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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
74/204

南国の魔王たち。――EP.6

[The Demon Lords in a Tropical Resort.――EP.6]


 勝利の糸口は掴んだ。

 何故なら、


「こいつら植物だわ」


「…………うん?」

「説明は後だ。ツヅリ。塩は出せるか!?」


 この問いだけで、彼女は全てを理解した。


「重曹で良い?」


 重曹は出せるのかよ。


「良いけどな!」

「ういうい。宣言:関数デクラレーション・ファンクション ふっくらパンケーキ――」


 何その関数。


「――引数:100キログラム」


 ツヅリを中心に、白い粉が吹き乱れる。


「そーれ。魔法の粉だぞぉ!」


 魔法の白い粉(重曹)を吸い込んだ蛇の動きが、目に見えて鈍くなる。

 やがて、微塵みじんも動かなくなった。


 焼かれても、斬られても、そして、氷点下でも動きを止めなかった蛇。

 それが、まるで動かない。

 重曹を吸い込んだだけで。


「さっすが相棒! ちゅーしてあげよっか?」

「断る」

「シスコン!」

「シスコンじゃない」


 吹き散る白い粉。

 それを呑み込んだ蛇が動きを止める。

 気づけば、周囲に動く蛇はいなくなっていた。


「ツヅリ。どうする?」

「当然、突撃、魔王城!」

「上等」


 そう来ると思っていた。

 森の中心部を目指して走る。

 途中、新手の蛇が追ってくる。

 しかし、


「宣言:関数 ふっくらパンケーキ」


 重曹を呑み込ませる。

 呑み込んだ蛇は動きを止める。


「ツヅリ。その関数、なに?」

「ふっくらパンケーキ。パンケーキがふっくらするよ」


 情報が1グラムも増えない。


原典ライブラリ侍女メイドの関数だね」

「なるほど……」


 重曹。

 その別名をベーキングパウダ。

 確かに、パンケーキはふっくらする。 


「それより、エン。答え合わせ。どうして重曹で動かなくなるの?」

「もう分ってんだろ?」

「分かってる。だから、答え合わせ」


 そう言いながら、ツヅリは迫る蛇の口に重曹をぶち込む。。

 蛇の動きが止まる。


「そうだな――」


 簡単に説明する。


 最初、彼らを樹のような蛇(・・・・・・)だと思った。

 しかし、実は違った。

 幾ら斬っても血が出ない。

 ということは、動物ではない。

 彼らは蛇のような樹(・・・・・・)なのだ。

 つまり、植物。


「植物なら、あの頑丈さは納得できる」


 根元から斬られた樹であっても、しばらくすれば芽が生える。

 動物とは生命力が根本的に違う。


「ツヅリ。キュウリは知ってるか?」

「知ってるよ」

「あれ、根っこはカボチャなんだよ」

「どゆこと?」

「カボチャの根っこと、キュウリの幹をクリップで止めておくんだ」

「うん」

「そうするとキュウリが育つ」


 という技術。

 病気に強くなる。


「育つの?」

「育つ」

「植物、怖っ……」


 しかし、それができるのは植物の生命力があってこそ。

 動物ではこうはいかない。

 馬の首を切り落とし、そこに鹿の頭を突っ込んでも、死体ができるだけ。


「この蛇は植物なんだ。だから異常に頑丈なんだ」


 だから、

 斬っても、

 燃やしても、

 氷点下でも死なない。


 しかし、彼らはもう脅威ではない。

 重曹を口に突っ込むだけ。

 それだけで動きを止める。


「……詳しいね?」

「昔、野菜を育てたことがある」

「野菜?」

「外周区は土地が余ってるからな。食料の足しにしようと思ってな」

「色々やってるね」

「生活懸かってるからな」

「育った?」

「育ったよ。全部、盗まれたけど」

「うわぁ……」


 地面に埋まったイモ類は少しだけ残っていた。

 小さなジャガイモを、めいと一緒に掘り返したことを覚えている。

 以来、農業は止めた。


「……植物が頑丈なのは分かった。でも、なんで重曹なの?」

「浸透圧だ」


 植物の中には、動くヤツもいる。

 例えば、オジギソウ。

 しかし、彼らに筋肉は無い。

 その身体を動かすのは細胞内の水だ。

 水圧を使って身体を動かす。


「だから、水を抜いてやれば動けない」


「それで重曹なんだね」

「ああ」


 浸透圧の違いで水分が排出される。

 簡単に言えば、ナメクジに重曹をかけるのと同じ現象が起きているのだ。

 ただ、塩が無かったので重曹で代用した。


 塩の主成分は、塩化ナトリウム(・・・・・)

 重曹は炭酸水素ナトリウム(・・・・・)

 だいたい同じ効果がある。

 だから、重曹を呑み込ませるだけで蛇は動きを止めたのだ。


「宣言:関数 ふっくらパンケーキ!」


 散乱する白い粉。

 走りながら蛇を追い払う。

 攻略法さえ分かれば怖くない。


 やがて、森がまばらになる。


 気づけば、追いすがる蛇も居なくなっていた。


 ツヅリがコンソールを開く。


[>>> serpentine tree defeated 1,966.23(JPY) aquired]


 ログを覗き込む。


 つまり、


蛇のような木(サーペンティ・ツリー)を撃破。1966円を獲得」


 という表示されていた。


蛇のような木(サーペンティ・ツリー)。本当に木なのか。木のような蛇ウッドライク・スネイクじゃなくて……」

「エンの言った通りだねぇ」

「戦うのは初めてか?」

「うん。この島以外で見たことないよ」


 ツヅリほどのプレイヤが初見となると、よっぽど珍しい動的対象《MOB》か。

 もしくは、魔王が創り出したのだろうか。


「でもさ、エン。これって……」

「魔王城、なのか?」


 辿り着いた島の中心。

 そこは、森の中にぽっかりと開けた花畑だった。

 小さな白い花が咲き乱れている。

 その片隅。

 ぽつんと小屋が建っていた。

 丸太で組まれたログハウス。

 とんがった屋根が特徴的。

 別荘地にでもありそうな雰囲気だが。


「魔王城にしてはショボくない?」

「俺も同じことを思ったよ」

「で、どうする?」

「入るよ。もちろん」


 ツヅリは小屋に向かって歩いていく。

 迷いは無い。


「あ、待てよ。罠があるかもしれない」


 しかし、俺の警戒も無駄だった。

 罠は無い。

 それどころか何の変哲もない小屋だった。


「まあ、ウォーレン・バフェットも家は質素だったって言うしな」

「誰そいつ?」

「世界一の金持ち。死んだけど」

「へぇ」


 大して興味も無さそうに、ツヅリは扉に手をかけた。

 一度、彼女は振り返って俺を見る。

 目で頷く。

 ツヅリも頷きを返す。


「それじゃ――」


 一気に扉を開く。

 その先で待っていたのは、




「「――おしり!?」」







—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-42,814,011(日本円)



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