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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
78/204

南国の魔王たち。――EP.10

[The Demon Lords in a Tropical Resort.――EP.10]


 ツヅリは笑う。


「旅立ちの景気づけに良いんじゃない?」


 かくして、俺たちはパリピーを燃やすことになった。



 スミレと共に森を出る。

 例の桟橋。

 泊められた船と人混み。

 スクリーンショットを撮り、屋台の食べ歩きにきょうじている。

 バーベキューをしている集団もいた。


「パリピーが一杯だよぉ……。ふうぉおぉうぉおう……」


 奇妙な声を発しながら、スミレが俺たちの後ろでちぢこまる。

 こんな彼女こそが魔王だとは露知らず、


「これが魔王の森!? 迫力やっべえ!」


 とスクリーンショットを撮っている観光客。


「笑って―!!」


 という撮影の掛け声に、


「ひぇ……」


 スミレがビクリと身体を震わせる。


「燃やすの止めれば?」

「や、止めません……。【楽園】の為なら……」


 ビクビク震えながらも彼女は断言する。


「で……、で、宣言:関数デクラレーション・ファンクション! 肥沃化ファーティライズ!」


 スミレが関数を呼び出す。

 瞬間、周囲の森がみるみる枯れ始めた。

 巨木が次々と倒れる。

 地面に倒れた樹々は、まるで早送りの動画みたいに腐る。 


「な、なんだ!?」

「魔王!?」

「やべえ!!」


 騒ぎ出すパリピー。

 びくりと震えるスミレ。

 いつの間にか腐葉土だけが残される。


「あれは……」


 見ただけで分かる柔らかさ。

 そして、独特の湿った匂い。

 なまめかしさすら覚える。

 俺には分かる。

 あれは極上の腐葉土。

 外周区では決して手に入らない最高の土だ。

 植えたい。

 作物を。

 めいにカボチャを食べさせたい。


 続いてスミレはインベントリから何かを具現化させた。

 それはパンパンに中身の詰まった革の袋だった。


「つ、ツヅリさん。これを撒いてもらえますか……?」


 袋の口を開ける。

 中には、何かの種が大量に詰まっていた。

 ツヅリがにやりと笑う。


「おまかせ」


 袋を受け取ると、ツヅリは放り投げた。


「宣言:関数 旋風ワールウィンド


 その時、強烈な一陣の風。

 渦を巻く。

 投げられた袋は風に弄ばれて回転。

 中身の種をまき散らす。

 それを確認してからスミレが関数を呼び出す。


「で、宣言:関数 急成長ラピッド・ベジテーション!!」


 地面に着いた種から次々と芽が出る。

 植物は瞬く間に成長。

 そして、可憐な紫色の花を咲かせる。

 わずか数十秒でそこに花畑が完成。

 まるで紫の絨毯だ。


「うおおお!?」

「マジ映えるじゃん!」

「ちょ、動画撮ってくんね!?」


 騒ぎ出す観光客。

 一斉に花畑へ駆け込む。

 そんな騒ぎに、スミレがびくりとなる。


「スミレ。あの花は?」

「は、はぃ……。う、うちが創りました……」

「創った?」

「エン。造園師ランドスケーパは植物を操るんだ。品種改良して、新しい植物を創り出すこともできる」


 答えたのはツヅリだった。

 その説明にスミレが頷く。


「あ、あの花は、うちが品種改良したんです……。お、対象オブジェクト苛烈な菫バイオレント・バイオレット


 苛烈な菫バイオレント・バイオレット

 名前からして嫌な予感がする。


「う、うちのパリピーに対する憎しみを、全て、込めましたぁ……」


 込めるなよ。

 そんなモノを。

 しかし、屈折した感情を吸い上げて、すみれは咲き誇る。

 そんな花が美しいだけのはずかが無い。


「「「うおおおおお!!!」」」


 その時、歓声が上がる。


 花畑のスミレが一斉に散ったのだ。

 風に吹き散る紫の花弁。

 それはどこまでも美しい光景。

 酔いしれるパリピーの集団。

 しかし、彼らは舞い散る花びらに夢中で、足元の変化に気付かない。


 花の散った菫は種を付けていた。

 黒い小さな種。

 スミレは彼らに向かって憎々しそうに言う。

 振り絞るように感情を吐き出す。


「ひ、他人ひとの家の周りで、ば、バーベキューとかしないでください……!!」


 それが合図だった。


 1粒の種が空中に弾け飛んだ。


 そして、爆ぜた。


 小指の爪ほどの種だ。

 しかし、そんな小さな種が爆炎を吐き出す。


「――なっ?」


 火焔は連鎖した。

 1粒の爆発が、周囲の種を起爆する。

 1粒()ぜれば10粒が。

 10粒爆ぜれば100粒が。

 爆発は止まらない。

 紫の花畑は、一瞬にして炎の海に変わる。


「い、痛い! 熱い!?」

「お!? うおおお!? あああー!?」

「助けてくれー!!!」


 阿鼻叫喚あびきょうかん

 炎に飲まれて泣き叫ぶパリピーたち。

 これが苛烈な菫バイオレント・バイオレット


「お前さん、なんてモノを……」


 厄介なのは、爆発が1度では終わらないということ。

 あの巨大な花畑。

 そこに実った種の数だけ爆弾があるということ。

 それらが連鎖的に爆発するのだ。

 きちんと殺しきる(・・・・)


 超小型、超高密度のクラスタ爆弾。


「ふへぇ、ふへへぇ……」


 炎に顔を照らされながら、満足そうに笑うスミレ。

 罪のないパリピーが燃えていた。


「わー、すごいなぁ!」


 隣で、物見遊山のような感想を述べるツヅリ。


「あ。ボク、俳句を思いついたよ!」


 唐突に彼女が言う。


「夏の海 炎にまみれる パリピかな ――どう?」


 どう?


「す、すごい! ツヅリさん、綺麗なだけじゃなくて文才もあるだなんて!」


 無いぞ。


「まあねー。天に与えられ過ぎた感じだよねー」

「か、神様は不公平です!」


 割と公平な気がする。


 キャッキャと盛り上がる2人。

 ツヅリとスミレ。

 彼女たちの相性が良さそうだが。


 南の島。

 夏の海。

 青い空。

 白い雲。

 燃えるパリピー。

 阿鼻叫喚。


 そんな光景を、俺は呆然と眺めていた。


 その時だ。


 一際、激しい炎が上がる。


「宣言:関数 早業クイック・チェンジ


 愚者の剣を呼び出す。

 身の丈の何倍もある巨大な剣。

 それを壁の代わりにして、後ろに身を隠す。


「あ、おい。危ないぞ!?」


 炎に見入られたスミレを引き寄せる。

 直後、爆風が通り過ぎた。

 きゅっ、とスミレが俺にしがみつく。

 熱が去ったとき、腕の中にスミレがいた。


「じ、自分で立てよ」


 引きはがそうとするが、彼女はお構いなし。

 無邪気な笑顔を浮かべる。

 この惨状とは真逆。


「エンさん……。う、うち、やりましたぁ……。パリピー、燃やしましたぁ……」


 こんな状況なのに、思わずドキリとしてしまう。

 不謹慎だとは思いながら。

 そのくらいにはとろけるような笑顔。

 魔性ましょう、とでも呼べば良いのか。


 炎に焼かれるパリピーたちの絶叫を背景に、スミレは言う。


「こ、これから、よろしくお願いします……」


 こうして2人目の魔王(通称)が仲間に加わった。






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-42,814,123(日本円)



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