ep. 26 : 高級な馬車
「おお!広志、ちょうど良く来たね!」
エラの明確な拒否の反応にもかかわらず、最後までエラに視線を送り続けていると、アドソンさんが何か思い出したように僕を呼んだ。
「どうした?何かあったの?」
「この森の木なんだが、帰るときに数本持って行ってもいいか?代金は支払う。」
「木?何本必要なの?」
「研究用に3本ほど必要だと思うんだが…」
(あ、研究用なのか…)
ドワーフたちは職業柄、木をたくさん扱うだろうから、この森の木について研究したいと思うだろう。
「それと、酒を入れるのに必要な木が2本…合計で5本だね!」
「え?研究用はそうだとしても…酒?」
「ああ〜、さっき言ってたうちの村の最高の醸造師が興味を持ってるんだ。見たことのない木で樽を作って酒を入れたら、どんな味になるのかってね…まあ、考えてみればこれも研究用と言えるかもしれないな、ハハハ!!!」
「木はたくさんあるから5本くらいは構わないけど、代わりにお願いが一つある。」
「お願い?言ってみてくれ。」
「その代金なんだけど、酒で受け取ってもらえるかな?」
「ハハハ!広志も酒が好きなんだな!たくさん持ってきたから問題ないよ!一樽でいいか?」
「一樽…?」
瓶単位で考えていたので、樽の話が出てちょっと戸惑った。
「足りないか?」
「いや、味見する程度なら十分なんだけど、一樽は多すぎる…」
「味見をするなら一樽は必要だろう!」
少しだけでも大丈夫だと再度言ったが、木の代金でもあるから一樽以上は持っていかなければ価値が合わないとアドソンさんが頑固に主張し、結局一樽で合意した。
「…でも、その醸造師はどうしてこの森の木について知ってるんだ?アドソンさんたちも来たばかりじゃないか。」
考えてみると、ドワーフたちはここに来てまだ森の外に出たことがないので、木について外に知らせる機会がなかったはずだ。
「あ〜、念話で話したんだ。面白い木があるって言ったら、興味を持ったみたいだ。」
「ドワーフもエルフのように念話を使えるの?」
「いや、僕たちはできないが…こいつは可能だ。」
アドソンさんはポケットから小さくて丸い水滴のようなものを取り出した。
「これは…もしかしてスライム?」
「そうだ!スライムで念話を送ったんだ。」
「スライムで念話を送れるの?」
「なんだ、知らなかったのか?」
「え…全然。」
知らないと答えると、アドソンさんは不思議そうな表情で僕を見つめた。
「事情があって、こいつは世間知らずなんだ。洞窟でずっと暮らしてきた人間だと思ってくれ。」
隣でアドソンさんの表情を見たエラが、僕の代わりにアドソンさんに説明した。
「そうなんですか?どんな事情…?」
「それは知ろうとするな。」
「……わかりました。」
アドソンさんはまだ気になる様子だったが、エラの断固とした言葉にもう聞こうとはしなかった。
こういう時、エラが本当に頼もしい。
「じゃあ、説明してあげよう。このスライムは…」
「ちょっと待って、アドソン!」
「なんですか、エラ様?」
「…店に客が来たらしいんだけど?」
「…何!?」
セルレスに念話が来たようだ。
「ちょっと待っててって言ってくれ、10分以内に行くから…!」
エラに念話を頼んで、すぐに自転車に乗り込んだ。
「待って、広志!来たついでに酒を…!」
「急いでるから酒は次回でいいよ!引き続き頑張って!」
酒を持ってこようとするアドソンさんに次回でいいと言って、全速力で自転車のペダルを漕ぎ始めた。
.
.
.
店の前に到着した。
休まずに全速力でペダルを漕いだ結果、行きは10分を少し超えたが、帰りは10分もかからなかった。
「ハア…ハア……」
店の前には一台の馬車が停まっていた。
帰り道にランディさんじゃないかと思ったが、ランディさんの馬車ではなかった。
初めて見る、非常に高級で高そうな馬車だ。
(貴族が乗る馬車かな?それとも王族…?)
どちらにしても、普通の人が乗る馬車ではなさそうだ。
(誰かは分からないけど、とりあえず敬語を使わなきゃな…)
「この店の主人か?」
息を整えながら馬車を眺めていると、見知らぬ人が僕に尋ねてきた。
「はい…そうです…」
「中で待っていらっしゃる。」
もしかして貴族かと思い、敬語で答えたが、言葉や行動から見るに、どうやら中にいる人の侍従のようだ。
(やっぱり普通の人じゃないな…)
目の前にいる侍従の人に色々聞きたい気もするが、すでに客をたくさん待たせているので、そんなことをしている暇はない。
「ふう…」
呼吸を整えた後、すぐに店の中に入った。
[ギーギー]
「お待たせして申し訳ありません!私がこの店の主人です!」
店の中に入って頭を下げて謝り、客の顔を確認した。
「広志さん!走ってきたの?ゆっくり来ても大丈夫だって念話を送ったのに…」
店の中にはランディさんがいたんだ。
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