ep. 16 : とりあえず外に出させよう。
「…おい、もうお昼ご飯の時間だよ。」
「さっき朝食べただろ、また何を食べるんだよ。」
「朝食を食べたのはあなただけだし…。僕はもともと朝食を食べないんだ。」
「…ちょっと待てよ! もう少しだけなんだ。」
ランチタイムになった今まで、エラは一粒の豆も持ち上げていない。
しかし、エラが箸の使い方そのものができないとは言い難い。
エラは完璧に箸を握って動いているのだが、力の加減ができないだけだ。
豆をつかむときに力を入れすぎて豆が飛び出してしまったり、力を抜きすぎてまったくつかめない。
箸を使うにはあまりにも極端な力の使い方だ。
「箸を使わなくてもいいじゃん、フォークでよく食べるし。」
「これは俺のプライドがかかってるんだ。身体でやることで、俺ができないことはありえない。」
「あなたは今、力を入れすぎたり、抜きすぎたりしているから、その中間を見つけるべきだよ。」
「わかってるんだけど、ダメなものをどうしろって……。あーっ!」
言いながら豆をつまむと、再び豆が上に跳ね上がった。
「こう出るんだろ?エルフの勝負心がくすぐられるね。」
「おい、ちょっと落ち着けよ…そうするともっと力が入るよ。」
「わかってるんだけど、落ち着けない!これさえできるようになれば、俺はもっと成長できる気がするんだ。」
「…そうか、俺はご飯食べるから、成功したら教えてくれ。」
「え!ある程度感触がつかめたから、そんなに時間はかからない!」
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…それから4時間が経った。
しかし、エラはまだ一粒の豆も持ち上げられていない。
「…大丈夫か?」
エラは豆が散らばったテーブルの前から、虚ろな目で僕を見つめた。
「…俺の人生で挫折というものをほとんど経験したことがないのに、君に会った2日間で、もう2回挫折したわ。一度目は、君がこの森を掘ることを断った時、二度目は今……。」
「箸が使えないからって餓死するわけじゃないんだから、あきらめたらどうなの?こういうのって、小さいうちに覚えてないと難しいんだけど、君は3,000歳を過ぎたんでしょ?」
「諦められない。俺がこんなことすらできないなんて、認められない……。」
そう言って、エラは再び箸で豆を天井に飛ばした。
「くそっ!!!」
エラは怒って拳でテーブルを叩きつけた。
幸いテーブルは割れなかった。
女神が用意してくれたものだからか、頑丈だ。
しかし、このままでは今日一日中、豆を吹き飛ばすことになりそうだ。
(とりあえず外に出させよう。)
お金がない状況なので、エラが何か一つでも壊してしまったら僕にとっては大きな損失だ。
そして今の雰囲気からすると、何かを壊すまであと少ししかないようなので、とりあえず外に連れ出すことにした。
「エラ。」
「…なんだ。」
返事の声には鋭さがあった。
「…君は今、力を抜きすぎたり、力を入れすぎたりしているのが問題なんだろ?」
「うん…。」
「じゃあ、体を動かしたり、少し力を使って体のエネルギーを抜いてみたらどうだ?そうすれば、以前より手に力が入らなくなるんじゃないか?」
僕の言葉を聞いたエラの虚ろな瞳に、活気が戻り始めた。
「…それが原因なのか?そういえば最近、戦闘もなくてあまり体を動かしていなかったし…これじゃあ、体から力が溢れ出るのも仕方ない…!」
「よし、じゃあとりあえず外に出て体を動かそうか。」
「でも、俺はここを守らなきゃいけないのに…。」
「みんなここを守るのが好きなんだから、誰でも念話で呼び出して守らせればいいじゃない。ちょうどいいわね、あなたたちの家を建てる場所も決めないといけないから、とりあえず一緒に出かけよう。」
「それはもう決めてあるけど?」
「…もう?」
「扉を守るのに最適だと思う場所を見ておいた。」
「…でも、とりあえず僕がこの森の主人なんだから、俺と話し合って決めるべきじゃないの?」
「今言ってるだろ。」
「…うん。」
言いたいことは山ほどあったけど、そのままスルーすることにした。
「とりあえず一緒に出かけよう。決めた場所がどこなのか見せてくれ。」
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エラが念話を送った後、しばらくしてフローラが店にやって来た。
カップ焼きそばを作る時、浮遊魔法でやかんを空中に浮かせる女エルフだ。
誰でも来いというエラの念話を聞いて、4人のエルフがじゃんけんをして、来る人を決めたそうだ。
「これでエルフ族最強のジャンケン戦士は私です!」
(そういえば、ここにいるエルフはみんなじゃんけん大会で勝った子たちだったな。)
「慢心するな、フローラ!お前はまだ俺と勝負していないぞ!」
エラはここで一勝負しようと指を離した。
(さっきより興奮しているみたいだけど……。)
不安だ。
「じゃんけんは後にして、とりあえず出よう。フローラ!もしお客さんが来たら…来ないだろうけど、もし来たら、エラに念話で知らせてくれ。」
「はい、兄貴!」
(女エルフも俺を兄貴って呼ぶんだ…。)
アルデンが僕を兄貴と呼んだ時よりも違和感がある。
「ドアをしっかり守れ、フローラ!最強のじゃんけん戦士は帰ってきてから決めよう!」
「はい!姐さん!行ってらっしゃいませ!!!」
フローラの挨拶を受けた後、店の出入り口を開け、エラと一緒に外に出た。
「さあ、案内して。」
「うーん…。」
外に出てきたエラは、急に何かを思い悩む。
「どうしたの?」
「いや…あそこは俺にとって5分もかからない場所なのに、君のスピードだと走っても30分はかかる気がするんだけど…。」
「走って30分…? 僕、30分も走れないと思うんだけど…。」
「俺だって、お前が30分も走るのは見たくないわよ。そうしたら、俺も遅く動かないといけないじゃん。」
エラがその場所を案内してくれるので、いくらエラが一人で早く行けたとしても、僕と一緒に行くしかない。
「しょうがないわね、今回は特別に俺が背負ってあげるわ。」
「え?ありがたいけど、エルフ族の親分なのに、他の人を背負っても大丈夫なの?」
「俺は大丈夫……君が大丈夫かどうかが問題なの。」
「僕ならもちろん大丈夫だ。」
…この時点で気づくべきだった。
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