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ep. 1 : 10分あげるから、なければ作ってこい。

「……え?」


僕の名前は【金沢広志】、30歳の独身男性だ。


最近、今まで貯めたお金を全部使って家を買って引っ越してきた。


昨日までは問題なく出入りしていた小さい部屋のドアを開けて入ってきたんだけど、目の前には見たことのない見知らぬ空間が広がっていた。


「何だここは?」


家の内部のように見える空間なんだけど、見えるのは玄関と思われるドアと窓だけで、それ以外は何も見えない。


状態を見る限り、人が住んでいるようには見えないんだ。


随分と老朽化しているところを見ると、かなり昔に建てられた家のようだ。


「ここはどこなんだ? 僕は夢を見ているのだろうか?」


頬をつまんでみたけど、確かに痛い。


これは現実だ。


振り返ると、僕が開けて入ってきた扉が見える。


木製の古い扉だが、状態は比較的良さそうだ。


「もしかして、もう一度開けたら家に戻れるのか?」


「うん、できるよ。」


「あー!驚いた!!!」


びっくりして声が聞こえた場所に目を向けると、そこには20歳くらいの美しい女性が立っていた。


「…もしかして女神なのか?」


「そうだ、早く気付いたね。」


正体を明かさなかったけど、なぜかすぐに正体がわかった。


宗教を持たない僕でもすぐにわかるほどのオーラと神聖さを放っていたからだ。


「じゃあ女神様、ここはどこなんですか? 僕はさっきまで自分の家にいたのに…。」


「ここは私が管理している世界だよ。君の立場からすると異世界だね!」


「…異世界? なぜ僕を異世界に呼び出したんですか?」


「私が呼んだのではなく、あなたが来たんだよ。悪いけど、あなたの家の小さい部屋の扉がこっちの世界と繋がってしまったんだ。それで、君が小さい部屋に入ってきたとき、ここに来ることになったんだ。」


「...それってどういうことですか?」


「長い話だけど、簡単に説明すると、君たちの世界と私たちの世界を繋ぐ扉が存在するんだけど、昨日君が寝ている間に君たちの世界の扉が壊れちゃったんだ。でも、その扉は必要不可欠な存在だから、君の家の小さい部屋の扉がここと繋がっちゃったんだ。」


「その…。説明が単純すぎるんじゃない? 二つの世界を繋ぐ扉があることと、必要不可欠なその扉が壊れたことはわかったけど、どうして僕の家の扉がここと繋がっているんだ?」


「あ!それを教えてくれなかったんだね、その扉は世界に必須なものなんだ。それで、もし扉が壊れたらランダムで別の扉が指定されるんだ。だからランダムで君の家の扉が指定されたわけだ。」


(ランダム…?)


ランダムという言葉に、僕は呆れた表情で女神を見つめた。


「はっきり言っておくけど、これは私のせいじゃないからね!おまえたちの世界の神様が管理を怠っているせいなんだよ。今現在も姿を消しているから私が管理しているんだから、私のせいにしてはいけないんだからね!」


「はぁ…。」


ため息しか出ない状況。でも、幸いなことに神が目の前にいる。


神様だから、きっと何か解決策を持っているはずだ。



「それで、どうすればいいんですか?」


「えっ、何が?」


「解決策があるはずでしょう? 正常に戻るまでどのくらいかかりますか?」


「あ、ごめん。たぶん当分解決できないんだ。」


「えっ…?」


「お前の世界の扉が壊れたから、私の管轄外なんだ。お前の世界の神が解決すべきことだけど、さっきも言ったように姿を現さないから、異世界の神である私にはできることはない。」


僕たちの世界で起きたことだから、他の世界の神は何もできないってことらしい。


意味はわかるが、このまま放っておくわけにはいかない。


「じゃあ、連絡でもしてくださいよ。神様同士で連絡する何かあるんじゃないですか?」


「もう連絡はとったけど無駄なんだ。お前の世界の神様は本当に仕事しない神様だから、連絡が取れなくなったのはもうずいぶん前のことなんだ。」


こんな神が俺たちの世界の神なんて、俺たちの世界の神について聞けば聞くほど頭が痛くなる。


「じゃあ、僕はどうすればいいんですか?」


「解決策ではないけど、私に一つ提案がある。」


「提案?」


「お前、ここで商売してみない?」


本当に思いもよらない提案だな。


「ここで? どんな商売を…?」


「種類は問わない。何でもいいから、お前の世界のものをここで売ってほしいんだ。」


「なぜそんな提案を……」


「実は私は魔法の神で、ここでは【魔神】と呼ばれているんだ。」


「おお!魔法の神様だったんですね。じゃあここは魔法が存在する世界ですか?」


「そうだ、私は魔法の神だからこの世界のすべての生命は魔法を使うことができる。でもそのせいか、文明の発展が遅すぎるんだ。不都合なことがあっても、技術や科学を発展させるよりも魔法に頼ってすべてを魔法で解決しようとしているんだ。」


「そうなんですね、でもそれって僕の商売と関係あるんですか?」


「君はスマホがない生活と、スマホができた後の生活を両方経験しているんだろ?」


「そうですね、30歳ですからね。」


「スマホがまだ出ていない頃、スマホがなくて不便だったか?」


「いいえ、当時はないのが当たり前だったので、ないことを不便に感じることはありませんでした。」


「でも今はどうなの、ないと困るでしょ?」


「そうですね、ないとすごく不便ですよね。」


「それだよ!今のこの世界の人々は不便を感じていないんだ!恥ずかしい話だけど、私たちの世界は君たちの世界に比べたら文明のレベルが圧倒的に低いんだ。比べるなら、昔の君たちの世界のヨーロッパの中世くらいだと思えばいいよ。」


「中世くらいなら、今の僕たちの世界とは少し差があるね。」


「そうだけど、それでもここの人たちは技術の進歩を全く考えていないんだ。ガス設備がなくても火の魔法で料理ができるし、水道設備がなくても水の魔法で楽にお風呂に入れるから。でも、君たちの世界の便利なものに一度でも触れたら、そろそろ違和感を感じ始めて、君たちの世界のものを真似して発展し始めると思う!」


(それを狙っているのか…)


説明を聞いて、女神が商売を提案した理由はよくわかった。


中世程度の文明だというから、僕たちの世界のものを持ち込んで売れば、商売もうまくいきそうな気がする。


しかし、なんか確信が持てないな。


「ちなみに、ここの貨幣は金貨、銀貨、童話、小童話の4種類があるよ。ここの金貨を持って君たちの世界で売れば、結構稼げると思う。」


「悪くない条件だけど…。」


実は、先日働いていた仕事を辞めたばかりだった。体を酷使してお金をたくさんもらえる仕事だったけど、今は体に優しい仕事がしたくて辞めた。


「やるんだろ? あんたが言ったように悪くない条件だろ。どうせあんたの小さい部屋はもう使えないんだから、ここでもうまく活用した方がいいんじゃないの?」


その通りだ。小さい部屋の扉がここと繋がっているので、もう小さい部屋は使えない。じゃあ、ここで商売を始めた方がここをうまく活用する…… えっ、小さい部屋はもう使えないの?


「ちょっと待ってください! 女神様!じゃあ、もううちの小さい部屋には入れないんですか?」


「そう。小さい部屋に入ろうとすると、この場所に来ることになるんだからね。」


「じゃあ、そこにある僕のものはどうなるんですか?」


「ああ… それが……」


「もちろん取り出せるでしょ? まさか神様がそれ一つできないの?」


小さい部屋には新しく買ったばかりの最新型ゲーミングコンピュータがある。


小さい部屋はゲームルームとして使う予定だった。


「…できない、ごめん」


「嘘つかないでくださいよ。なんだよ、神様が物一つ移せないなんて…」


「さっきも言ったけど、あちらの世界は私の管轄じゃないから……」


「だから、買って一週間も経ってない僕のパソコンが一瞬で消えたのに、何もしてあげられないってことですね?」


「厳密に言えば消えたわけじゃないよ。小さな部屋にそのままあるんだけど、入れないから使えないんだ……」


(同じような話じゃない?)


女神の言葉を聞いて、急にものすごく腹が立ってきた。


「はぁ… ばかばかしい」


「さっきも言ったけど、俺の責任じゃないんだ、これはお前の世界の神が不注意なせいだ。」


「もういい。やらない」


「え?」


「ここで商売しないって言ったんだ。俺は帰るぞ」


「いきなりため口を…。私、女神なのに?」


「女神なのにどうしろって? 女神なのに何もできないくせに。僕たちの世界の神でもないし、どうせ二度と会わないのに僕が気にすることか?」


「え? もう二度と会わないって?」


「あー、僕が家に帰ったらすぐに小さい部屋のドアをぶっ壊すから。」


「ちょっと待って!!そんなことしちゃダメ!!今回は運が良くて君の家に指定されたけど、人がたくさん出入りするデパートやビルの入り口に指定されたら、本当に大変なことになるよ!!!」


「そんなの興味ないし、僕は自分のパソコンが大事なんだ!残り少ないお金で大枚をはたいて買ったんだから」


「ちょっと落ち着いて!」


「あーわからん~、行くよ。」


僕は体を回して、僕が入ってきたドアの方に向かった。


「待って! 私があげるから! 私がお金であげればいいじゃない!」


ドアに向かっていた体を止め、再び女神の方に向きを変えた。


「…お金であげるって言ったの?」


「そうよ、買ったばかりのパソコンだから、重要なデータはないでしょ。私が金で補償してあげるから、落ち着いて。」


その通りだ。買ったばかりだし、ゲーム用に買ったものだから重要なデータはない。


せいぜい、インストールしてあるゲームだけだが、それはまたインストールすればいいことだ。


「じゃあ、お金でくれよ」


「今はない、今度来たらその時にあげる」


(…俺が馬鹿に見えるのか?)


「ふざけんなよ。今すぐ渡さないと、俺が行ったらすぐにドアを壊すぞ。」


「俺も今は持ってないよ、神様がお金持ってるわけないだろ、必要ないから…」


確かにお金は人間が使うものだから、神は必要ないのだろう。


でも、それは俺には関係ない。


「お前はここの神様でしょ?10分あげるから、今すぐ作って来い」


「そんな無茶な…!」


「10分後に僕の前にお金がなかったら、ドアはすぐに壊されるわよ」


まさか女神がお金を奪うとは思わない。しかし、「次にあげるから」とお金を奪おうとする人をたくさん経験してきたので、僕の立場からすると、いくら女神でも「次にあげるから」という言葉を信じて引き下がるわけにはいかない。


「私の話を聞いて!いくらなんでも……」


10分と時間を決めたにも関わらず、女神はまだ説得を試みている。


「このままここに居ていいのか? 10分は余裕なのか? 5分に短縮しようか?」


「待って! 今行くわよ! 今行くつもりだったの!」


その言葉を最後に、女神は目の前から姿を消した。


「お~!テレポートか?不思議だな。」


.

.

.


いつの間にか10分が経った。


「10分が過ぎたのに来ないのか?」


「来たよー!!!ハァハァハァ…」


10分後に女神が現れた。


息を切らしているのを見ると、急いで動いたようだ。ちょっと申し訳なく感じる。


特別な理由があって10分にしたわけではないので、余裕を持って20分にしておけばよかった。


「ここ… お金…… ハァ…ハァ…ハァ……」


女神はまだ息を切らして、僕に小さなポケットを手渡した。


「ああ。ご苦労さん…。時間が足りなさそうなら言ってくれれば、もっとあげたのに。」


「言おうと思ったけど、君が5分に減らそうとしたから… しくしく……。」


(説得しようとしたんじゃなくて、もっと時間をちょうだいって言いたかったんだか…)


泣きながら話している様子を見ると、かなり悔しそうで辛そうだ。


「ごめんね…。泣かないで」


「泣いてないよ…しくしく…… 私は女神なのよ…女神は泣かない……。」


「わかったから泣かないで」


言葉では泣かないと言いながら、もう目はグズグズしているし、鼻からは鼻水が流れている。


「泣かないって言ったでしょ! 早くポケットを確認しろよ!」


泣いているのが恥ずかしいのか、今度はポケットを確認しろと怒られた。


女神の言葉通り、ポケットを確認してみた。


「えっ、金貨か?」


「そうよ、ここで円貨やドルが手に入るはずがないでしょ。急いで私の信徒に借りてきたの。」


「信徒? ああ~君は神様だから信徒がいるんだね。」


「あんたは知らないだろうけど、ここの人たちって結構信仰心が深いんだよ。 俺もそれに相応しく威厳のある神の姿を保っているし…。でも、久しぶりの降臨で『お金貸して』なんて言うのは、恥ずかしすぎるわ……。」


「あ…もしかして 恥ずかしくて泣いてるの?」


「泣いてないよ!!!」


「そうそう、泣かなかったことにしよう。それで、この金貨は何に使えるの?」


「それを売れば、その部屋にあったパソコンと同じように揃えることができるよ。もちろん、モニターやキーボード、マウスなどの機材の値段も含まれているからね。ちなみに値段はインターネットの最安値で揃えたものだから文句は言わないでね」


「プレハブで合わせたものだから、僕が買ったパソコンのパーツを完全に把握するのは難しいと思うんだけど、どうやって知ったの?」


「私は神だ。君が何を買ったか知ろうと思えばすぐわかる。ただ、君の世界に直接的な何かをすることができないだけだ。」


「そうか、ポケットがかなり厚いな。もちろん、机と椅子の値段も全部含まれているんだろう?そして送料もね。」


「……」


「…含まれてるよね?」


「……」


「...行ってきて。」


「しくしく…… お願いします……」


「今度こそゆっくり行ってもいいよ。」


「しくしく…」


女神は泣きじゃくりながら、再び一瞬で姿を消した。


.

.

.


「ふぅ…やっと帰ってきたな。」


扉を通って再び家に戻った。


窓の外を見ると、夕日が沈んでいる。


帰ろうとした時、あの世界でも夕日が沈んでいたから、時間の流れが似ているみたいだ。


その後、女神と長い会話を続けた。


そして、最終的に僕は女神の提案を受け入れ、その場所で商売を始めることにした。

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