第176話 人探し
ゴングとパルコは休憩を取った後、会場を探し回っていた。探している相手は行方不明のアルである。
「あんたが子どもの為に動くなんてね」
「……俺らのような冒険者に憧れを抱いている子だからな。親には腹立つが後の冒険者かもしれない人材だ」
そう答えつつも会場をパルコと歩き回るゴング。だが見つからない。
「外に出たのかもな」
「ここから? でもそんなことある?」
「わからねぇが、もしかしたら何かしら事件に巻き込まれた可能性もあるだろう」
アルは貴族の息子だ。会場に紛れ込んだ何者かの手で攫われた可能性はある。
「とにかく一旦出るぞ」
ゴングとパルコは会場の外に出てアルの捜索を続けた。
「あれ? 貴方たち」
「うん? 確かあんたは……」
外に出た二人に声を掛けてきたのは夕食の時にも会ったネイラだった。
「ネイラはこのあたりを警護していたの?」
「持ち回りは交代ね。今はこの辺りを見てるわ」
「それならアルを見なかったか? 昨日レストランで話した男児だが」
「その子は見てないけど、そういえばあの猿なら見た気がするわね」
ネイラの答えにゴングとパルコが顔を見合わせた。
「どっちに行ったかわかるか!」
「確か向こうの方だったと思うけど」
「ありがとうねネイラ!」
ネイラにお礼を伝え、ゴングとパルコは小猿を見たという方に向かった。そして――
「ウキィ! キィ!」
道端で必死に何かを訴えようとしている猿を見つけた。アルが連れていた小猿で間違いないだろう。
「見つけた。お前飼い主のアルはどうしたんだ?」
「ウキィ! キィ!」
「何かを伝えようとしているみたいね」
身振り手振りで訴える小猿にパルコは一考した。
「ウキィ!」
「ねぇ。一旦下ろしてあげたら?」
「あ、あぁそうだな」
ゴングが地面に下ろすと小猿が移動を始めた。
「お、おいまた勝手に!」
「待って!」
パルコが制すと小猿は二人をチラチラ窺いながら先に進もうとしていた。
「私たちを導こうとしているみたい」
「そういうことか。よし頼んだぜ!」
そして小猿を追いかける二人。そのまま路地裏に入るとズタ袋を壁際に置いた数人の男の姿があった。
「このガキ金になるのか?」
「あのババァならいけるだろう。ガキの為ならいくらでもだしそうだぜ」
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
「その前に、袋の中身を見せてもらおうかしら?」
「ウキィ!」
ゴングが拳を鳴らして近づくと男たちの顔色が変わった。
「だ、誰だテメェら!」
「何、しがない冒険者だよ。いいからさっさとその袋を――」
「ン~ン~!」
「ウキィ!」
その時、ズタ袋がもぞもぞと蠢き中から声がし小猿がすぐさま袋に飛びついた。
「こ、このエテ公が!」
「おっとさせないわよ。ウィンドバッシュ!」
パルコが魔法を行使すると、小猿に腕を伸ばした男が吹き飛び壁に叩きつけられた。
「お前らは俺が相手してやるよ」
ゴングが距離を詰め残った連中を纏めて殴り飛ばした。そうこうしている内に小猿が器用に袋の縄を解き中から猿轡を噛まされたアルが姿を見せた。
「全く本当に人攫いにあってたとはな」
「ち、畜生! もう少しで上手くいったのに」
「こんなの上手くいくわけないじゃん。金目当てで馬鹿なことしたわね」
「うるせぇ! あのババァがわりいんだよ! 俺等のこと見下しやがって!」
アルを攫おうとした男の一人が叫び唇を噛んだ。どうやら金目当てもあったようだが怨恨もあったようだ。
「う、うぇぇん」
「よしよし。良かったわ無事で」
泣き出すアルにパルコがしゃがみ優しく抱きしめた。よほど怖かったようである。
「うん? おいどうした猿?」
「ウキィ……」
パルコがアルを宥めていると、小猿が近くの屋根の上に飛び移り不安そうな声を上げた。上空を見ながら何かを警戒しているようであり。
「ウキィ! キキィイイイィイイ!」
急に威嚇するような声を上げた。それとほぼ同時だった街中に鐘の音が響き渡ったのは――




