星零の歌姫。――EP.4
[The Diva of Starry Rain.――EP.4]
「大丈夫そう?」
ツヅリの問いかけに、
「問題無さそうだな」
「う、ウチもですぅ……」
「あ、私もへーきだった」
3人が答えた。
すぐさま距離を取る。
ツヅリもすでに臨戦態勢。
スミレは「あうあう」言っていた。
襟首を掴んで下がらせる。
「戦えるようにしておけ」
と小声で囁く。
こくこくこく、と一生懸命に頷くスミレ。
「……それで、アンタは何者だよ?」
3人目に向かって問う。
すると、彼女は愉快そうに言った。
「何者、なんて言われたのいつぶりだろう? 逆に新鮮かも?」
確かに、彼女を知らない人間など、日本全体でもどれだけいるだろうか。
「一応、名乗ろうかな」
芝居がかった調子で少女は言う。
髪を掻き上げる。
豊かに波打つプラチナブロンド。
月明かりに濡れて、怪しく光る。
三日月のように綺麗な唇が、すっと横に引き延ばされる。
間から白い歯が見えた。
彼女の瞳から、目線を逸らせない。
大きな、石のような瞳。
ツヅリとは違った種類の美しさ。
なんと言うか、華がある。
「はじめまして。私はシイカ。星零の歌姫、なんて呼ばれたりもするよ。よろしく」
しかし、惹かれたのもわずかに一瞬。
「「はぁ……」」
ツヅリと俺は溜め息を吐く。
「「そっくりさんか……」」
「違う! 本物だから!」
自称:歌姫は言った。
「アホか、お前」
「いやいや! アホかもだけど、本物ではあるって!!」
「そもそも、どうしてリアル・アバタなんだよ?」
リアル・アバタ。
つまり、現実世界と全く同じ容姿の分身だ。
【計画】では、本物の金がやりとりされる。
身バレのリスクは、普通のオンラインゲームよりも遙かに高い。
リアル・アバタを使う奴なんてまずいない。
よほどの酔狂か、何か事情があるか。
「シイカほどの有名人が、わざわざリアル・アバタを使うわけないだろ」
だから、コイツは単なるそっくりさんだ。
「そ、そんなわけないじゃん! そもそも、肖像権の侵害じゃん!」
肖像権。
憲法で定められた権利の1つ。
ざっくり言えば、
「勝手に写真を取られたり、写真を無断で公開されない」
という権利。
人格権の1部。
他人の姿を使ってアバタを造ることも、肖像権を侵害する。
「良くできた偽物だな」
「うん。言われてみれば、アスペクト比が若干おかしいかも」
「ほ、本物の詩歌は、もっと綺麗だった気がしますぅ……」
このアバタ、本物からは少しだけ形状を変えているのだろう。
とは言え、ここまで似せているとグレーゾーンだ。
「本物だって! これが1番、綺麗な歌姫だってば!!」
そっくりさんは涙目で言う。
「はいはい。それで歌姫さんよぉ」
「し、信じてないっ!?」
「信じてます、信じてます」
正直、この偽姫が本物かどうかなんて問題ではない。
誰も挑戦したことがな試練:【星海航路】の途中なのだ。
借金を返さなければならない。
生活も懸かっている。
「……で、ツヅリ。どうするんだ?」
「まずは探索だよねー」
それは同意。
しかし、
「く、暗いの怖いですぅ……」
と、スミレが言う。
砂浜から先は森が茂っている。
甘い花の香りが漂う南国の森だ。
しかし、その暖かさのせいか植物も盛大に繁茂している。
初めて訪れるエリアだ。
確かに、夜に歩く場所ではないか。
「とりあえず海岸沿いに探索してみるか?」
「そうだね。良い場所があったら拠点も確保したいし」
方針が固まる。
「それで、私はどうすれば良いかな?」
にこにこと笑う偽物の歌姫。
俺たち3人はそんな彼女を無言で眺めていた。
「……ど、どうすれば良い、かな?」
偽姫の笑顔が引きつる。
「どうしてボク達に着いてくるの?」
ツヅリが冷めたトーンで問う。
「……え? だ、ダメだった!?」
「だって、どこのだれかも分からないから」
「せ、世界の歌姫、詩歌ですっ!」
両手でピース。
語尾に音符がついていた。
「「「へぇ……」」」
「し、信じてない!?」
当たり前だろう。
いつの間にか、ツヅリが俺の背後にいた。
彼女は小声で囁く。
(怪しいよね?)
頷く。
俺たちはゲーテの大迷宮を踏破して、ようやくこの島まで辿り着いたのだ。
(ゲーテの大迷宮をクリアしたの、ボクたちが一番だったよね?)
(そうだな)
つまり、クエストを開始するためのアイテム、【星の導き】を持っているのも俺たちだけ。
ならば、この偽姫はどうやってここまで来たのか。
「で、世界の歌姫様はこんな所で何してんだよ?」
俺が問う。
彼女は泣き出した。
「よ、よくぞ訊いてくれました!」
そして、嬉しそうに笑う。
訊かなければ良かった。
「手短に頼むぞ」
こくこくこく、と盛大に頷いて見せる。
「うん! 船に乗って遊んでたら、流されて帰れなくなった。21文字! すごい!」
「やるじゃないか……」
ちらりとツヅリを見る。
(エンはどう思う?)
目線で訊いていた。
「嘘とも言い切れないけど……」
この島に辿り着くだけなら【星の導き】が無くても可能。
ただ、【星の導き】が無いとイベントが発生しない。
だから、彼女はここで立ち往生していた。
そう言った自体はあり得るかもしれない。
嘘とも断定できない。
「うーん……」
ツヅリは悩ましそう。
「本物ですよぉ……!!」
半泣きの偽姫。
今の争点は、彼女が本物かどうかではない。
そこについては偽物ということで片付いている。
問題は別だ。
チュートリアルをクリアしていないはずのプレイヤが、どうしてここにいるのか。
「そこのイケメンのお兄さん! 話をきいてください!!」
縋るように彼女は言う。
「エンはイケメンではありません」
答えたのはツヅリだ。
「エンがイケメンだなんて、噓吐きにも程があるよね」
「か、カラスが白いって言われた方が、まだ信憑性があります……」
「おい。お前ら」
俺だって傷つくのに。
「お、お世辞にそこまで怒らなくても……」
シイカが言う。
お世辞かよ。
知ってたけど。
「ツヅリ。スミレ。ちょっと」
「ん?」
「は、はい……」
彼女たちを呼ぶ。
(とりあえず、仲間にしとこう)
偽物には聞こえないように囁く。
すると、2人の少女が眇めた目で俺を見る。
(キミは美形の女性アバタなら何でも良いの!?)
(エンさん……)
「違う!」
思わず声を声を出してしまう。
離れていた偽姫が、びくり、と身体を震わせる。
(……と、とにかく、あいつが何者か結論は出ない。だったら、近くにいてもらった方がマシだ。監視できるからな)
(それもそうかぁー。情報も無いからねぇ)
スミレも頷く。
方針が決まった。
「あ、分かった!」
しかし、そんなことは知らないで偽姫は言う。
「歌えば良いんだ! 歌えば証明できるじゃん!!」
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総資産:-42,852,108(日本円)




