ep. 3 : 商人ランディ
昨日は神殿関係者を送り返した後、家に帰り、そのままスーパーに向かった。
僕が選んだ売り物は食料品である。スーパーでお菓子、インスタントラーメン、キャンディーなどをたくさん買ってきた。
簡単に手に入るし、安く手に入るものだ。
そして、売れなくても僕が食べれば損害はほとんどない。
これも食品類を選んだ理由だ。
「じゃあ、今日も行ってみようか!」
両手に売り物を抱えて、小さい部屋のドアを開け、中に入った。
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異世界の店内 昨日と変わらない様子だ。
「まずは商品を陳列しよう」
陳列棚にお菓子、インスタントラーメンなどを陳列し、カカウンターの隅にガムやゼリー、キャンディーを置いた。
「…コンビニだな」
陳列を終えると、店内はコンビニエンスストアになっていた。
こうなることは予想していたが、予想以上にコンビニっぽすぎる。
「…そういえば、食料品を売ったからといって、ここの技術が進歩するのかな?」
技術の進歩が少しもなされなさそうな販売品に女神に少し申し訳ないが、仕方ない選択だった。
「まあ、今は仕方ないお金がないからね。とりあえずこれで資本を集めてから、もっといいモノで埋めよう。」
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[3日後]
「ダメだ…」
3日間誰も来なかった。
「詐欺師みたいな女神…」
きっとうまくいくと言った女神が恨めしい。
「呼んで文句を言おうかな…。」
[キーキー]
「いらっしゃいませ!」
やっと初めてのお客さんが来た。
「えっ、君が店主なの?」
「はい、そうです。」
「なんで敬語を使ってるの?一一見すると、ここは神殿っぽくないけど…僕は貴族じゃないから、敬語を使わなくてもいいよ。それとも、俺が王族に見えるの?」
男性の話を聞いてみると、ここでは神殿や貴族、王族でない限りはタメ口で話すのが普通らしい。
「あ、ごめん、こっちの出身じゃないから知らなかった。」
「こっちの出身じゃないってことは、他の大陸から来たってことなの?」
「…まあ、そういうことだ」
嘘ではない。
「そうか、俺の名前は【ランディ】だ!商人をやってる。荷物を積んでホイスト帝国に向かって移動してたら、見たことのない道があったから入ってみたんだ。」
「俺は金沢広志。金沢が苗字で、広志が名前だ。」
「広志さん、ここは何をしているところ?食堂なの?」
「食堂じゃなくて、雑貨店みたいなところなんだけど、今は食料品をメインに販売してるよ。」
「ああ~そうなんだ、ちょっと見て回ってもいいかな?」
「もちろんだよ、ゆっくり見て回ってね。」
ランディさんは店内に陳列されているものを見始めた。
「ジャガイモで作ったお菓子って…食事にもジャガイモを使っているのに、おやつまでジャガイモというのはちょっと…ね。」
品物の説明は、僕があらかじめ異世界語で書いて、品物の前に貼っておいた。
値段はお菓子、ラーメンは7ブロン(7童話)、お菓子やゼリー、ガムは5ブロン(5童話)にした。
ちなみに以前、女神が異世界の貨幣価値を教えてくれたことがある。
完璧に当てはまるわけではないけど、小童話は十円、童話は百円、銀貨は千円、金貨は万円程度と考えるとわかりやすいって言ってた。
例えるなら、インスタントラーメン1個が700円もするので、ちょっと高いなと思うかもしれないが、これらはここでしか買えないものだから、これくらいの値段でも十分価値があると思う。
「広志さん、このガムって何なの? 説明を読んでもよくわからないんだけど?」
さっきまでお菓子を眺めていたランディさんがふとガムに興味を持つ。
「あ、それは……」
説明は書いてあるが、ガムに触れたことのない異世界人にガムを文章で説明するのは簡単なことではない。
ちなみに僕が書いたのは「飲み込まずに噛む食べ物。噛むたびに甘味が出る」だ。
「食べ物なのに飲み込まないの? それじゃあ食べる意味がないんじゃないの?」
「タダであげるから、試してみない?」
説明するのは難しいから、直接体験させてみることにした。
「お!ありがとう!」
ガムの包装をはがして、ランディに渡した。
「飲み込まずに噛んでみて。」
「わかった。」
ランディさんはガムを受け取るとすぐに口に入れた。
「どうだ?」
「うーん?これは味もいいけど、食感がすごく独特だね。」
「噛むたびに出てくる味と香りを楽しむ食べ物だよ。」
「いつまで噛むの?」
「…噛みたくなるまで噛むんだ。」
ランディさんは、何だか理解できない顔でガムを噛み続けた。
「珍しいだろ? 腹を満たすための食べ物じゃなくて、噛むたびに出てくる甘みを楽しむための食べ物なんだ。また、運転中に眠気を追い払うために食べたりもするんだよ。」
「…これって、馬車を運転するときに眠気を追い払うための食べ物なの?」
「そういう目的で作られたわけじゃないと思うけど、そういう効果があるんだよ。」
「広志さん、このガムはどれくらいあるの?」
「え?今はここにあるのが全部だけど…必要ならもっと買ってきてあげるよ。」
「ここにあるものを、俺が買って他の街で売りたいんだけど、いいかな?」
「あ…。ランディさん、商人だって言ってたよね。」
「…ダメかな?」
「いいよ!その代わり、封印された森にある雑貨店で手に入れたものだと明かしてくれ、それが条件だ。」
実は悩む必要もなかった。今は客もいないから、ランディさんに大量に売ることができるなら大歓迎だ。
でも、こうすればランディさんに大量に売ってお金も稼げるし、店の宣伝にもなる。
「え?広志さん、今なんて言ったの?封印された森…もしかしてここが封印された森?」
「そうだよ、ここが封印された森だ。もしかして知らずに来たの?」
「ここが封印された森?封印された森にどうやって人が入ることができるの…それより、僕はどうやってここに入ったの?」
「ああ、封印は俺が解いたんだ。今はただの森だ。」
「広広志さんが森の封印を解いたの!?」
「そう。」
「何でそんなに淡々としてんのよ、これは大事件なのに。」
「森の封印が解けたことがそんなに大事件なの?」
「そりゃそうだ!!!」
「でも、なんでみんな来ないの?お客さんはランディさんが初めてなんだよ。」
「たぶん知らないからじゃないかな?俺も新しい道が見えたから入ってみただけで、封印された森に通じる道だとは知らなかったんだ。」
「やっぱり宣伝不足なのかな?」
「それに、今は【モレナ山脈】から魔物が降りてくるって話で、道に馬車もほとんど通ってないから、その影響もあるかもしれないね。」
「モレナ山脈?」
「あ、広志さんは別の大陸の人だから、分からないんだね。モレナは北にある山脈の名前なんだけど、魔物が湧き出る山で、そこには魔物だけでなく、亜人もたくさん住んでいるんだ。」
「亜人って、ドワーフや獣人族みたいな種族のことだよね?」
「もちろんそうだよ。」
「北って…じゃあ、モレナ山脈はマドニ聖国の方にあるの?」
「いや、マドニ聖国は北のほぼ端っこで、モレナ山脈はホイスト帝国とジャフード帝国を結ぶ直通の道から北にそれほど遠くないところにある。」
「あーそうなんだ。でもランディさんは魔物が降りてきてるのに、こんな風に歩き回っても大丈夫なの?」
「ああ、俺は防御魔法が使えるから大丈夫だ。馬車全体を防御魔法で包んで走れば、大抵の魔物は防げる。実は商人をやる前は軍で【魔導兵】(魔法で戦う兵士)として働いてたんだけど、だからといって戦闘が得意ってわけじゃなくて、後方で防御魔法や結界で軍を守る役目だった。」
「うわぁ~、ランディさんってすごい人だったんだね」
「いや、広志さんの方がすごいよ。一体どうやって封印された森の結界を解いたんだ?」
「…拍手。」
「拍手…って、どういうこと?」
「拍手したら解けたんだよ。」
「…本当に?」
「うん、本当だ。」
その拍手を僕が打ったとは言っていないから、嘘ではない。
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僕は事実だけを言ったけど、ランディさんは最後まで信じてくれなかった。
ランディさんは結局、聞くのを諦めて、購入したものを馬車に積み込み、出発の準備をした。
「本当に3日後まで準備できるの?」
ランディさんは商品を購入しながら、今日購入したものの3倍程度を追加で欲しがり、僕は3日後なら可能だと答えた。
本当は明日でも良かったけど、あまり早くてもおかしいと思われるかもしれないから、3日後と答えた。
「可能だから、あまり心配しないで。」
「わかりました、じゃあ3日後に会いましょう。」
「気をつけて帰ってね。」
これがランディさんとの初対面だった。