第30話 盗賊との別れ
朝になり俺は簡単に荷物をまとめた後、正式にゴーガンにここを出る事を伝えた。
「本当に出ていっちまうんだなぁ」
「あぁそういう話だっただろう?」
「そうだけどよ。本当躊躇がないな」
ゴーガンが後頭部を擦る。まぁこういうのはスパッと決めた方が後腐れがないからな。
そして以前の素材と今回のダンジョンの報酬として金貨の入った革袋を受け取った。
袋の中には金貨がびっしり詰まっていた。何となくだが本来の取り分より多い気がした。
「ふむ。これを貰っていいのか?」
「あぁ。お前には世話になったからな。しっかり色を付けておいたぜ」
どうやら気の所為ではなかったようだな。盗賊の頭のクセに全く嘘をついていないのが口調と表情から読み取れた。特にコイツはわかりやすいから助かる。
ま、色を付けてくれると言うならこちらも遠慮する必要はないからな。それにその程度じゃ揺るぎないぐらいに稼ぎが良かったのだろう。それぐらいは見てればわかる。
その上で近くの街についても教えてもらった。道順なんかはミトラが教えてくれた。わりと距離があるな。ここからだと普通は徒歩で三日はかかるようだ。もっとも俺の足ならゆっくり行っても半日もあれば十分か。
「リョウガ~本当に行っちまうんだなぁ」
「元気で、元気でやれよぉ」
「俺らのことわずれるなよぉ~~!」
さて行くかと思い外に出たところで盗賊連中が表までやってきた。見送りなんていらなかったんだがな。何か涙と鼻水で顔がグチャグチャなのもいるし。
「揃いも揃ってそんなに暇なのか?」
「そういうなって。こいつらも含めてもうお前のことは家族みたいに思ってたんだからな」
ゴーガンが笑いながら答えた。正直俺としてはさっぱりわからない感情だ。ほんのちょっと一緒にいただけでそこまで思えるもんか。
「最初は招かれざる客ってところだっただろうに。よくわからん連中だ」
「あんたは本当最後まで冷めてるね」
俺のセリフにミトラが苦笑していた。冷めてるか――そこは暗殺者として育てられた影響かもな。
「ところでリョウガ。ここを出ていくとしてその後どうするんだ?」
「うん?」
この後か――そういえば特に考えてなかったな。
「逆に聞くが普通はどうやって生計を立てていくものなんだ?」
「おいおい。それも考えてなかったのかよ」
ゴーガンがやれやれといった様子で後頭部を擦った。
「この国についてまだ良く知らないからな」
「あ~そういえば最初はそんな話だったな。だけどそうだな。リョウガぐらい腕っぷしが強いなら普通は冒険者でもやるんじゃないか?」
ゴーガンが答えた。冒険者か。創作では定番だったが異世界では実際にあるもんなんだな。
「そうだな。冒険者をやってみるのもいいかもな」
「あぁ。お前ならきっと上手くやれると思うぜ」
ゴーガンからお墨付きをもらった。どっちにしろ生活費は稼ぐ必要があるからな。仕事があるならそれに越したことはない。
「それじゃあ行くか」
「行くってさ。お別れはいいのかい?」
ミトラがセラに聞いた。セラはモナを肩に乗せたまま黙っていた。特に何も言うこともなさそうだな。まぁそうだろう。
「じゃあな」
短く挨拶し俺は足を進めた。なんだかんだで結構居座ってしまったが、寧ろここからが本番と言えるかもな。
「りょ、リョウガ~~~~~~!」
背後からセラの呼ぶ声が聞こえた。俺を呼んでるようだが振り向くことはしなかった。
「見てろよリョウガ! 絶対に私は強くなってお前を見返してやる! だから首を洗って待ってろよ!」
「ウキィ!」
セラがそう叫んだ……てっきり殺してやるとでも言ってくるかと思えば見返すか。全くおかしな奴だったな。俺は何となく口元が緩むのを感じた。
俺は右手だけ上げてそのまま足を進めた。おかしな連中だったな。とはいえここから先一体どんな未来が待っているのか、俺次第ってことだろう。
だけど、ま、せいぜい愉しませてもらおうかなと――




