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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
57/204

10億円事件――EP.13

[Billion yen robbery.――EP.13]

 そして、次にBMIブレイン・マシン・インタフェースを脱ぐ時、俺は1億円を手にしている。


 それだけあれば真っ当に生きられる。


めい。待ってろよ……」


 30分はすぐに過ぎた。


 水分補給。

 ストレッチで凝った身体をほぐす。

 お手洗いを済ます。

 溶けた保冷剤を交換。手首と足首に巻きつける。

 最後に、汗でべたつく顔を洗う。

 鏡の中の自分と目が合う。


「はっ――」


 思わず笑いが漏れた。

 いつになく張り詰めた顔をしていたから。

 その顔があまりに緊張していたので、思わず吹き出す。

 俺、こんな顔できたのか。

 おかげで緊張は解れた。


「さあ。行こうか」


 BMIを被る。




「おかえりー」


 【計画】に再度ログインするとツヅリが待ち構えていた。


 見上げる彼女の顔。

 後頭部がやけに柔らかい。


 自分が今、ツヅリに膝枕されていることに気付く。

 彼女は得意げに笑う。


「どうー? 美少女のひざまくらだぞー?」


 とでも言いたそう。 


「セクハラだぞ」

「あ、うん……。ごめん……」


 やけにあっさりと退く。


「そんなに本気で引かれるとは思ってなくて。なんか、ごめん……」


 会話の距離がいつもより遠い。


「エン、ボクのこと嫌い?」

「嫌いじゃないけど、距離がおかしいだろ。お前さん、見てくれだけは良いんだから……」

「性格も良いから!!」

「はいはい。そうですね……」

「エン。遺憾いかんだよ。ボク、遺憾!」


 実際のところ、どうだろうか。

 ツヅリとの会話は楽しい。

 打てば響く言葉。

 くるくると変わる彼女の表情は見ていて楽しい。

 彼女に好意を抱いている。

 それは間違いない。

 ただ、恋愛感情ではない。

 その好意は友人へと向けるそれ。

 しかし、そんな親愛ですら真っすぐツヅリに向けられない。

 ツヅリは命の恩人で、

 7000万円の貸主で、

 10億ドル(※1800億円)を稼ごうとしている。

 複雑過ぎた。


「ツヅリとは普通に会いたかったよ」


 呟く。


 ツヅリは言葉の意図を察したらしい。

 彼女は言う。


「もしも、に意味は無いよ。現実は変わらない」

「そうだな」

「意味は無い。でもね、ボクも同じことを思っていた」


 その事実が少しだけ嬉しい。


「でも、まさか、エンがデレるとはなぁ」

「は?」

「大丈夫、大丈夫。こんな美少女と一緒にいて、惚れない方がおかしいから」

「何の話だよ?」

「照れるなって。さっき、「ツヅリとは普通に会いたかった。普通に会ったら好きになってた」って言ってたじゃん」

「そこまでは言ってない!」


 記憶を捏造するな。


「結婚する?」

「しない」


 早くログアウトして来いよ、と彼女を急かす。


「はいよー」


 しぶしぶと言った調子で、彼女は城壁を背にして座り込む。

 そして、目を閉じた。

 微塵みじんも動かない。

 ログアウトしたのだ。

 これから30分、無防備な彼女を守る必要があった。


「流石に、追手はまだ来ないと思うけど……」


 念のため短剣は抜いておく。


 背後は壁。

 前方だけ警戒すれば良い。


 ただ、時折、気になって後ろを見る。


 身動き1つしないツヅリ。


 じっくりと眺める機会など無かった。

 しかし、こうして改めて見ると、まあ、綺麗だとは思う。


「黙ってればなぁ」


 思わず呟く。

 その時、ツヅリと目が合った。


「ログアウトしてなかったのか!?」

「えっちなことするなよ」

「早く行け」




 きっかり30分後、ツヅリは戻ってきた。


「んぁ~」


 と、気の抜けた声を漏らす。


「……寝てたのか?」

「うん。眠かったからね」

「大した度胸だよ」

「何が?」

「10億円が懸かった勝負の前だろ? よく落ち着いてられるよな」

「くふっ」


 押し殺したように笑う。


「エン。ボクの目標、忘れたの?」

「10億ドル(・・)


 日本円にして約1800億円。


「そう。10億()なんて最終目標の1%にも満たないんだよ」

「悪いな。こっちは庶民なんだよ」

「大丈夫。終わるころには億万長者ミリオネアだから」

「それは楽しみだよ」


 ツヅリを見ていると、俺ばかり緊張しているのが馬鹿らしくなってる。


「じゃあ、行くか」

「あいよー」


 そんな調子で、最後の攻略が始まった。




「6層はボスラッシュだね」


 ツヅリは言った。


「全部で城壁が7つ。その全部に門番がいる」

「面倒だな……」

「大丈夫。ボクが倒すから」

「倒せるのか?」

「倒せるよ。だけど、キミを守りながらだと、ちょっと厳しいかな」

「なるほどな」

「そう。キミの仕事は死なないでボクに付いてくること。できそう?」

「上等」




宣言:関数デクラレーション・ファンクション  劫火インフェルノ


 最後の門番、腐肉の王(キャリオン・キング)が灰に変わる。


「まあ、こんなものかなぁ」


 灰の山を踏みつけながら、ツヅリは言う。


「お前さん、よっちゃんと戦った時、全然本気じゃなかったな……?」

「まさか。あの時は、あれが本気だったよ」

「嘘つくなよ」


 全て彼女が1人で倒してしまった。

 俺がしたことと言えば、とにかく逃げるだけ。

 自分の身を守ることだけで精一杯だった。

 ただ、それすらもツヅリに鍛えられていなかったら無理だった。

 だから彼女は俺を育てたのか。


「大丈夫。次の敵はボクじゃ勝てないから。頼むよ?」

「俺ならもっと勝てないだろ……」

「よゆー、よゆー」

「帰って良い?」

「借金、返して。それか、結婚」

「……行くか」


 7重の城壁で囲まれた中心に、その塔はあった。

 上層の天井まで伸びる塔だ。

 俺がその威容いようを眺めていると


「おじゃましまーす」


 友達の家に入るテンションで扉を開けるツヅリがいた。


「あ、おい」


 慌てて後に続く。

 内部は螺旋階段が続いていた。


「エン。この階段の先が7層だよ」


 ツヅリが下へ降りていく。

 それから5分は下り続けただろうか。

 やがて、階段は終わる。

 そこには古ぼけた木の扉が在った。


「……この先が?」

「そうだねぇ」


 この先に動的対象《MOB》が待ち構えているのか。

 まだ、誰も勝ったことがないという敵が。


「どんな敵なんだよ?」

「見た方が早いかなー」


 ツヅリが扉を開けた。


「待てよ」


 と止めるが、すでに彼女は扉の向こう側にいた。

 なし崩し的に、俺も扉をくぐる。


「……ここは?」


 その空間には静寂が満ちていた。


 すり鉢状の舞台の底。

 コロッセオとでも言えば良いのか。

 太古の闘技場だ。

 かつては剣闘士や猛獣が戦っていたと言うが。


 その時、周囲の松明に炎が灯る。

 360度、全方向から投げかけられる光。

 足元を中止に何本もの影が伸びる。

 そして、中央で待ち構えるモノの姿が明らかになった。


「アレって、俺たち……?」


 円形舞台の中心に、2人の人間が立っていた。


「ツヅリと」

「エンだねぇ」


 単なる外見だけではない。

 あの不敵な微笑み。

 間違いなく、見知ったツヅリの表情だ。


「エン、似てるー。不機嫌そう」

「俺、いつもあんな感じなの?」

「うん。そっくり」

「あんなに酷くないだろ」

「鏡って知ってる?」


 知りたくない事実を知った。


「で、あれがラスボスか……」

「そうだね。ザ・シャドウ

「いい加減、どんな敵か説明してくれるんだろ?」

「見ての通り、キミだよ」

「俺?」

「そう。キミと全く同じ関数を使える。装備もキミと同じ」


 確かに、面倒な相手だ。

 しかし、今まで誰も勝てなかったほどの強敵なのか。


「……当然、何かあるんだろうな?」

「うん。キミと同じ関数を使う。だけど、STR(筋力)も、AGI(速さ)も、VIT(体力)も、キミの12倍」

「……強すぎない?」

「ちなみに、向こうは金が尽きること(キャッシュ・アウト)もない。いくらでも関数を使える」

「弾数無限かよ。ふざけてんな」


 同じ関数を打ち合えば、当然、基礎能力の高い方が勝つ。

 そして、それが12倍ともなれば絶望的な差だ。

 おまけに、向こうは無制限に金を使えるらしい。

 確かに、今まで誰も勝てなかったことにも納得できる。


「なるほどな……」


 短剣を抜く。

 ツヅリが俺を仲間にしたがった理由が、今になって分かる。


「楽勝だな。これは」






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-64,473,241(日本円)

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