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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
71/204

南国の魔王たち。――EP.3

[The Demon Lords in a Tropical Resort.――EP.3]


 その威容に思わず呟く。


「魔王城……」

「ね! 楽しみだね!」

「……全然」


 無情にも船は島に近づいて行く。

 魔王が君臨するその島に。


「……ん? 意外に人がいるな」


 と言うか、桟橋まで用意されている。

 その桟橋に何隻も船が泊まっていた。

 行きかうのは観光客だ。

 中には水着の客も。

 ちらほらと出店も見える。

 あの騒ぎよう。

 どうやらアルコールもあきなっているらしい。


「魔王城。観光地になってるけど?」

「うん。屋久杉的な?」

「……良いのか?」


 その森は確かに神秘的。


 折り重なるように生える巨木。

 吐き出す水蒸気で霞んでいる。

 森の奥は伺い知れない。


 地球が始まって以来、誰も足を踏み入れたことが無い。

 そう言われても信じそうなほど。

 そんな森だ。


 青骨烏賊ブルゥ・ボーン・スクイドは船を押し、器用に桟橋に船を着ける。

 船を下りる。


「で、魔王城は?」

「この奥だね」


 森に一歩、足を踏み入れた。

 その時だった。


「待て待て待て」


 背後から呼び止められる。

 振り向けばプレイヤが立っていた。

 魔法職と思わしきローブと杖。

 その恰好を見るに正統派・・・のプレイヤか。


「その先は危ないぞ」


 彼は言う。


「アンタは?」

「この島の警備をしてる」

「警備員までいるのか」

「金が良いんだよな。普通に敵を倒すより」

「なるほど……」


 下手に動的対象《MOB》と戦うより、観光客の御守おもりの方が安全か。

 しかも、彼らは金を落としてくれる。

 そういうプレイの仕方もあるのか、と勉強になる。


「その先は危ない。時々、羽目を外した観光客が踏み込むが、誰も戻って来ない」

「何があるんだ?」

「噂だと森の奥に魔王の城が在るらしい」

「その割には観光地みたいになってるぞ」

「ああ。今のところ海岸で死んだ人間はいないからな」

「不気味だな」


 森に入らなければ手出しはしないということか。

 もしくは、何らかの関数が発動しているのか。

 まずは様子を見るべきだろう。


「ツヅリ。どうする?」

「うん。歩きながら考えよう」


 そう言ってツヅリがコンソールを開く。

 インベントリから取り出したのは、封剣:月華。

 抜き身の刃に紙を落とせば、それだけで切れるほど。

 名刀だ。


「――宣言:関数デクラレーション・ファンクション  神薙ディバイン・ライン


 一閃。


 先の見えない茂った森に、一筋の道が出来上がる。


「じゃ、行こう。おじゃましまーす」


 すたすたすた、と森の中に歩いていくツヅリ。


「お、おい。死ぬぞ!」


 警備のプレイヤが叫ぶ。

 そんなことはお構いなしにツヅリは森の奥へと進む。

 彼女の後姿がほとんど霧で見えなくなった時だ。


「置いてくよー!」


 そんな声が聞こえた。


「ったく」


 1人で行かせる訳にもいかない。


「アンタまで!? 死ぬぞ! 俺は止めたからなー!?」


 背後にそんな声を聞きながら森に踏み込む。




 ほんの数分歩いただけで観光地の騒がしさは消えた。

 それほどに深い森。


「ふぁわぁ……」


 その時、ツヅリがあくびを1つ。

 はにかみながら口元を隠す。


「寝不足か?」

「んー? 違うよ。これ、死ぬヤツ」

「え? あくびで――」


 力が抜ける。

 その場で膝を着く。


「な――」


 呂律ろれつが回らない。

 何も考えられない。

 その時だ。


「飲んで」


 不意に口に何かをねじ込まれる。

 それは瓶の先だった。

 中からとろりとした苦い液体が流れ込む。


「苦っ!?」


 思わず吐き出す。


「な、何だよ!?」

「特級気付け薬。目、覚めたでしょ?」

「……俺、眠かったの?」


 まるで殴られたかのような衝撃だった。

 一瞬で、意識を刈り取られるような。

 それが眠気だと言うのか。


 【計画ザ・プロジェクツ】の世界でまた1つ学んだ。

 あまりに強烈な眠気は、もはや眠気と認識できない。

 強烈なパンチに匹敵する。


「どうして急に?」

「エン。これ、動的対象《MOB》だよ」


 ツヅリが言う。


「どこに?」


 しかし、敵の姿はどこにも見えない。


「これだよ」

「……これ?」


 樹の表面、絨毯のように分厚い苔がむしている。

 湿った苔。

 もわもわと湯気が昇っている。

 ツヅリが絞るとぽたぽたと汁が垂れた。


「動的対象《MOB》:眠らせヒュプノティック・モス。強烈な睡眠ガスを吐き出すんだ」

「この森、苔だらけだぞ……?」


 周囲にそびえたつ巨木。

 その表面のほとんどが眠らせ苔に覆われている。


「うん。森全体がこの苔で覆われてるみただね」


 遠くから見た時、島に霧が掛かって見えた。

 その霧の正体は睡眠ガスだったのだ。


「エン。見てみなよ」


 ツヅリが樹の根元を指差した。

 そこには人間が1人収まるくらいのくぼみが開いていた。

 そして、白い骨が散らばっていた。

 短パン、Tシャツ、靴。

 1人分の衣類と共に。


「強烈なガスで眠らせて、そのまま養分にするんだろうね」

「寝たまま養分かよ。エグいな」

「だから、この森が1つの巨大な食人植物なんだよ」

「人為的なのか?」

「だと思うよ。普通、眠らせ苔は洞窟の奥とか、狭い場所に生息してるからね」

「魔王、やるじゃないか……」


 きちんと魔王をしている。


「くふふ」


 ツヅリがくすぐったそうに笑う。


「ご機嫌だな」

「うん。ボクたちの仲間に相応しいね」

「言っとくけど、殺し合いになる可能性もあるからな?」

「それも良いね!」

「良いの!?」

「これだけのプレイヤだからね。殺《PK》したら儲かりそう」

「さいですか……」


 とは言え、俺も少しは興味が湧いた。

 魔王は、1つの島をまるごと殺人機構に造り替えてしまったのだ。

 スケールが違う。

 一体、何者なのか。

 

「とりあえず、コイツから片付けるか」

「ですなー」


 それは音もなく現れた。

 この化物もどうやら魔王のしもべらしい。

 巨大な2つの目が、俺たちを見下ろしていた。







—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-42,812,771(日本円)


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