ep. 27 : 侯爵様
「ラン…ランディ…さん…」
「ん?広志さん、どうしたの?」
今、僕の顔はまさに驚愕そのものだ。
「走ってきたの?いや…ここでセルレスさんに、ゆっくり来ても大丈夫だって念話を送ってもらうようお願いしたのに、もう出発したって聞いたんだ…」
エラとの会話でわかったランディさんが隠していること…
「…ランディさん、実は貴族だったの?…いや…貴族だったんですか!?」
「え?急にどうしたの?違うよ!」
「…じゃあ、王族?」
「違う…広志さん…」
「ゴホン!」
ランディさんの正体を推測している途中で、どこかから咳払いが聞こえた。
「広志さん、貴族は僕じゃなくてこの方だよ」
「初めて見るね、【エティエン・ド・フランドル】と言っている」
ランディさんの隣には、一目で良さそうな服を着た重厚な中年の男性が立っていた。
「エティエン侯爵様が広志さんのことに興味を持ったので、一緒に来たんだ。」
(あ…馬車はこの方のものなんだ…侯爵ならものすごく高貴な貴族じゃないか?気をつけないと…)
「失礼しました。エティエン侯爵様、金沢広志と申します。よろしくお願いします。」
「よろしく頼む。長く話したいんだけど、時間がかかってしまってね…」
「あ…申し訳ありません。他の場所で大事な用事があったので…」
実際にはただ見物に来ただけなので、大事な用事ではなかった。
「分かっている。商人が自分の店を空けるほどのことなら、本当に重要なことだったんだろう。」
違う。
「時間もないし、早速本題に入ろう。」
「はい、どのような用件でいらっしゃいましたか?」
「ここでガムという食べ物を売っていると聞いたが。」
「はい、そうです。」
「どこでも見たことのない食べ物で、俺も一度食べてみたけど、食感がちょっと変だったな…」
「はは…ちょっと独特な食感ですよね?」
「でもだからこそ良かった!どこでも見ないものだから!」
「僕はエティエン侯爵様の馬車の御者にガムを売ったんだけど、御者が噛んでいるのを見た後、侯爵様が興味を持って食べてみたらしい。それで僕を呼ばれて、このガムの出所を尋ねられたから、一緒に来ることになったんだ。」
「そうだ。ランディから聞いたところによれば、ここには初めて見る物がたくさんあると?実は、俺はそういうものがとても好きなんだ!」
貴族…しかも侯爵を顧客にできるチャンスだ。
「はい、そうです。見たことのない物がたくさんあると思うので、ぜひ見て回ってください。」
「実は、君が来る前にこの店を見て回っていたんだ。」
「そうだったんですか?」
「うん…でも、食べ物ばかりだったよ。全部初めて見る食べ物ではあったけど、食べ物だけとは…興味が少し薄れそうだったね。」
「あ…今は食料品中心に売っているけど、ここは一応雑貨店だから、何でも売っています。必要なものがあればお知らせください。」
「それでなんだけど、ここで売っている物ではないけど、非常に欲しいものを一つ見かけたんだけど、買うことができるかな?」
「え?それは何ですか?」
「あれだ」
エティエン侯爵は指でお菓子の方を指さした。
「…お菓子のことですか?」
「違う!お菓子の下にある品名と価格が書かれた紙のことだ!」
エティエン侯爵が指さしたのは、ただの商品情報が書かれたA4用紙だった。
「侯爵の立場だから、書類を扱うことが多くて普段から紙をよく触っているんだ」
「そうなんですね…」
「でも、そんな俺でもあんな真っ白できれいな紙は生まれて初めて見たよ!触ってみても、染料を塗ったようには見えなかった」
そう言えば、この森の封印が解け、神殿の関係者が来て僕についての情報を書いていたことを思い出す。黄色くて、少し汚れた紙だった。
「…もしかして、紙を買いたいんですか?」
「そうだ。手に入るかな?」
「はい、ちょうど持っています。」
「おお!今すぐ買いたい!」
「それなら持ってきますので、少々お待ちください。」
僕はドアを越えて家に戻った。
「貴族がA4用紙に興味を持つなんて…あ!何枚買うか聞かなかった…価格はどうしよう?」
売り物として出すわけではないので、価格をどのくらいに設定すればいいのかわからない。
「あ~知らない!話している感じだと、あっちでは貴重な物のようだから、ただ高く売ればいいかな!貴族だからお金持ちだろう!」
何枚買うか分からなかったので、まずA4用紙1枚を持って店に行こうとした瞬間、前回神殿の関係者が僕についての情報を書いていた姿が再び思い出された。
「…これは、上手くいけばもう一つ売ることもできるかもしれないな」
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