南国の魔王たち。――EP.5
[The Demon Lords in a Tropical Resort.――EP.5]
しかし、ツヅリは不敵に笑う。
「魔王、最高じゃん。絶対、仲間にするから」
そして、彼女は言った。
「じゃあ、エン。後はよろしく」
俺たちを取り囲む巨大な蛇の群れ。
斬っても、焼いても、死なない蛇たち。
「俺には荷が重いな」
「冗談。キミなら余裕でしょ?」
一見、危機的状況。
しかし、落ち着てみれば何のことは無い。
「まあ、ツヅリなら分かってるか」
「当たり前じゃん。だから、よろしく」
「あいよ。宣言:関数 早業 冬の訪れ」
瞬間、短剣が白銀の槍に替わる。
穢れの無い白。
先端に輝くのは青い宝石のような刃。
円卓騎士団の幹部級、よっちゃん。
彼女から奪い取った逸品。
このクラスの武器はそれ自体が特別な能力を持つ。
「起動:機能 冬の訪れ」
瞬間、空気が凍る。
ここが南国の密林だとは思えない。
吐く息がキラキラと輝く。
呼気に含まれる水分が一瞬で凍ったのだ。
「蛇は変温動物だからねぇ」
ぶるぶると震えながらツヅリが言う。
いつの間にか、分厚い毛皮のコートを羽織っていた。
インベントリに入っていたらしい。
人間はこの寒さでも活動できる。
しかし、蛇は違う。
体温調節のできない彼らは動けない。
その時だ。
「宣言:関数 早業」
出現した巨大な剣。
それが横薙ぎの尾を受け止める。
しかし、勢いを殺しきれない。
まとめて吹き飛ばされる。
「なんで動けるの!?」
ツヅリが声を上げる。
彼女が吐く息は白い。
間違いなく氷点下。
だから、蛇は動けない。
そのはずだった。
「引数:温度下限」
白銀の槍が澄んだ音を奏でる。
また一段、空気が冷える。
しかし、蛇は動き続ける。
そして、それが合図だった。
周辺の蛇が一斉に、尾を叩きつける。
やけにゆっくりと流れる時間。
迫る致命の一撃が、はっきりと見えた。
「やばいっ――」
しかし、傍らのツヅリは動じなかった。
落ち着いた所作で、封剣:月華を抜いた。
曇りの無い美しい刃。
そして、凛とした声で言う。
「宣言:関数 極光」
瞬間、刀が青白い炎を吹く。
「いや、違う……」
炎ではない。
固体、液体、気体に次ぐ、第四の状態。
それは電離したガス。
プラズマだ。
天に架かる極光と同じ。
「ツヅリ。この関数は?」
「うん。プラズマ。だから、オーロラの剣」
「幾らするんだよ?」
「大赤字!!」
ツヅリはオーロラの刃を振るう。
その実態は電離したガスだ。
だから、重さは限りなくゼロ。
そして、変幻自在に形を変える。
数十メートルも伸びたと思えば、柳のように枝分れ。
迫りくる全ての蛇を、一刀の下、同時に切り伏せる。
その切れ味も圧倒的。
迫りくる尾を、牙を、オーロラの刃は切り刻む。
しかし、
「……キリが無い」
彼女が唇を噛む。
斬った分だけ、新たな蛇が押し寄せる。
一体、何体いるのか。
「エン! どうしよう!?」
蒼炎の刃を振るいながらツヅリは叫ぶ。
相手はほとんど無尽蔵に湧く蛇。
これだけの高等関数を連発していたら、こちらの金が先に尽きる。
まして、ツヅリの関数は司書。
全ての関数を使える代わりに10倍の金を消費する。
「待ってくれ。今、考える」
今までの戦闘を脳内で再生する。
逆転の手掛かりは無いか。
記憶を辿る。
その時、眼前に蛇の牙が迫る。
「しまっ――」
一閃。
しかし、ツヅリが極光の剣で切り伏せる。
目の前で蛇の首が落ちた。
「あ」
その断面を見て気付く。
「何か分かった?」
「気になることがある」
蛇を斬りまくるツヅリ。
これだけ斬っているのに、今日はまだ血を見ていない。
蛇も脊椎動物。
ならば、基本的には赤い血液が流れているはずだ。
斬った断面がプラズマで焼けているからか。
ならば、
「宣言:関数 ――」
短剣を投げる。
「――早業」
瞬間、大剣に変化。
飛翔。
手近な蛇の皮に切れ目を付ける。
しかし、その傷口から血は出ない。
「ツヅリ。勝てるぞ」
「本当!?」
「ああ。勝てる」
勝利の糸口は掴んだ。
何故なら、
「こいつら植物だ」
「…………うん?」
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