第132話 暗殺者はコロシアムを見学する
コロシアムは入場券を購入して入場する方式なようだった。俺たちの入場券はモンドが購入してくれた。
モンドたちに付き従ってコロシアム内に入る。入ってすぐに賭けを受け付ける窓口が見えた。中は広いが客入りも多かった。宙空で半透明なスクリーンが浮かび上がっていてそこに現在のオッズが表示されている。
特別な魔導具をつかって映し出されているそうだ。こういうところは俺のいた世界より未来的だなと思わせる。
「人が多いねぇ。これは盛況だ」
「目を血走らせているのもいるわね……」
イザベラは興味深そうに辺りを見回し一方でパルコは少し引き気味だった。やはり賭け事だけあって異様に熱くなる客も一定数いるのだろう。
「ふむ。どうやら目的の特別試合は今からみて三試合目らしいね。それまではちょっと見学してみようか。興味があったら君たちも賭けてみてはどうかな?」
モンドからそんな提案を受けた。だが賭け事に興味はない。
「俺は遠慮しておく」
「私もいいかな」
「私はやってみるよ! えっと次の試合はっと」
俺とパルコは辞退したがイザベラは乗り気だった。次の試合のオッズを確認している。
「ここの試合は主に三種目あってね。登録した闘技者VS魔物や魔獣、魔物や魔獣同士の試合、そして闘技者VS闘技者だ。どれも人気だが全部の試合で一番多いのはやはり闘技者同士の対決なのだよ」
モンドが説明をしてくれた。どうやら試合の形式は多岐にわたるようだ。今イザベラが賭けようとしている試合はそのうちの闘技者同士の試合。次の試合は魔物や魔獣同士を戦わせるもの。
こっちは複数体が入り乱れる試合のようだな。その分予想が白熱しているのかオッズの変動が激しい。
「次の試合は実力が均衡しているのかい。これは難しいねぇ」
イザベラが悩んでいた。確かに次の試合はどちらもオッズに対して違いはない。互いに2.2~2.5の間で変動しているがこれならばどちらが勝ってもおかしくないだろう。
「後3分で締切となります。賭けに参加する方はお急ぎください」
窓口の男が声をあげた。イザベラが慌てだす。
「よし! こっちにするよ!」
そしてイザベラがダッシュで窓口に向かった。しかし許可が下りたとは言え依頼人に脇目も振らず賭け事とはな。中々自由な性格だ。逆に羨ましいかもな。
「いやぁ間に合ってよかったよ」
イザベラがチケット片手に戻ってきた。賭けた相手が買った場合、あのチケットと引き換えに配当金が貰えるようだ。
「では席に移動しますか」
モンドに促され俺たちは闘技場を囲うように設置されている観客席に向かった。俺たちが席につくとほぼ同時に闘技場に二人の闘技者が姿を見せた。
「さぁ試合が始まったよ!」
イザベラがチケットを固く握りしめて試合に集中した。三十代ぐらいの男性二人の試合だった。一人は斧使いでもう一人は弓使いなようだな。
試合が始まるとまっさきに動いたのは弓使いだ。動きが俊敏で疾駆しながらも弓に矢を番え放つ。
「へぇ、中々やるねぇ」
イザベラが感嘆の声をあげた。矢は斧使いの肩に命中した。しかしそれでも怯まない斧使い、タフなようだ。
弓使いは次々と矢を放つが斧使いはそれを斧で叩き落としていく。それでも全ての矢を退けることは難しいようで幾つか当たり体中に矢が突き刺さった状態となる。
「キャッ!」
見学していたエンデルが悲鳴を上げて顔を背けた。やはりこの手の試合は彼女には刺激が強かったらしいな。
俺はとりあえず試合に目を向けていたが既に決着はついたと思っていた。確かに斧使いの体に矢が刺さり一見すると弓使いが有利だが斧使いは上手いこと急所を避けておりダメージ自体は大したことがない。
「闘技・斧双突撃!」
叫ぶと同時に斧使いの全身からオーラが漲り一気に加速した。そのまま弓使いとの距離を詰め斧を振り上げた。弓使いは反応できず左の肩口から先が宙を舞った。
「ガアアアアァアアアァアアアアァアアア!」
弓使いが叫び声を上げ地面を転げ回る。あれでは自慢の弓はもう使えないだろう。斧使いはそのまま弓使いに近づき斧を振り上げたが――
「ま、まいった! 私の負けだ!」
必死の形相で弓使いが叫んだ。斧使いの手はそこでピタリと止まる。
「決着! 勝者はアグザル選手です!」
「あぁあああ畜生負けたーーーーーー!」
「おいアグザル! そいつを殺せぇええぇええ!」
「そうよ殺してぇえええぇ!」
周囲から絶叫が響き渡った。殺せと煽っているのは賭けに負けた連中か。
「全く負けたからって酷いもんだねぇ」
「そういえばイザベラはどうだったの?」
「ヘヘッ、勝ったよ!」
パルコに聞かれイザベラが得意げに語った。ホクホク顔だな。
「あ、あの人は殺されるのですか?」
「いや。これでもルールはあるからね。参ったと宣言した相手を殺すのは認められていないのさ」
エンデルの問いかけにモンドが答えた。ホッと胸をなでおろすエンデルだったがその顔色は悪かった――




