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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
83/204

星零の歌姫。――EP.4

[The Diva of Starry Rain.――EP.4]


「大丈夫そう?」


 ツヅリの問いかけに、


「問題無さそうだな」

「う、ウチもですぅ……」

「あ、私もへーきだった」


 3人(・・)が答えた。


 すぐさま距離を取る。

 ツヅリもすでに臨戦態勢りんせいたいせい

 スミレは「あうあう」言っていた。

 襟首を掴んで下がらせる。


「戦えるようにしておけ」


 と小声で囁く。

 こくこくこく、と一生懸命に頷くスミレ。


「……それで、アンタは何者だよ?」


 3人目(・・・)に向かって問う。

 すると、彼女は愉快そうに言った。


何者・・、なんて言われたのいつぶりだろう? 逆に新鮮かも?」


 確かに、彼女を知らない人間など、日本全体でもどれだけいるだろうか。


「一応、名乗ろうかな」


 芝居がかった調子で少女は言う。


 髪を掻き上げる。

 豊かに波打つプラチナブロンド。

 月明かりに濡れて、怪しく光る。

 三日月のように綺麗な唇が、すっと横に引き延ばされる。

 間から白い歯が見えた。

 彼女の瞳から、目線を逸らせない。

 大きな、石のような瞳。


 ツヅリとは違った種類の美しさ。

 なんと言うか、華がある。


「はじめまして。私はシイカ。星零せいれいの歌姫、なんて呼ばれたりもするよ。よろしく」


 しかし、かれたのもわずかに一瞬。


「「はぁ……」」


 ツヅリと俺は溜め息を吐く。


「「そっくりさんか……」」


「違う! 本物だから!」


 自称:歌姫は言った。


「アホか、お前」

「いやいや! アホかもだけど、本物ではあるって!!」

「そもそも、どうしてリアル・アバタなんだよ?」


 リアル・アバタ。

 つまり、現実世界と全く同じ容姿の分身アバタだ。


 【計画ザ・プロジェクツ】では、本物の金がやりとりされる。

 身バレのリスクは、普通のオンラインゲームよりも遙かに高い。

 リアル・アバタを使う奴なんてまずいない。

 よほどの酔狂か、何か事情があるか。


「シイカほどの有名人が、わざわざリアル・アバタを使うわけないだろ」


 だから、コイツは単なるそっくりさんだ。


「そ、そんなわけないじゃん! そもそも、肖像権しょうぞうけんの侵害じゃん!」


 肖像権。

 憲法で定められた権利の1つ。

 ざっくり言えば、


「勝手に写真を取られたり、写真を無断で公開されない」


 という権利。

 人格権の1部。

 他人の姿を使ってアバタを造ることも、肖像権を侵害する。


「良くできた偽物だな」

「うん。言われてみれば、アスペクト比が若干おかしいかも」

「ほ、本物の詩歌シイカは、もっと綺麗だった気がしますぅ……」


 このアバタ、本物からは少しだけ形状を変えているのだろう。

 とは言え、ここまで似せているとグレーゾーンだ。


「本物だって! これが1番、綺麗な歌姫だってば!!」


 そっくりさんは涙目で言う。


「はいはい。それで歌姫さんよぉ」

「し、信じてないっ!?」

「信じてます、信じてます」


 正直、この偽姫が本物かどうかなんて問題ではない。


 誰も挑戦したことがな試練クエスト:【星海航路】の途中なのだ。


 借金を返さなければならない。

 生活も懸かっている。


「……で、ツヅリ。どうするんだ?」

「まずは探索だよねー」


 それは同意。

 しかし、


「く、暗いの怖いですぅ……」


 と、スミレが言う。


 砂浜から先は森が茂っている。

 甘い花の香りが漂う南国の森だ。

 しかし、その暖かさのせいか植物も盛大に繁茂はんもしている。

 初めて訪れるエリアだ。

 確かに、夜に歩く場所ではないか。


「とりあえず海岸沿いに探索してみるか?」

「そうだね。良い場所があったら拠点も確保したいし」


 方針が固まる。


「それで、私はどうすれば良いかな?」


 にこにこと笑う偽物の歌姫。

 俺たち3人はそんな彼女を無言で眺めていた。


「……ど、どうすれば良い、かな?」


 偽姫の笑顔が引きつる。


「どうしてボク達に着いてくるの?」


 ツヅリが冷めたトーンで問う。


「……え? だ、ダメだった!?」

「だって、どこのだれかも分からないから」

「せ、世界の歌姫、詩歌ですっ!」


 両手でピース。

 語尾に音符がついていた。


「「「へぇ……」」」


「し、信じてない!?」


 当たり前だろう。


 いつの間にか、ツヅリが俺の背後にいた。

 彼女は小声でささやく。


(怪しいよね?)


 頷く。


 俺たちはゲーテの大迷宮を踏破とうはして、ようやくこの島まで辿り着いたのだ。


(ゲーテの大迷宮をクリアしたの、ボクたちが一番だったよね?)

(そうだな)


 つまり、クエストを開始するためのアイテム、【星の導き】を持っているのも俺たちだけ。

 ならば、この偽姫はどうやってここまで来たのか。


「で、世界の歌姫様はこんな所で何してんだよ?」


 俺が問う。

 彼女は泣き出した。


「よ、よくぞ訊いてくれました!」


 そして、嬉しそうに笑う。

 訊かなければ良かった。


「手短に頼むぞ」


 こくこくこく、と盛大に頷いて見せる。


「うん! 船に乗って遊んでたら、流されて帰れなくなった。21文字! すごい!」

「やるじゃないか……」


 ちらりとツヅリを見る。


(エンはどう思う?)


 目線で訊いていた。


「嘘とも言い切れないけど……」


 この島に辿り着くだけなら【星の導き】が無くても可能。

 ただ、【星の導き】が無いとイベントが発生しない。

 だから、彼女はここで立ち往生していた。

 そう言った自体はあり得るかもしれない。

 嘘とも断定できない。


「うーん……」


 ツヅリは悩ましそう。


「本物ですよぉ……!!」


 半泣きの偽姫。

 今の争点は、彼女が本物かどうかではない。

 そこについては偽物ということで片付いている。


 問題は別だ。

 チュートリアルをクリアしていないはずのプレイヤが、どうしてここにいるのか。


「そこのイケメンのお兄さん! 話をきいてください!!」


 すがるように彼女は言う。


「エンはイケメンではありません」


 答えたのはツヅリだ。


「エンがイケメンだなんて、噓吐きにも程があるよね」

「か、カラスが白いって言われた方が、まだ信憑性しんぴょうせいがあります……」

「おい。お前ら」


 俺だって傷つくのに。


「お、お世辞にそこまで怒らなくても……」


 シイカが言う。

 お世辞かよ。

 知ってたけど。


「ツヅリ。スミレ。ちょっと」

「ん?」

「は、はい……」


 彼女たちを呼ぶ。


(とりあえず、仲間にしとこう)


 偽物には聞こえないように囁く。

 すると、2人の少女がすがめた目で俺を見る。


(キミは美形の女性アバタなら何でも良いの!?)

(エンさん……)


「違う!」


 思わず声を声を出してしまう。

 離れていた偽姫が、びくり、と身体を震わせる。


(……と、とにかく、あいつが何者か結論は出ない。だったら、近くにいてもらった方がマシだ。監視できるからな)

(それもそうかぁー。情報も無いからねぇ)


 スミレも頷く。


 方針が決まった。


「あ、分かった!」


 しかし、そんなことは知らないで偽姫は言う。


「歌えば良いんだ! 歌えば証明できるじゃん!!」





—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-42,852,108(日本円)






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