第144話 不本意ながら試合する
俺はネイラと試合することになった。まぁ報酬的には十分な上乗せを認めてもらった。金はあってこまることもないからな。
勿論金だけが目当てではないけどな。どちらかといえば警告の意味合いも強い。俺とネイラの試合を見てどう判断するかは、ここから俺がどう立ち振る舞うかにもよるのだろうがな。
『えぇ何やらゴタゴタしておりましたがいよいよ試合開始となります! イザベラ選手が強いと称したリョウガ選手は果たしてどのような戦いを披露するのか! そしてネイラ選手は連勝なるか!』
テンション高めにこの場を盛り上げようとする司会者。あれはあれで司会者としての仕事を全うしようとしているのだろう。
「あの女は随分と貴方を買っていたようね。戦ってみたら弱くてガッカリなんてことにならなければいいのだけど」
「ま、精々頑張るさ」
挑発じみたネイラのセリフを聞き流しつつ俺は軽く構えてみせた。
「……貴方武器は?」
ネイラが聞いてきた。おいてある武器から何も取らず構えを取ったから疑問に思ったか。
「必要ない。敢えて言えば俺の肉体が武器だ」
『お~~~~っと! これは驚きだ! なんとリョウガ選手は拳を武器に戦うスタイルのようです! 射程の長い鞭使いのネイラ選手に果たしてどう立ち向かうのか!』
司会者の声に呼応するように会場も盛り上がっていく。素手で戦うというだけでこれか。別に珍しいことでもなさそうだがな。
「格闘技を使うってこと? ま、お手並み拝見といこうかしら」
「お手柔らかに」
俺に鋭い視線を向けながらそんなことを言ってのけたネイラ相手に適当に応じた。俺の態度が気に入らなかったのかネイラが眉を顰めた。
「拍子抜けってことにならなければいいけど、ね!」
牽制混じりの挨拶も済み、先ずネイラが仕掛けてきた。相変わらずあの鎖の鞭を利用しての攻撃か。確かに巧みな鞭さばきで変幻自在の攻撃を見せてくれる。この手の武器に慣れてない相手なら翻弄されて避けるのも困難かもしれない。
だが、この程度の鞭使いなら元の世界にもゴロゴロいた。
「な!」
『お~っと! なんとリョウガ選手! ネイラ選手の攻撃を避けている! しかも余裕綽々だぁああぁああ!』
ネイラの目が見開かれ司会者も声を張り上げた。言葉通り俺はネイラの鞭を難なく避けていた。確かに腕は確かだと思うが鎖の鞭を扱ったのもよくなかったな。革製の鞭に比べればどうしても動きに靭やかさが足りなくなる。
その分見切るのは簡単だ。威力を重視したのかもしれないが俺みたいな相手には通用しない。
「まだまだだな」
「――ッ!?」
俺はタイミングを見て一気に間合いを詰めた。鎖の鞭は戻りも遅いのが難点だな。ここまで近づけば鞭の利点も活かせない。
そして俺はがら空きのネイラの腹部に拳を叩き込んだ――あの動きを見せる暇もなかったようだがこれは?
「――くそ!」
俺の拳を受けたネイラは後ろに飛び空中で宙返りしながら地面に着地した。悔しそうにしているがそこまでのダメージになってないか。
『これは驚きの展開だぁああぁあ! なんとネイラ選手ここにきて初めての被弾! その威力に大きく吹き飛ばされてしまいました! ですが流石ネイラ選手、すぐに体勢を立て直して見せました!』
随分と盛り上げてくれているがあの司会者は根本的に間違っているな。まぁ敢えて指摘するほどでもないが。
『さぁネイラ選手! まだまだ試合はこれから! 果たしてどのような戦いを!』
「負けたわ」
『……へ?』
ヒートアップする司会者だったがネイラの一言に言葉を失う。
『えっと今、なんと?』
「負けたと言っているのよ。何度も言わせないで。このままやってもあいつには勝てない。だからこの試合は負けを認めるわ」
会場が随分とざわついているが、確かにネイラは負けを宣言したようだ。意外とあっさりだったが鋭い目つきが変わっていないのが気になるところだが――




