ!後作様にペンを渡さないといけないから急がないと。」


「気をつけて帰ってね、ランディさん!」


.

.

.


ランディさんが帰り、夜になった。


「広志、今食事はできるか?」


ドワーフたちが久しぶりに店に来た。


「え?みんなどうしたんだ?店に集まって?」


「工事が今日で全部終わったから、ずっと食べたかった美味しいご飯を食べに来たんだ。」


「もう終わったの?すごく早いね。」


ドワーフがここに来て、たった8日しか経っていなかった。


「まだ完全に終わったわけじゃないけど、乾燥させる作業だけが残っているよ。まぁ、俺たちがやることは全部終わったってことだ。」


「そうなんだ…じゃあ、座って待ってて、すぐに美味しいの作るから。」


ちょうどインスタント食品が家にあるから、それを温めて出せばいいかもしれない。


「楽しみだな、ははは…ん?スライムから念話が来たのか。」


アドソンさんはスライムを通じて念話が来たのに気づき、小さな巻物をスライムに投げてあげた。


すると、スライムはその巻物を体内に入れて、巻物にあらかじめ塗られていたインクを使って文字を書き始めた。


(ああいう方法で念話を受け取るんだな…)


すべての文字を書き終えたスライムは、体内にあった巻物を取り出し、アドソンさんに渡した。


「ありがとう、スライム!さて、うーん?」


アドソンさんはスライムから受け取った巻物を読んで、顔が急に暗くなった。


「う…うそだろ…!」


「どうしたんだ?アドソンさん、何かあったのか?」


「今すぐエラさんを呼んでくれ!!!」


アドソンさんは青ざめた顔で、扉の前に立っていたフローラに叫んだ。


「お願いだ!!急いでくれ!!!」


叫ぶアドソンさんの目には涙が浮かんでいた。

読んでいただきありがとうございます。

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