第20話 セラが拾ってきたのは
俺がここを出ていくと決めてから五日経った。やはり雨はまだ止む気配がない。まぁ、それはいいのだが――
「ウッキィ♪」
「俺の頭に乗ってるこれをなんとかしてくれ」
「いいじゃん。モナに気に入られてるんだよ」
セラがあっさり返してきた。気に入られてると言ってもな。俺の頭の上では小猿が楽しそうにキャッキャ騒いでる。
この猿はある時セラが拾ってきたものだ。ちょうど俺がセラに猿の話をした後のことだ。まだまだ雨が続いているというのに外へ出ていき怪我した子猿を拾ってきたのだ。
セラ曰く、俺に猿を参考にしろと教えてもらったから拾ってきたとのことだった。ただ怪我した猿を見つけたのは当然偶然であり放ってはおけなかったというのもあるらしい。
アジトで怪我を直してもらった小猿はすっかりセラに懐き、そのままセラのペットになりモナと名付けられた。
今はすっかり仲良しになったようだな。動物か――そういえば弟は動物を飼っていたな。といってもペットというより暗殺の道具としてだ。そういう意味でやはり俺の家族は普通と考え方が異なっていたな。
動物を飼うにしてもペットではなく暗殺道具として――か。我ながら嫌な考え方をしていたなと思う。
「ほらモナ」
「ウッキィ♪」
セラが手を上げるとモナが手からセラに登り、そのまま肩の上に乗った。
「やれやれやっと離れたか」
「そんなこと言って本当は寂しいんじゃないの?」
セラがニヤニヤしながら聞いてきた。悪いが俺は動物に対してそんな感情は抱かない。
「それで。猿を飼って参考にはなったのか?」
「フフン。勿論。これでもモナと追いかけっこだってしてるからね!」
セラが得意げに語った。猿との追いかけっ子か。それを聞いて俺は感心した。動物は人間よりも遥かに身体能力が高い。猿はまだ子どもだが子猿だからこそ体力に恵まれていて元気に動き回る。
そんな子猿を追いかけるのは簡単なことではない。それを続けていればたしかに身体能力の向上も期待できるだろう。
「というわけで今日はあんたから一本とるぜ!」
「ウキッ!」
そんな事を考えているとセラが俺に挑みかかってきた。やれやれ、以前の事があってからセラはよく俺に挑んでくるようになったが。
「前も言ったが、別にわざわざ宣言しなくても好きに狙ってきていいぞ」
そう。俺は一度セラにナイフについて教えてから、いつでも俺のことは好きに狙えと言っていた。勿論俺は簡単にやられるつもりはないがな。
「確かにそう言ってたけど、せっかくだからさ」
そう言って屈伸をしたり体を伸ばしたりするセラ。やれやれ。だから実戦になればいちいちそんなことしてる暇ないだろうに。
まぁいい付き合うか――
「畜生! また何も出来なかった!」
「ウキィ~」
結局俺に触れることすら叶わず悔しがるセラの肩をポンポンっとモナが叩く。猿に慰められているのかセラは。
「なぁ、私の何がいけないんだ?」
「むしろ俺からみれば何が良いかを探す方が難しいんだがな」
「うぅ、成長がないって言いたいのかよ……」
俯き加減にセラがいった。ふむ成長か――
「ま、それでも良い点を言うならその猿と一緒に鍛錬した成果か動きは良くなっているか」
「ほ、本当か! つまり成長しているってことだよな」
「ま、そうとも言うか。あとはそうだな最低限気配を消す術は身につけておくべきだな。相手に悟られず一撃必殺で倒すには必須のことだ」
俺がそう言うと興味深そうにセラが聞いてきた。
「それってどうしたらいいんだ?」
ふむ。意外と食いついてきたな。まぁ本来ならそれぐらい自分で考えろといいたいが――
「そうだな。とりあえずここの盗賊たちに気づかれないようするところから始めてみることだ。尾行しても相手が全くきづかないぐらいになれたら大したものだ」
俺がそう教えるとセラが驚いた顔を見せた。
「意外そうな顔をしてるな」
「ま、まぁね。こういう事は自分で考えて見つけ出せっていうかと思ったからさ」
「……ま、約束もあるんだ多少はな」
俺がそう答えると一瞬ポカンっとした顔を見せたセラが二ヒッと笑って見せた。
「うんうん。それはいい心がけだと思うよリョウガ」
「ウキィ♪」
なにか急に偉そうになったな。モナがまた俺の頭に乗ってきたし。
それにしても母親を殺した相手だと随分俺を恨んでいるだろうにこんな顔見せるとはよくわからない奴だ――




