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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
72/204

南国の魔王たち。――EP.4

[The Demon Lords in a Tropical Resort.――EP.4]

「とりあえず、コイツから片付けるか」

「ですなー」


 それは音もなく現れた。

 この化物もどうやら魔王のしもべらしい。

 巨大な2つの目が、俺たちを見下ろしていた。


 巨大な蛇。


 しかし、体表はまるで樹皮のようだ。

 動物なのか、植物のなのか。


「ツヅリ。コイツは?」

「うーん。ボクも初めて見るねぇ」

「弱くはないよな……」

「だよね。エン。お願いできる?」


 答える前に、蛇は飛び掛かってきた。

 自動車を呑み込めそうな口。


「宣言:関数デクラレーション・ファンクション  早業クイック・チェンジ  愚者の槍」


 構えた短剣が巨大な槍に変わる。

 まるで柱のような槍。

 しかし、蛇は勢いのまま止まれない。

 自らその槍に飛び込んだ。

 鋭い切っ先が口内に突き刺さる・

 痛みにのたうち回る巨大な蛇。

 周囲の古木をなぎ倒す。


「長くは持たないぞ!」

「1分持たせて」

「あいよ! 宣言:関数――」


 短剣を振るう。


「――早業」


 瞬間、それが大剣に変化。

 蛇の横っ腹に一撃を見舞う、が


「硬っ……」


 生物を斬った感触ではない。

 まるで、ギチギチに中身の詰まった樹齢千年の巨木。

 そんな硬さ。

 手が痺れる。

 しかし、蛇は動じない。

 お返しとばかりに長い尾で薙ぎ払う。


「宣言:関数 早業 鋼鉄の長槍」


 手の平を地面に向け、長槍を呼び出す。

 それに押しのけられる反動で空中に跳ぶ。

 蛇の尾をかわすす。

 しかし、すぐさま次の一撃が迫る。

 こちらは身動きの取れない空中だ。

 短剣を振るう。

 蛇の尾に比べ、あまりにもちっぽけな短剣。

 しかし、


「宣言:関数 早業 愚者の鎚」


 瞬間、短剣は巨大な鎚に変化。

 おもりだけで俺よりもはるかに大きい。

 互いに弾き合う。

 吹き飛ばされて地面に着地。


「硬すぎんだろ」


 見れば、愚者の鎚がひしゃげていた。

 しかし、蛇の尾はわずかに凹む程度。


 蛇が突進する。

 密集する木々にはばまれ、回避も不可能。


「上等! 宣言:構造デクラレーション・クラス  鎚による轢殺スレッジハンマ・ラン・オーバ


 短剣の状態で振り上げ、振り下ろす瞬間に大鎚に変化させる。

 それをひたすらに繰り返す。

 速度は短剣のそれ。

 一撃の重さは落石のごとく。

 しかし、俺の方が押される。


「っらああああ!」


 少しでも速く、

 少しでも強く、

 鎚を振るう。


 こちとら、700万以上もSTR(筋力)に振っているのだ。

 ここで押し負けたら、何のための金なのか。

 筋肉がパンパンに張っていた。

 今にも千切れそうなくらいに痛い。

 それでも武器を振るう。


 その時だ。


宣言:終了デクラレーション・エグジット


 ツヅリが関数を解除する。


 関数:木化け(マタギ・ステルス)

 使用者の気配を極限まで消す関数。

 この関数を使って、ツヅリは蛇の首元に1分間も張り付いていたのだ。

 蛇からしたら、突如としてツヅリが現れたように見えたはず。

 暴れ出す蛇。

 しかし、もう遅い。


「……やっと1分か」


 これからツヅリはある関(・・・・)を使おうとしていた。

 それは原典ライブラリ処刑人エグゼキューショナの関数だ。

 斬撃系でも最高峰の威力を誇る。

 しかし、必要な金はわずかに数十円のみ。

 そんな反則級の関数があった。

 何故なら、発動条件がそれだけ厳しいから。

 その条件とは、


「1分間、相手のに触れ続ける」


 激しい戦闘中、その行為はあまりにも困難。

 しかし、ツヅリはすでに条件を達成している。

 俺が蛇を引き付けている間、気配を消して首元に触れていた。

 ツヅリはその関数(・・・・)を呼び出す。


「宣言:関数 断頭ビヘッド


 あまりにも静かだった。

 まるで花が散るように。

 ぽとり。

 蛇の頭が地に落ちた。

 

「関数、2回だけで足りたね。今回は黒字かなぁ」


 頭のない蛇の上、ツヅリはそんなことを呟く。

 しかし、


「ツヅリ!」


 蛇が何事も無かったかのように暴れ出した。

 巨大な尾でツヅリを叩き潰さんとする。


「宣言:関数――」


 短剣を投げる。


「早業」


 瞬間、それが巨大な剣に変化。

 一直線、ツヅリ目掛けて飛ぶ。


「よっと」


 高速で飛翔する剣。

 その柄をツヅリは難なく掴む。

 流石は3億円プレイヤ。

 小柄な彼女は、大剣の勢いに引きずられその場を離脱。

 巨大な尾をかわす。

 大剣はツヅリをぶら下げたままで飛翔。

 大木の幹に突き刺さって止まる。

 ツヅリは持ち手を起点にくるりと回る。

 新体操の鉄棒の要領だ。

 そのまま剣の上に立つ。


「さっすが相棒!」

「油断すんなよ」

「ごめんて。儲け度外視どがいしで行こう。宣言:関数  劫火インフェルノ


 瞬間、蛇が一瞬にして燃え上がる。

 パチパチと炎の爆ぜる音。

 生物が焼ける匂い。


「これでプラマイゼロかなぁ」


 ツヅリが言った。


「……いや。まだだ」


 真っ黒な炭の塊と化した蛇。 

 しかし、そんな炭の塊がもぞもぞと動いていた。


「生きてるの!?」


 焦げた表皮がポロポロと剥がれ落ちる。

 そして、中から姿を現したのは、1回り小さくなった蛇だった。

 炭化したうえに頭も無い蛇が、尾を振り回して俺たちを殺さんと迫る。


「頑丈過ぎんだろっ! 宣言:関数――」


 迎撃しようとした、その時だった。


「エン! 後ろ!」


 ツヅリが叫ぶ。

 反射で跳んだ。

 直後、巨大な尾が振り下ろされる。

 地面が陥没していた。

 一瞬、遅ければ死んでいた。

 恐る恐る、後ろを振り向く。


 2体目の蛇。


「え、エン。周り、見て……」

「ああ。分かってる……」


 いや。


 2体どころではない。


 眠らせ苔ヒュプノティック・モスの吐き出す白い霧。

 けむる森は視界が悪い。

 さらに、蛇の樹皮のような体表。

 だから、いつの間にか囲まれていることに気付かなかった。


 頭を落とされてなお、

 身体も丸焼きにされてなお、

 戦うことを止めない異形の怪物。


 そんな怪物に囲まれていた。


 しかし、ツヅリは不敵に笑う。


「魔王、最高じゃん。絶対、仲間にするから」






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-42,813,142(日本円)


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