南国の魔王たち。――EP.10
[The Demon Lords in a Tropical Resort.――EP.10]
ツヅリは笑う。
「旅立ちの景気づけに良いんじゃない?」
かくして、俺たちはパリピーを燃やすことになった。
◆
スミレと共に森を出る。
例の桟橋。
泊められた船と人混み。
スクリーンショットを撮り、屋台の食べ歩きに興じている。
バーベキューをしている集団もいた。
「パリピーが一杯だよぉ……。ふうぉおぉうぉおう……」
奇妙な声を発しながら、スミレが俺たちの後ろで縮こまる。
こんな彼女こそが魔王だとは露知らず、
「これが魔王の森!? 迫力やっべえ!」
とスクリーンショットを撮っている観光客。
「笑って―!!」
という撮影の掛け声に、
「ひぇ……」
スミレがビクリと身体を震わせる。
「燃やすの止めれば?」
「や、止めません……。【楽園】の為なら……」
ビクビク震えながらも彼女は断言する。
「で……、で、宣言:関数! 肥沃化!」
スミレが関数を呼び出す。
瞬間、周囲の森がみるみる枯れ始めた。
巨木が次々と倒れる。
地面に倒れた樹々は、まるで早送りの動画みたいに腐る。
「な、なんだ!?」
「魔王!?」
「やべえ!!」
騒ぎ出すパリピー。
びくりと震えるスミレ。
いつの間にか腐葉土だけが残される。
「あれは……」
見ただけで分かる柔らかさ。
そして、独特の湿った匂い。
艶めかしさすら覚える。
俺には分かる。
あれは極上の腐葉土。
外周区では決して手に入らない最高の土だ。
植えたい。
作物を。
命にカボチャを食べさせたい。
続いてスミレはインベントリから何かを具現化させた。
それはパンパンに中身の詰まった革の袋だった。
「つ、ツヅリさん。これを撒いてもらえますか……?」
袋の口を開ける。
中には、何かの種が大量に詰まっていた。
ツヅリがにやりと笑う。
「おまかせ」
袋を受け取ると、ツヅリは放り投げた。
「宣言:関数 旋風」
その時、強烈な一陣の風。
渦を巻く。
投げられた袋は風に弄ばれて回転。
中身の種をまき散らす。
それを確認してからスミレが関数を呼び出す。
「で、宣言:関数 急成長!!」
地面に着いた種から次々と芽が出る。
植物は瞬く間に成長。
そして、可憐な紫色の花を咲かせる。
わずか数十秒でそこに花畑が完成。
まるで紫の絨毯だ。
「うおおお!?」
「マジ映えるじゃん!」
「ちょ、動画撮ってくんね!?」
騒ぎ出す観光客。
一斉に花畑へ駆け込む。
そんな騒ぎに、スミレがびくりとなる。
「スミレ。あの花は?」
「は、はぃ……。う、うちが創りました……」
「創った?」
「エン。造園師は植物を操るんだ。品種改良して、新しい植物を創り出すこともできる」
答えたのはツヅリだった。
その説明にスミレが頷く。
「あ、あの花は、うちが品種改良したんです……。お、対象:苛烈な菫」
苛烈な菫。
名前からして嫌な予感がする。
「う、うちのパリピーに対する憎しみを、全て、込めましたぁ……」
込めるなよ。
そんなモノを。
しかし、屈折した感情を吸い上げて、菫は咲き誇る。
そんな花が美しいだけのはずかが無い。
「「「うおおおおお!!!」」」
その時、歓声が上がる。
花畑のスミレが一斉に散ったのだ。
風に吹き散る紫の花弁。
それはどこまでも美しい光景。
酔いしれるパリピーの集団。
しかし、彼らは舞い散る花びらに夢中で、足元の変化に気付かない。
花の散った菫は種を付けていた。
黒い小さな種。
スミレは彼らに向かって憎々しそうに言う。
振り絞るように感情を吐き出す。
「ひ、他人の家の周りで、ば、バーベキューとかしないでください……!!」
それが合図だった。
1粒の種が空中に弾け飛んだ。
そして、爆ぜた。
小指の爪ほどの種だ。
しかし、そんな小さな種が爆炎を吐き出す。
「――なっ?」
火焔は連鎖した。
1粒の爆発が、周囲の種を起爆する。
1粒爆ぜれば10粒が。
10粒爆ぜれば100粒が。
爆発は止まらない。
紫の花畑は、一瞬にして炎の海に変わる。
「い、痛い! 熱い!?」
「お!? うおおお!? あああー!?」
「助けてくれー!!!」
阿鼻叫喚。
炎に飲まれて泣き叫ぶパリピーたち。
これが苛烈な菫。
「お前さん、なんてモノを……」
厄介なのは、爆発が1度では終わらないということ。
あの巨大な花畑。
そこに実った種の数だけ爆弾があるということ。
それらが連鎖的に爆発するのだ。
きちんと殺しきる。
超小型、超高密度のクラスタ爆弾。
「ふへぇ、ふへへぇ……」
炎に顔を照らされながら、満足そうに笑うスミレ。
罪のないパリピーが燃えていた。
「わー、すごいなぁ!」
隣で、物見遊山のような感想を述べるツヅリ。
「あ。ボク、俳句を思いついたよ!」
唐突に彼女が言う。
「夏の海 炎にまみれる パリピかな ――どう?」
どう?
「す、すごい! ツヅリさん、綺麗なだけじゃなくて文才もあるだなんて!」
無いぞ。
「まあねー。天に与えられ過ぎた感じだよねー」
「か、神様は不公平です!」
割と公平な気がする。
キャッキャと盛り上がる2人。
ツヅリとスミレ。
彼女たちの相性が良さそうだが。
南の島。
夏の海。
青い空。
白い雲。
燃えるパリピー。
阿鼻叫喚。
そんな光景を、俺は呆然と眺めていた。
その時だ。
一際、激しい炎が上がる。
「宣言:関数 早業」
愚者の剣を呼び出す。
身の丈の何倍もある巨大な剣。
それを壁の代わりにして、後ろに身を隠す。
「あ、おい。危ないぞ!?」
炎に見入られたスミレを引き寄せる。
直後、爆風が通り過ぎた。
きゅっ、とスミレが俺にしがみつく。
熱が去ったとき、腕の中にスミレがいた。
「じ、自分で立てよ」
引きはがそうとするが、彼女はお構いなし。
無邪気な笑顔を浮かべる。
この惨状とは真逆。
「エンさん……。う、うち、やりましたぁ……。パリピー、燃やしましたぁ……」
こんな状況なのに、思わずドキリとしてしまう。
不謹慎だとは思いながら。
そのくらいには蕩けるような笑顔。
魔性、とでも呼べば良いのか。
炎に焼かれるパリピーたちの絶叫を背景に、スミレは言う。
「こ、これから、よろしくお願いします……」
こうして2人目の魔王(通称)が仲間に加わった。
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総資産:-42,814,123(日本円)




