第173話 昼休憩
「モグレス子爵の奥方でしたか。私の方こそいつもお世話になっております。まぁとりあえず頭をお上げください」
「は、はい。お見苦しいところをお見せしました」
モンドに促され男女が頭をあげた。文句を言ってきていたのはモグレス子爵の奥方か。まぁこの場にいる以上それ相応の身分ではあるのだろう。
「本当に申し訳ない。妻も息子が急にいなくなったことで気が気ではないようで」
困り顔でモグレスが理由を伝えた。さっきの様子からそれはなんとなく理解できるか。
「それはわかります。ただ彼らはここでは私の身の回りの警護をしてくれてますからな。奥方の言うような真似は不可能でしょう」
モンドがそう説明した。俺たちは朝からずっとモンドの側にいるからな。アルという子どもをどうこうする暇もなかった。
「それは勿論です。興味心の強い子ですから我々た目を放した好きにどこかに行ってしまったと思ってます。とにかくこちらも一緒に来ている者に頼んで探して貰っているところでしてこちらはこちらでなんとかしますので。ほら、わかったらお前も行くぞ」
「クッ、は、はい、わかりました。失礼いたしました」
女は納得してないようではあったが夫に強く言われるとそれ以上文句を口にすることはなかった。
そして腕を引っ張られながら俺たちから離れていく。途中で頬をポリポリと掻いていたな――同時に周囲に死の気配が漂い始める。
「――そろそろ気をつけた方がいいのかもな」
「え? どうしたのリョウガ真面目な顔して」
俺の呟きにマリスが反応した。何もなければそれにこしたことはないのだろうがな。
「……これから何か起きるかもしれない。マリスも気を引き締めて置くんだな」
「え? う、うん……」
俺が忠告するとマリスが表情を固くさせた。
「……何かちょっと腹が減ってきたな。ここで一旦昼休憩をとってもいいか?」
するとゴングが腹を擦りながら言った。確かに時間的にはそれぐらいだろう。
「ちょ、ゴング何呑気なこと言ってるのよこんな時に」
「……こんな時だからだよ」
パルコが呆れたように言うもゴングが真顔で答えた。
「……なるほど。確かに休憩も大事ですからね。先に二人で行くといいと思いますが皆様は問題ありませんか?」
「俺は問題ない」
俺が答えた後イザベラとクリスにも確認しに言ったようだが問題ないようだった。ゴングの考えはなんとなくわかった。それはモンドも一緒なのだろう。
「それなら先にいかせてもらうぜ。休憩中は制限は別にないよな?」
「そうですね。一時間程度好きにしてきてもいいでしょう」
「了解。行こうぜパルコ」
「う、うん、わかったわよ」
そしてゴングとパルコが昼休憩に向かったわけだが――
◇◆◇
「そろそろ頃合いだな」
キングが巨漢を揺らしながら立ち上がった。周囲の連中もその目をギラギラさせている。
「いよいよだな」
「派手に暴れてやるか」
「頭。いつも通り好きに奪って構わないんっすよね?」
「当然だ。さっきも言った通り邪魔する奴や気に入らねぇ奴は殺せ。欲望の赴くまま好きにして構わねぇ。それが俺らの流儀だからな。さて行くぜ――グォオオオォォォォォオオォオオオオ!」
キングが雄叫びを上げた。その途端、周囲から飛び交う咆哮――そして血に飢えた魔獣や怪鳥が一斉に動き出した。
「お前らも派手に暴れろぉおぉおお! 獣の血を滾らせろぉおお! 血祭りの始まりだぁああぁああ!」
今、まさに商業都市トルネイルに血肉に餓えた盗賊と魔獣たちが押し寄せようとしていた――




