ep. 29 : 聞いてみたかったこと
A4用紙を購入したエティエン侯爵とランディさんは、帰るために店の外へ出て馬車の前に立った。
エティエン侯爵にA4用紙30枚とボールペン一本を売り、合計13ゴールドを稼いだ。
かなり稼いだものの、何か損をしたような気分だ。
「しかし、ここは客が少ないと聞いていたが…こんなに良い物を安く売っている店なのに、客が来ないとは残念だな。」
「正直、私としてはそんなに安いとは思えませんが…」
A4用紙を一枚千円、ボールペン一本を10万円で買うなんて、僕たちの世界の感覚からすれば絶対に安いとは思えない価格だ。
「まあ…一般庶民には高く感じるかもしれないが、今日買った紙やペンは贅沢品ではないか。贅沢品なら高価なのは当然だ。もし他の場所でこの商品を買っていたら、少なくとも倍は払わなければならなかっただろう。」
侯爵様にとっては安く買えて嬉しいだろうが、僕は半分も損をした気分だ。
「私もこの店を宣伝しているのですが、なかなか人が来ません。物も良いし値段も適切ですが、やはり立地が悪いのが原因ではないかと思います。」
「立地か…封印された森に希少なものを売る店があると言っても、庶民は信じないだろう。庶民は封印された森の封印が解かれたことすら知らないだろうからな。」
エティエン侯爵はホイスト王国の貴族で、【イルージア】という町がある辺境と接している領地を管理しているらしい。
ホイスト王国とジャフード王国を直通で結ぶ道が繋がっている場所なので、外部の人々が多く、非常に活気があり賑やかな町だそうだ。
「庶民が知らないということは…貴族の方々は知っているということですか?」
「少なくともホイストの貴族たちは皆知っている。この森の封印が解かれたことを知ったその日から今に至るまで、この大陸のすべての国が君に会う日を楽しみにしつつ、忙しく動いているのだ。実は僕も君のことをとても気にしていたんだ。」
(…どんな方向で忙しく動いているのだろう?)
軍を慌ただしく動かしているのではなければいいが。
「慌ただしく動いていると聞いて、少し怖いですね…」
「条約の関係で今の時点では詳しくは言えないが、心配しなくてもいい。ともかく、今日は本当に良い物を手に入れた!次はもっと買いたいのだが、準備できるか?」
「はい、できるだけ早く準備しておきます。」
「よし!我々は帰るとする。三日後、ボールペンを頼むぞ。」
「はい、期待していてください。」
「三日後に僕が来るから、その時にボールペンを僕に渡してくれ。ガムを買いに来るついでに侯爵様に届けることにしたんだ。」
「わかった、ランディさん。三日後に会おう。」
こうして、エティエン侯爵とランディさんは豪華な馬車に乗って帰っていった。
エティエン侯爵とランディさんを見送った後、店内に戻ると面倒な奴らがいなくなってすっきりした顔をしているセレスがいた。
「やっと帰りましたね〜。すごくイライラしました〜。兄貴がいない時に扉を触ろうとしていたので、手首を切り落としてやろうかと思いましたが、何とか我慢しました〜。」
「セレス…だからって、侯爵様に悪口を言うのはダメだろ…」
「うーん……やっぱり間違った行動でしたか?」
「もちろんだよ。」
セレスの反応を見ていると、幸い、僕の言葉に納得しているようだ。
「やっぱり、言葉よりもすぐにぶん殴った方がいいですよね?」
「え?いや、そういう意味じゃなくて…」
「次からは警告なしで、すぐみぞおちにパンチをぶち込んでやります!」
「……悪口でいいよ、その方が良さそうだ。」
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3日後、ランディさんが店にやってきた。
「広志さん、久しぶりだね!」
「おお、ランディさん。侯爵様のボールペンを取りに来たんだろ?」
「うん…でもまず、ガムを全部くれ。前回買うべきだったんだけど、侯爵様と一緒に来てたから…」
普段、3日ごとに店に来ていたランディさんが前回遅れて来た理由がわかった。
ランディさんは普段通り3日ごとに来ようとしたが、この店に来ようとした時にエティエン侯爵に呼ばれて来れなかったらしい。そして、翌日に侯爵様と一緒に来たのだ。
「前回買えなかったから、倉庫に備蓄してたガムがほとんどなくなってしまったんだ」
「そうなると思って、たくさん準備しておいたよ。」
「さすが!広志さん!」
ガムは馬車の運転中に眠気を覚ますための食べ物として知られ、御者たちに人気があるそうだ。
前回、侯爵様の馬車で一緒に来た時にガムを持っていけなかったので、今日はたくさん買っていくかもしれないと思い、普段より多めに準備しておいた。
「さあ!いつもの倍だよ!」
準備していたガムをランディさんに渡した。
「ありがとう、広志さん。これ、まず馬車に積んでくるよ。」
「僕も手伝うよ。」
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ランディさんと一緒にガムを馬車に積んだ後、再び店に戻った。
「広志さん、侯爵様のボールペンは準備できてる?」
「うん、ちょっと待ってね…」
準備していたボールペンをランディさんの前に出した。
「さあ、これが侯爵様のボールペンだよ」
「おお…なんか高級そうだな…」
貴族に売るものだから、四角いケースにきれいに包装されたデザインのボールペンを選んだ。
「一度見てみる?」
「いや!侯爵様に渡すんだから、ここで開けちゃダメだよ!」
「大丈夫、蓋だけ開けるから、取り出すわけじゃないよ」
蓋を開けて、ランディさんにボールペンを見せた。
「前のやつとはちょっと形が違うね?」
「やっぱり貴族が使うものだから、デザイン的にもう少しきれいで高級感のあるものにしてみたんだ。」
「確かに…前見たやつよりちょっと良さそうだね」
「見た目は違っても、機能や使い方は同じだから、侯爵様にもそう言っておいて」
「わかった」
蓋を閉めて、ランディさんに物を渡した。
「…あの、ランディさん」
「うん?」
実は今日はランディさんが来たら聞いてみたかったことがあった。
「前回、侯爵様と一緒に帰ったとき、侯爵様、何も言ってなかった?」
エティエン侯爵とランディさんが帰った後、この世界の作法を知らない僕がもしかしたら失礼なことをしてしまったのではないかと、ずっと気になっていた。
(セルレスがあんなこと言ったのも気になるし…)
貴族…しかも侯爵だし、気分を害されてはいけないと思った。
「ああ…そういえば……」
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