ep. 11 : 頭がおかしい奴
モネの突発行動後、森は静寂に包まれた。
モネに殴られたエルフは、そのまま地面に倒れたままで、まったく動きも見せない。
「よし!!一人倒したから、あとは二人で勝負だ…!」
「…モネ、失格だ。」
「ええっ!! なぜですか!!?」
「『ええっ!! なぜですか!!?』って、なんだよ。拳でエルフを殴ったんだから失格に決まってるだろ。」
「手でグーを作って上から下に下げただけですよ!?手でグー、チョキ、パーを作って上から下に振って対決するゲームじゃないですか! ルール通りやったんですよ!!」
「こんなの認めてくれるわけないだろ。こんなことするなら、ただ戦えと言ったはずだ。」
「認められませんよ!常識的に考えて、勝負中に手を拳にしたのに、なんでチョキやパーみたいなものを勝とうとしているのですか? 相手の頭を殴るのが当たり前じゃないですか!! 姐さん! 姐さんはどう思いますか? 失格なんておかしいでしょ!?」
「…いや、完全に失格だよ、これは。」
エラは呆れた様子で答えた。
「そんな!姐さん……!私は納得できないです!!!」
モネのせいでエラが常識的に見える魔法が働いている。
「もういい! お前は失格だから、そう思ってさっさと出発の準備をしなさい!」
「……はい。」
モネはまだ納得できないようだったが、エラが断固として言うので、仕方なく受け入れたようだ。
(これで残り二人での勝負だが…大丈夫だろうか?)
モネにやられたエルフが試合を続けられるかどうかが重要だ。
地面を見ると、モネに殴られた男エルフはまだその場に倒れていた。
そして、まだ少しの動きも見せていない。
「…こいつ、生きているのか?」
死んだドワーフを見ないようにしていたのに、死んだエルフを見てしまうのではないかと思って怖くなった。
「大丈夫、たぶん生きているよ、俺たちは今まで誰も死んでないから。」
「今まで一人も?」
「うん。」
(女神が寿命を決めていないとは聞いていたが、まさか本当に不死身とは……。)
「でも、だからこそ死んだらそれはそれで貴重な見世物になるでしょうね。私としては、すごい功績が一つ生まれるかも…。」
横で見ていたモネが微笑みながらサイコパスのようなことを言った。
…これから僕の中での危険なエルフの1位はモネだ。
他のエルフがただの不良な感じなら、モネは頭がおかしい奴だ。
「でも、これじゃあ試合が進まないわね…。どうしようかな?」
横でモネを情けなく眺めていたエラに意見を求めた。
「何言ってるの、試合はもう終わったじゃん。」
「えっ…?」
「モネの左側にいた【ガルバス】がチョキを出し、モネとここに倒れている【アルデン】がグーを出したから、モネとアルデンヌの勝利だけど、モネが失格になったから勝者はアルデンヌだよ。」
「くそっ…!モネが急に変なことをしたせいで、慌てて最後の最後に手を変えられなかった……!」
モネの左側にいた男エルフのガルバスは、チョキを出した手を上げて悔しがっていた。
そして床に倒れているアルデンの手をよく見ると、拳を握っていた。
「あの状況でそれを全部見たのか…?」
「その程度は人間でも普通に見えるじゃん?」
…全く見えなかった。
「とにかくガルバスも脱落だ。モネもガルバスも両方ともあっちへ行けよ。」
エラが指差した場所には、生気など微塵も感じられない冴えない顔をしたエルフたちがモネとガルバスを待っていた。
彼らを見たモネとガルバスも似たような表情で彼らと合流した。
「さあ、脱落した8人は、モレノ山脈の拠点で出発した者たちと合流し、荷物とドワーフを連れて二日以内に戻れ! 二日以内に来なかったら殺すぞ!早く出発しろ!」
じゃんけんで脱落した8人は、しょんぼりした表情で森を後にした。
「さて、生き残ったのは俺を含めて5人…。」
エラは自分を含めて5人と言ったが、今、エラの前には3人のエルフしかいない。
生き残った5人のうちの1人であるアルデンは、まだ先ほどのその場で少しの動きも見せずに倒れている。
じゃんけんでは生き残ったが、他の方では生き残れなかったのではないかという疑念が深まっている。
「…生死不明なアルデンを除いた俺を含む4人は、眠りにつくまでお互いに領域を分担して門を守ることにする。」
言いながらアルデンの方をちらりと見たエラも、アルデンが本当に生きているのかどうか確信が持てないようだ。
「一人は店内で、残りの三人は店の外で周囲を警戒する。」
エラの言葉が終わると、前の3人のエルフは言いたいことがあるかのように同時に手を挙げた。
「ちなみに、店内を守る一人はすでに俺と決まっている。不満があるなら殺してやる。」
すると、3人のエルフは同時に手を下ろした。
「あの…エラ?」
「何で?」
「ドアを守るのはいいけど、ちょっと見えないようにできないかな?お客さんが見たらびっくりしそうだけど…。」
「どうせお客さんいないでしょ。」
事実だ。
「あ、でも来るかもしれないから。」
「とりあえずわかった。警戒を目立たないようにしてほしいってことだよね?」
「そうだよ。」
エラの言う通り、客は来ないが、それでも万が一来るかもしれないから気をつけなければならない。異世界の人間にとってエルフは恐怖の対象なので、エルフを見ただけでせっかく来た客が帰ってしまうかもしれない。
「さあ、注目!この森の主人である広志の要請が入った!ここは一日一人のお客さんが来るのが願いというほどお客さんがいないが、それでも一応はお客さんを受け入れている店だ。だから、万が一来るかもしれないお客さんが俺たちを怖がらないように、目立たないように気をつけてね!」
「「わかりました!姐さん!」」
…僕のお願いを聞いてくれたのはありがたいが、わざわざそんなことを言う必要があったのだろうかと思う。
「姐さん!警戒領域はどうやって分けるんですか?」
「いい質問だ!さっき言った通り、店内は俺が守る。あとはお前たちが勝手にやれ!」
いい質問だけど、答えは「お前たちが勝手にやれ」だった。
「じゃ、散らばれ!俺は中に入る。」
「「はい!!!」」
そう言って、エラの前にいた3人のエルフは速いスピードで散らばっていった。
え?何だ、また来るのか?
散らばろうとしていたエルフたちがまた戻ってきた。
「おい、お前はどこにいるつもりなんだ?」
「私は西の辺りにいるつもりなんだけど?」
「あ!私も西に行こうと思ってたんだ!じゃんけんしようか?」
「じゃ、あ東は誰も行かないの?私は東に行くよ。」
そうして3人のエルフは、エラの言葉通りに勝手にした。