南国の魔王たち。――EP.6
[The Demon Lords in a Tropical Resort.――EP.6]
勝利の糸口は掴んだ。
何故なら、
「こいつら植物だわ」
「…………うん?」
「説明は後だ。ツヅリ。塩は出せるか!?」
この問いだけで、彼女は全てを理解した。
「重曹で良い?」
重曹は出せるのかよ。
「良いけどな!」
「ういうい。宣言:関数 ふっくらパンケーキ――」
何その関数。
「――引数:100キログラム」
ツヅリを中心に、白い粉が吹き乱れる。
「そーれ。魔法の粉だぞぉ!」
魔法の白い粉(重曹)を吸い込んだ蛇の動きが、目に見えて鈍くなる。
やがて、微塵も動かなくなった。
焼かれても、斬られても、そして、氷点下でも動きを止めなかった蛇。
それが、まるで動かない。
重曹を吸い込んだだけで。
「さっすが相棒! ちゅーしてあげよっか?」
「断る」
「シスコン!」
「シスコンじゃない」
吹き散る白い粉。
それを呑み込んだ蛇が動きを止める。
気づけば、周囲に動く蛇はいなくなっていた。
「ツヅリ。どうする?」
「当然、突撃、魔王城!」
「上等」
そう来ると思っていた。
森の中心部を目指して走る。
途中、新手の蛇が追ってくる。
しかし、
「宣言:関数 ふっくらパンケーキ」
重曹を呑み込ませる。
呑み込んだ蛇は動きを止める。
「ツヅリ。その関数、なに?」
「ふっくらパンケーキ。パンケーキがふっくらするよ」
情報が1グラムも増えない。
「原典:侍女の関数だね」
「なるほど……」
重曹。
その別名をベーキングパウダ。
確かに、パンケーキはふっくらする。
「それより、エン。答え合わせ。どうして重曹で動かなくなるの?」
「もう分ってんだろ?」
「分かってる。だから、答え合わせ」
そう言いながら、ツヅリは迫る蛇の口に重曹をぶち込む。。
蛇の動きが止まる。
「そうだな――」
簡単に説明する。
最初、彼らを樹のような蛇だと思った。
しかし、実は違った。
幾ら斬っても血が出ない。
ということは、動物ではない。
彼らは蛇のような樹なのだ。
つまり、植物。
「植物なら、あの頑丈さは納得できる」
根元から斬られた樹であっても、しばらくすれば芽が生える。
動物とは生命力が根本的に違う。
「ツヅリ。キュウリは知ってるか?」
「知ってるよ」
「あれ、根っこはカボチャなんだよ」
「どゆこと?」
「カボチャの根っこと、キュウリの幹をクリップで止めておくんだ」
「うん」
「そうするとキュウリが育つ」
接ぎ木という技術。
病気に強くなる。
「育つの?」
「育つ」
「植物、怖っ……」
しかし、それができるのは植物の生命力があってこそ。
動物ではこうはいかない。
馬の首を切り落とし、そこに鹿の頭を突っ込んでも、死体ができるだけ。
「この蛇は植物なんだ。だから異常に頑丈なんだ」
だから、
斬っても、
燃やしても、
氷点下でも死なない。
しかし、彼らはもう脅威ではない。
重曹を口に突っ込むだけ。
それだけで動きを止める。
「……詳しいね?」
「昔、野菜を育てたことがある」
「野菜?」
「外周区は土地が余ってるからな。食料の足しにしようと思ってな」
「色々やってるね」
「生活懸かってるからな」
「育った?」
「育ったよ。全部、盗まれたけど」
「うわぁ……」
地面に埋まったイモ類は少しだけ残っていた。
小さなジャガイモを、命と一緒に掘り返したことを覚えている。
以来、農業は止めた。
「……植物が頑丈なのは分かった。でも、なんで重曹なの?」
「浸透圧だ」
植物の中には、動くヤツもいる。
例えば、オジギソウ。
しかし、彼らに筋肉は無い。
その身体を動かすのは細胞内の水だ。
水圧を使って身体を動かす。
「だから、水を抜いてやれば動けない」
「それで重曹なんだね」
「ああ」
浸透圧の違いで水分が排出される。
簡単に言えば、ナメクジに重曹をかけるのと同じ現象が起きているのだ。
ただ、塩が無かったので重曹で代用した。
塩の主成分は、塩化ナトリウム。
重曹は炭酸水素ナトリウム。
だいたい同じ効果がある。
だから、重曹を呑み込ませるだけで蛇は動きを止めたのだ。
「宣言:関数 ふっくらパンケーキ!」
散乱する白い粉。
走りながら蛇を追い払う。
攻略法さえ分かれば怖くない。
やがて、森が疎らになる。
気づけば、追いすがる蛇も居なくなっていた。
ツヅリがコンソールを開く。
[>>> serpentine tree defeated 1,966.23(JPY) aquired]
ログを覗き込む。
つまり、
「蛇のような木を撃破。1966円を獲得」
という表示されていた。
「蛇のような木。本当に木なのか。木のような蛇じゃなくて……」
「エンの言った通りだねぇ」
「戦うのは初めてか?」
「うん。この島以外で見たことないよ」
ツヅリほどのプレイヤが初見となると、よっぽど珍しい動的対象《MOB》か。
もしくは、魔王が創り出したのだろうか。
「でもさ、エン。これって……」
「魔王城、なのか?」
辿り着いた島の中心。
そこは、森の中にぽっかりと開けた花畑だった。
小さな白い花が咲き乱れている。
その片隅。
ぽつんと小屋が建っていた。
丸太で組まれたログハウス。
とんがった屋根が特徴的。
別荘地にでもありそうな雰囲気だが。
「魔王城にしてはショボくない?」
「俺も同じことを思ったよ」
「で、どうする?」
「入るよ。もちろん」
ツヅリは小屋に向かって歩いていく。
迷いは無い。
「あ、待てよ。罠があるかもしれない」
しかし、俺の警戒も無駄だった。
罠は無い。
それどころか何の変哲もない小屋だった。
「まあ、ウォーレン・バフェットも家は質素だったって言うしな」
「誰そいつ?」
「世界一の金持ち。死んだけど」
「へぇ」
大して興味も無さそうに、ツヅリは扉に手をかけた。
一度、彼女は振り返って俺を見る。
目で頷く。
ツヅリも頷きを返す。
「それじゃ――」
一気に扉を開く。
その先で待っていたのは、
「「――おしり!?」」
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総資産:-42,814,011(日本円)




