第18話 暫くの間だけ手解きしてやることにした
「一体いつまでこんなことさせるのよ!」
セラが不機嫌そうに声を張り上げた。俺はやれやれと頭を振った後答える。
「一体何が不満だ?」
「不満に決まってるじゃん! もう三日も経つのにまだ剣の扱い方も習ってないんだから!」
俺に不満をぶつけてくるセラ。しかしこいつは三日もといったが俺からすれば三日しかだ。
「俺は言ったはずだぞ。教えられるのは基本的なことだけだと」
「片足立ちでいることの何が基本的な事なんだよ……」
一本足の姿勢を保ちながらセラがぶつぶつ愚痴を零した。セラが強くなるために協力すると言った直後から俺はセラにこんな真似をさせていた。
もっとも最初は両足立ちだったがな。こんなの楽勝となめていたセラに与えた条件は両足で立ったままの彼女を中心に小さな円を描きそこから外には出るなだった。
セラは随分と高をくくっていたが、ただ立たせて終わりではなくセラに向けて石を投げたりして邪魔をした。
勿論ただの嫌がらせではなく、上半身を上手く使えば躱せるように調整してのことだったわけだがな。
目的は体幹を鍛えることにあった。体を扱う上では体幹は重要だ。これを鍛えておかないと全てにおいて中途半端な結果を招いてしまうし場合によっては死に至る。
だから最初はこの円から出ないやり方を徹底させていたのだが――
「ま、筋は良い方か――」
セラが調子づかないよう一人囁いた。初日は両足立ちでも俺の投げた石ころに反応しきれず、円から外に出まくっていたがそれも一日目で克服。二日目から片足立ちにさせてやってみたが、三日目の今、話しながらも投げ続ける俺の投石をスイスイ躱していた。
「ねぇ。こんなこと続けて意味があるの?」
セラはずっと疑問顔だ。こういった地道な練習こそ大事なんだがな。とは言え退屈に感じるということはそれだけ余裕が出てきたということか。
「……ま、いいだろう。ちょっと武器を使ってやってみるか」
「やった!」
武器の使用を許可するとセラが嬉しそうにはしゃいだ。
「それじゃあ剣を借りてくるよ」
「剣? そんなものはいらんぞ」
「え? なんでよ」
セラは随分と張り切っていて、盗賊の仲間から剣を借りようと思っていたようだ。
だがそんなのを持ってきても無駄だからやめさせた。
「ナイフはいつも持ち歩いているだろう。それを使えばいい」
「は? いや、ナイフなんかじゃ強くなれないじゃん。やっぱり剣じゃないと」
やれやれ、またトンチンカンなことを。
「ナイフだと強くなれないと思ったのはどうしてだ?」
「あんたに通用しなかったし」
「お前の腕じゃ剣を持っても無駄だ。百回やれば千回殺せる自信があるぞ」
まさか俺を殺せなかったから嫌がるとはな。短絡的すぎて頭が痛くなりそうだ。
「そこまで差があるの!? てか計算あわないし!」
セラが文句を言ってきた。意外と細かいところをついてくるな。
「大体ナイフより剣の方が威力高いじゃん」
「関係ない。どっちにしろお前の体格と力じゃ剣をもったところでアドバンテージは取れないぞ。それどころか却ってマイナスだ」
「な、なんでだよ!」
俺の指摘にセラは納得してない様子だ。やれやれそこまで説明しないといけないのか。
「逆に聞くがナイフの何が駄目だ?」
「え? だって小さいし」
「それは利点でもある。小さいからこそ小柄なお前でも扱えるし力も必要ない」
「でもそれじゃあ倒せないじゃん」
「そんなことはない。ナイフでもやりようによっては十分に倒せる。何なら一撃でな」
俺がそう説明するとセラが拳を握って食い気味に顔を近づけてきた。
「凄い! そういう一撃必殺みたいな技が知りたかったんだよ! 一体どうやるの!」
一撃必殺か。正直技と言える程じゃないんだがな。
「例えばここだ」
俺は自分の胸を指で示し、次にその指をセラの左胸に向け言葉を続けた。
「ナイフ一本でも心臓を穿けば死ぬ。首を掻っ切ってもいい。人間ならそれでも十分だろう。額に深く突き刺せば脳に達して死ぬ。目でもいいぞ角度に注意する必要があるが脳に損傷を与えれば殺したも同然だ」
「は?」
俺がそう伝えるとセラが呆れたような顔を見せる。
「いや……そんなの当たり前じゃん。私のことバカにしてるの?」
そして冷めた目で文句を言ってきた。どうやら期待した答えとは違ったようだな。
「そうだな。当たり前だ。だからこそ簡単ではない。相手もわかってることだからな」
これは簡単に言えば急所さえ的確に狙えば一撃で倒すことは可能ということだが、セラが言うように当たり前の話でありだからこそ難しいと言える。
それは当然相手もそう簡単に狙わせてくれないからだ。それに急所はしっかり防具で守ってる事も多い。
とは言え、どの程度動けるようになったか見ておきたいからな。
「とにかくそのナイフで攻撃してみろ。今言ったように急所を狙ってきてかまわないぞ」
「――馬鹿にして! だったら本気で狙うからね!」
さてどんなものかな――




