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ep. 13 : 親分の責任感?

いつの間にか日が暮れて夜になっていた。


エラはまだ店の中で扉を守っている。


今日は2人のお客さんが来た。


女神とエラがインスタントラーメンを一つずつ購入し、調理までして2シルバーの収入だ。


まだ二人ともお金はもらってないけど、一日に二人のお客さん……女神を客と呼ぶべきなのか微妙なんだけど、それでも一日に2人の客を受けたのは初めてだから、気分がいい。


「もう日も暮れたし、僕は行くから、寝るときはドアをちゃんと閉めて寝てね。」


「うん~じゃあね。」


エラに別れの挨拶をして、家に帰るために扉に向かった。


(何か大事なことを忘れたような気がするけど…。)


扉の前に立ったが、何かを忘れているような嫌な予感がして扉を開けることができなかった。


「…そこに立って何してるの、行かないの?」


「いや、何か忘れてるような気がして……大事なことみたいだけど、すごく気になるわね。」


「…俺が教えてあげようか?お前が忘れてる大事なこと。」


「何か知ってるの?」


エラは何かを知っているように言った。


(エラなら知ってるかも…。)


正確には覚えていないが、確かエルフのことだったような気がする。


「…マヨネーズ。」


「えっ…?」


「マヨネーズは忘れずに用意しておいてね!あの焼きそばをまた食べるから!」


…それも忘れていた。


でも、マヨネーズは確かに違う。


「そんな些細なことじゃなくて、もっと大事なことがあったような…。」


「今、マヨネーズが些細なことだと言ったのか?焼きそばをもっとおいしく食べることができるはずなのに!?」


「うーん…それ以外に大事なことがあったんだけど…いくら考えても思い出せない…。」


「そんなに思い出せないなら、忘れてもいいことなんじゃない? 本当に大事なことなら、忘れてなかったか、もう思い出しただろう?」


「……そうよね、もう行かなきゃ。」


少し気になるけど、エラの言う通りだと思うので、忘れて家に帰ることにした。


[ギーギー]


家に帰ろうと扉を開けようとした瞬間、店のドアが開く音が聞こえた。


「ううっ、姐さん…。」


(……あ、これだ。)


扉の音を聞いてそちらに目を移すと、モネに殴られた後、少しの動きも見せなかったアルデンヌがそこに立っていた。


(生きてたのか…!)


僕が忘れていたのは、アルデンの生死の有無だった。


アルデンを見た瞬間、正体不明のモヤモヤが消えた。


「……ア…アルデン!」


エラがアルデンを呼ぶ声が小さく震えている。


エラの顔を見ると、表情にも戸惑いを隠しきれていない。


エラもアルデンの存在を忘れていたようだ。


(僕はともかく、お前は親分だろ…。)


先ほどの親分としての責任感のあるエラのイメージが一瞬で消えた。


「これは…どうしたんですか…?僕は確かじゃんけんをしていたはずなのに…目が覚めたら夜になっていました。」


「その…試合中に小さな問題があったんだ。とりあえず勝ったのはお前だから、森を出る必要はない。」


エラは戸惑いを隠しながら言った。


「あ…そうですか、何があったんですか?頭が変に痛いんです。」


「試合中に相手選手に頭を殴られたんだ。」


「…もしかしてモネですか?」


誰とは言わなかったが、アルデンは犯人がモネであることにすぐに気づいた。


「そうだ、あいつは戦闘能力はいいんだけど、たまに突発的な行動を起こすから困るんだ。」


「モネが戦闘能力が高い?」


「あー、エルフの中で身体能力最強はモヒカンだけど、魔法最強はモネだからね。もちろん両方とも俺を除いた場合の話だけど。」


ちょっと意外だ。


正直、モネを見たとき、エルフの中では弱い方だと思っていた。


「そうは見えないけど、すごいね。」


「でも、頭がおかしい。」


モネが頭がおかしいというエラの言葉に、アルデンは共感するようにうなずいた。


モネが頭がおかしい奴というのは、エルフの間では公然の事実のようだ。


「ところで姐さん…日が沈んだところを見ると、あれから随分と時間が経ったと思うのですが、僕はどうしてずっとそこに倒れていたんですか?」


「……」


「まさか、気絶した僕を放置していたんですか?」


「……アルデン。」


突然、エラの雰囲気が変わった。


エラから初めて聞く優しい声…そして、強面だったエラの表情も、急に柔らかくて優しい表情に変わった。


「は…はい、姐さん…。」


アルデンもそんなエラに戸惑うように答えた。


「俺たちがこの森に来るまでの道のりを覚えてる? 今はとても幸せだけど、その過程は簡単ではなかったよね。 世界中に足跡を残す覚悟で、扉を探すために歩き回ったんだ。」


「はい、姐さん、覚えてます。」


「そうやって扉を探すために旅をしながら、食事をまともに食べられないことも多かったし、頻繁な野宿で寝る場所も不便だった。俺はこの一団の親分として、そんな苦労している君たちを見て、本当に心が辛かったんだ。」


「はい…。」


「ここに着いて、広志に居住を許可されてからは、もう君たちにそんな苦労はさせないで済むと思っていた。一生門番をしながら、君たちと幸せに暮らせると思っていたんだ…でも、ここには俺たちが住めるような家がなくて、結局、また野宿させられることになったんだ。表には出さないけど、内心はすごく悲しかった。」


じゃんけんが始まる前に、エラが「雨が降ったら濡れてばいい。」と断固として言ったのをはっきりと覚えている。


嘘の言葉と、初めて聞く不気味に優しい口調、そしてエラのあの嘘のような目つき……。


そうだ。今、エラは気絶した部下を放置したという汚名を免れるために、アルデンの感情を最大限に刺激してこの状況を乗り切ろうとしている。


「だからやむを得ず、最小限の人員を残して、残りの人をドワーフに連れてくるようにしたんだ。ドワーフを早く連れてきて、早く家を建てて快適に眠れるようにしたいから。」


「はい。姐さん…でも、それと僕を放置したことが何の関係があるんですか……。」


まだ通じなかったようだ。


「ところで!その人員の選別の過程で、君がモネに殴られて倒れたんだ。 俺は慌てて君の状態を確認したんだけど、なんと……君は眠っていた。まるで赤ん坊のようにね。 まあ……そもそもエルフ族最強の戦士を目指す君が、モネの柔らかいパンチで気絶するなんて、意味がわからないことだったんだ。」


「えっ……?僕が? 最強の戦士をですか?」


アルデンは初耳のようだ。


「最初は眠っている君を起こそうとしたんだ。でも、その瞬間……今まで野宿生活で苦労して眠りにつく君たちの顔が頭に浮かんだんだ。だから、何の心配もなく幸せそうに眠っている君をどうしても起こせなかったんだ……。」


「…姐さん……。」


アルデンはここで少し感動したようだ。


そしてそんなアルデンの反応を確認したエラは、再びしゃべった。


「…中に移すことも考えたけど、万が一その過程で君を起こし、君の幸せを壊してしまうかもしれないと思うと、簡単には手を出せなかったの。だから、そこに置いておいたのよ、俺たちがあれほど求めてきたこの森で、幸せな夢を見ろと…。」


「姐さん…僕を…そこまで考えてくださるなんて……。」


エラのしゃべる言葉に騙されたアルデンは、大粒の涙を流し始めた。


「幸せな夢を見た?」


「姐さん……正直、夢なんて見てないんですけど、今まで見たどんな夢よりも今が一番幸せです!!!」


「そうか…それならよかった……。」


エラの顔に初めて見る優しい笑顔……美しすぎるけど、なぜかゾクゾクする。


「さあ!あなたが寝ている間、他の仲間が君の分まで働いてくれていたわ。もう起きたから、君も行って仲間を手伝ってあげてね。」


「はい、わかりました!行ってきます!」


[ギーギー]


アルデンは流れる涙を拭き取ると、周囲の警戒をするためにすぐに店を出た。


「……はぁ…親分なんてやってられないね……。」


アルデンが出ると、すぐに元のエラに戻った。


「身体能力最高はモヒカン、魔法最高はモネ、言い訳最高はお前か?」


「うるさい……。親分をやってると、たまにはこんなこともやらなきゃいけないんだ。」


「ククク、早くに面倒見ておけばよかったのに。」


「忘れてた……今までエルフが気絶することがほとんどなかったから。」


確かにドラゴンを除けば最強と言われる種族だから、エルフが気絶することはほとんどなかったのだろう。


「さっきのお前の顔と声、あんなに優しいのはゾッとしたよ。一日中イライラした表情を浮かべていたのに……。普段もそうして歩いてみろよ。」


「あ、早く扉の向こうに帰れ!」


エラは恥ずかしそうに顔を真っ赤にしてキレた。


「うん、モヤモヤもなくなったし、いい見物もできたし……もしお腹が空いたら、店のものを食べて、カウンターにある紙に書いておいてね。本当に行くからね。」


「消えろ。」


エラと再び挨拶を交わした後、ドアから家に戻った。


「…とりあえず、マヨネーズを買いに行こうか?」

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