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無能だとクラスで馬鹿にされてた俺、実は最強の暗殺者、召喚された異世界で見事に無双してしまう~今更命乞いしても遅い、虐められてたのはただのフリだったんだからな~  作者: 空地 大乃
第四章 暗殺者の選択編

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第183話 震える心

 闇夜に舞う三つの首。スカーレッドは呆然と空を仰いだ。咄嗟に自らの首筋へ手を当てる──まだ付いている。


「これって……一体?」


「やれやれ、派手にやっちまったな。さて、どう始末をつけるか」


 涼やかな金属音が耳朶(じだ)を打つ。はっとして隣へ視線を向ければ、いつ現れたのか二人の男が立っていた。


「あんた! いつの間に!」


「ヨッ、この間ぶりだな」


 懐かしい声の主は、かつて彼女が困ってるところを助けた男──ガロウ。その足元には、瞬く間に首を落とされた盗賊仲間の死骸(しがい)が転がっている。


「て、てめぇガロウ! 一体どういうつもりだ!」

「俺達を裏切るのか!」


 盗賊たちが怒号を上げるが、ガロウは肩を(すく)め、後頭部を掻いた。


「裏切る気はなかったさ。でもよ──その魔導義肢(まどうぎし)が、こいつにとってどれほど大事な“未来”になるか、俺は知ってるんだ」

「何わけのわかんねぇことを! 大事なモンだからこそ奪う、それが盗賊ってもんだろうが!」


 荒げた声を取りなすように、ガロウは静かに視線を巡らせる。月明かりを映した双眸(そうぼう)は揺るぎなく、まるで刃のように澄んでいた。


「確かに俺は盗賊だ。富や宝を“いただく”ことに後ろめたさはねぇ。だがな──震えるんだよ、心が。誰かが命より大切に抱えるモンを踏みにじった瞬間、俺の中の“狼”が吠える。そいつを裏切ったら、俺は俺じゃなくなる」


 ゆっくりと(つば)に手を掛ける。月光が斬鉄の刃を照らした。


「ウドン。こいつを守ってやれ」

「へいへい、兄貴に頼まれちゃあ断れねぇっす」


 巨漢のウドンが一歩前へ出る。膨れあがった両腕はまるで生きた盾のようにスカーレッドを背後から包み込んだ。


「ガロウ、本気でやるつもりか?」

「冗談に見えるか?」


 次の瞬間、盗賊の一人が獣化し、爪を振りかざして跳び掛かる。しかしガロウの抜刀は疾風(しっぷう)一閃(いっせん)──光が過ぎ、呻きもなく肉が細断されて地面に落ちた。


「くそっ! 伊達に七頭を名乗っちゃいねぇか──カラ()ッ!」


 呼びかけに応じ、別の盗賊が口笛を鳴らす。群れを成したカラスが闇から舞い上がるが──


「……兄貴、後で奢ってくださいよ」


 ウドンの腕が伸び、捕えられた鳥たちが一斉に悲鳴を上げ、空へ羽根を散らした。


「あ、あんたの体……」

「【弾力】と【伸縮】──俺の取り柄さ」


 カラスを使った伝達の策も潰え、残った盗賊たちは死に物狂いで斬りかかる。しかし格の差は歴然だった。夜風が揺らいだだけで、肉片が赤い軌跡を描き地へ墜ちる。


「ほら、大事なモンだろ? 二度と放すなよ」


 片がつき、ガロウは魔導義肢(まどうぎし)を拾い上げ、そっとスカーレッドの胸に押し当てた。震える腕で抱き締め、彼女の瞳から涙が溢れる。


「ありがとう……あんたに助けられるのは二度目だ。お礼なんて──何をしたら……」


「礼なんぞいらねぇさ。でも、どうしてもっつーなら、今度飯でも奢ってくれ」


 豪胆な笑み。スカーレッドも釣られるように微笑み返す。


「一体どんだけ奢ればいいんだい」

「ところで兄貴ィ、これ大丈夫っすかね?」


 血煙を眺めつつウドンが心配そうに呟いた。


「さぁな。元より乗り気じゃなかったしな。俺はあのリョウガってのと一戦交えられりゃ、それで十分だったんだがなぁ」

「リョウガ……あんた、リョウガを知ってるのかい?」


 名を聞いた途端、スカーレッドの表情が変わる。ガロウは瞳を細めた。


「知ってるどころか、一度本気で斬り結びたくて仕方ねぇ相手だ。……まさか、お前もリョウガを?」

「ああ。リョウガとは顔馴染みさ。そうだね、助けられた事だし、あんたを信じて話すよ──」


 スカーレッドが語るリョウガの話を胸に、ガロウとウドンは黙って聞き入り、やがて深く頷く。そして──彼らは礼もそこそこに闇へ駆けた。


 闇夜に残されたスカーレッドは、胸元の義肢をそっと撫でる。その重みは、これからも彼女の未来を繋ぐ灯火となるのだった。

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