第116話 二日目の護衛へ
昨晩は全員早めに寝て明朝に備えた。二日目は日が昇り始めた頃から出発することが決まっていたからだ。
「ふぁ~おはようリョウガ」
マリスが瞼をこすりながら挨拶してきた。まだ眠そうだな。その後は他の護衛も準備を終えて部屋から出てきた。
「おはよう。朝早くから悪いね。朝食は馬車の中で摂って貰うことになると思うがそこは我慢してもらえると助かる」
モンドが出てきて申し訳無さそうに言ってきた。俺としては朝食がしっかり出るだけでも十分だと思うがな。
「問題ないさ。長旅で宿に泊まれるだけでもありがたいってもんだしな」
「そうだね。ほとんど野宿ってこともザラにあるわけだし」
ゴングとパルコも特に問題ないようだ。冒険者として過ごしていれば快適と言えないような旅を幾度も経験しているのだろう。
「素晴らしい朝に感謝を。そしてこれからの旅に神のご加護があらんことを」
クルスが皆に祈りを捧げていた。見た目通り信仰心が強そうだ。
「イザベラ、そっちになにかあるの?」
「うん?」
皆から少し離れた位置で遠くを見ていたイザベラにマリスが聞いた。
「――これから行く山の様子を見ていたのさ。初日に比べればこれからの方が自然と危険度が高まるからねぇ」
イザベラが答えた。これからは山越えルートだ。麓には密度の濃い森も広がっている。イザベラが気にするのも当然か。
「たとえ危険だとしてもいかなきゃ仕方ないからな。そういう時の為に俺等がいるわけだし」
「えぇ。頼りにしてますよ」
そして俺たちはそれぞれ馬車に乗ることになった。今回もモンドとエンデルの乗る馬車に護衛から二人がつくことになるわけだが、ここではパルコとマリスがモンド側に同乗することになった。
俺はゴングたちと一緒の馬車に乗り込み、朝食にと提供されたパンと干し肉を齧っていた。
「男女のペアかと思ったら違ったんだね」
「……当初はそのつもりだったが俺がパルコに頼んだ」
パンを齧りながら不思議そうに語るイザベラにゴングが答えた。あえてこの組み合わせになるようにしたってことか。
「それは一体何故ですか?」
クルスが問いかける。どこか怪訝そうな顔だ。
「そんな顔するなよ。安心しろ今更リョウガに喧嘩を売る気なんてねぇよ」
クルスの不安を察したようにゴングが答えた。わざわざこの組み合わせにした以上、昨日のことで何か言い出すと思ったのかもな。
「だが、リョウガと一緒になりたかったのは確かだがな」
「なんだいあんた。そんな趣味があったのかい?」
「馬鹿野郎! んな筈あるか!」
イザベラの指摘に顔を真っ赤にさせてゴングが否定した。俺としてもそこは否定してもらった方が助かる。
「聞きたかったのさ。スキルも持たないリョウガがなんでここまで強くなれたのかをな。何せリョウガは俺よりも大分若い。にも関わらずあの強さ、もしかしてとんでもない師匠に師事でもしてたのか?」
どうやらゴングには実力を認めて貰えたようだ。そこはどうでもいいが、まさか師匠がいるか聞かれるとはな。
「――別に師匠がいたわけじゃないが、俺の家がそういう家系だった。それだけだ」
「つまり親がとんでもねぇ実力者ってことか。一体何をしていた親なんだ? やっぱり冒険者か?」
ゴングが食い気味に聞いてきた。だが流石にここで暗殺者だとは言えないか。そもそも世界も違うからな。
「まぁ似たような物だ」
「そうなんだねぇ。でも、そこまで強いならよっぽど名のしれた冒険者なんだろうねぇ」
イザベラも余計なことに興味を持ったものだな。
「みたいなものだと言っただろう。変わっていてな。正式に登録していたわけじゃないのさ。組織に縛られるのが嫌いだったからな」
流石に冒険者ということにしてしまうと無理があるからな。適当にお茶を濁しておく方が無難だろう。
「ギルド未所属ってことか。随分と自由だったんだな。いや、むしろだからこそか……」
どうやらゴングは勝手に納得してくれたようだな。その方が面倒がなくていいが。
「なぁ、親の名前だけでも聞いていいか?」
「悪いが目立つのを嫌うタイプなんだ。ついでに言えば今どこで何しているかも知らないぐらいだ」
まぁ嘘でもない。暗殺者が早々に目立った行動をとるわけにもいかないからな。それに今何してるかもこの世界からじゃ当然わからない。
「そうか……残念だな」
そこで一旦話は終わった。やれやれ敵対心むき出しでいられるよりはマシかと思えばどちらにしても鬱陶しいな。これ以上聞いてくるのは勘弁してほしいものだ。
そんなことを考えていると馬車が急停止した。明らかに何かトラブルが発生した様子だな――




