第17話 潮時
昨晩は盗賊たちも随分と盛り上がっていたな。俺も受け入れられてきたようだが――潮時だと思っていた。
おかげでこの世界の知識もある程度得たし読み書きも問題ない。今ならもう会話も問題ないだろう。
いつまでも盗賊の世話になるつもりない。出るなら早いほうがいいだろう。
俺はゴーガンと話をしに向かい、そこで近日中に出ていく旨を伝えた。
本来ならすぐに出てもいいのだが朝から雨が降り続いている。勿論雨程度出ようと思えば出れるが、無理して天候の悪い日に旅立つ事もないだろう。
もっともゴーガンがすぐに出て行けと言うなら話は別だがな。教わることも教わったし例えそう言われたとしても恨むつもりもない。
「おいおいまた急すぎる話だな。まさか今日って事はないだろう?」
「一応雨が収まってからと考えてる」
ゴーガンが随分と大げさな身振りで驚いて見せた後、いつ出るのか確認してきた。
なので考えていた通りの内容を伝える。
「雨が止んだらか。確かに今はかなり激しいからな。暫く晴れが続いていた分今回は長引きそうだ。落ち着くまで十日程度はいるかもな」
ゴーガンがそう教えてくれた。結構掛かるんだな。とは言えすぐに出て行けと言われることはなかったか。
「なぁ……今一度確認だが俺たちと一緒にやっていくつもりは?」
媚びるような目でゴーガンが聞いてきた。この質問は何度かされているが俺の答えに変わりはない。
「くどい。前にも言ったとおりだ」
「だよなぁ。やっぱり」
後頭部を摩りながらゴーガンが眉を落とした。そういえば結局ゴーガンたちは俺がいる間、盗賊業をしてなかったな。
「仕方ないか……逆に俺にとっては丁度いいタイミングかもだしな」
ぶつぶつとゴーガンが独りごちる。どうやらゴーガンはゴーガンで今後の身の振りかたについて色々考えているようだな。
とは言え俺には関係のない話だから深くは追求しないが。
「仲間たちには俺から伝えておこう。とは言え、みんな寂しがるだろうな」
「そうか? 俺はお前たちの仲間を殺した男だぞ」
「基本盗賊だからな。最初は恨み言の一つも言っていたが、命の覚悟ぐらいは出来ている。それだけに受け入れるのも早いのさ」
そうか。確かに俺たち暗殺者も命に対しての頓着は低い。失敗して死んだとしても仕方ないと考え割り切る。
こっちの世界の盗賊にしても似たようなものなのかもな。まぁセラみたいに復讐を考えるのもいるようだが。
ゴーガンとの話が終わり一旦自分の部屋に使ってる穴蔵に戻った後、適当に洞窟内をぶらついていたらやたら盗賊に声を掛けられた。
もう俺がここを出ることが伝わっていたようだ。中には涙ながらに別れを惜しむようなのもいて少々戸惑ったぞ。
「おいお前!」
盗賊連中から声を掛けられたりしながら歩いていると何やら怒鳴り声が背中に刺さった。
見るとそこには小柄なセラの姿。眦を吊り上げて何とも機嫌が悪そうだ。
「聞いたぞここを出るって! そんなの許さないぞ!」
「いや、許さないって別にお前の許可を貰う必要ないだろう」
全くわけがわからない。だいたいこいつは俺を恨んでいただろうに。俺がいなくなった方が嬉しいんじゃないのか。
だがセラは肩をプルプルと震わせて顔も赤くなって来ていた。
まさかまだ復讐で殺したいとか思っているのか? 悪いが性懲りもなく命を狙ってくるようならもう容赦はしないぞ。
「お前! 私に戦い方を教えろ!」
「……は?」
だが、そんな俺の怪訝を他所に返ってきた言葉は何とも奇妙なものだった。
「だから私に戦い方を教えろと言ってるんだ!」
「何故だ? わざわざそんな面倒な真似をする理由がない」
唐突に命令口調で言われてもな。だいたい俺の技術は教えてどうにかなるものじゃない。
「お前は私の母さんを殺したんだ。だから私はお前より強くなって見返してやる! そう決めた」
「そうか頑張れよ」
目標を持つのは悪いことじゃない。俺が殺しておいてなんだが、ウジウジと母親のことを引きずって生きていても仕方ないからな。
これからも高い目標に向けて日々精進して欲しいと思いつつ俺はその場を立ち去るのだった。
「だから待てよ! 私に戦い方を教えろ!」
だがセラが追いかけてきてしつこく食い下がってきた。何なんだこいつは。
「お前、俺を超えたいんだろう? それなのに俺から教わってどうする」
「あんたに教わって、あんた以上に強くなって、将来あんたに吠え面かかせるんだよ」
何だその妙に遠回りにも感じられる杜撰な計画は。
「教えてやんなよ」
その時、別な女の声が俺の耳に届いた。この声はミトラか――
「揃いも揃って一体何なんだ?」
「いいじゃないか。聞いたよここを出ていくんだろう? でも今は相変わらずの雨さ。暫く止まないしその間はどうせ暇だろう? だったらその間ぐらいはいいじゃないさ」
ミトラがウィンク混じりにそんな事を言ってきた。
その後近づいてきて、耳元でセラが割り切ろうと頑張ってるみたいなことも囁かれたが俺にとっては本来どうでもいい話だ。
とは言え、このまま無視してつきまとわれるのも面倒か――
「わかった。ただし雨が止んだらここを出るのは変わらない。それまで限定なら基本的なことぐらいは教えてやる」
「だってさ。良かったねセラ」
俺の答えを聞き、ミトラが白い歯を覗かせセラの頭を撫でていた。
やれやれ仕方ない。そして俺は雨が降ってる間だけセラのことを鍛えることになったわけだが――




