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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
56/204

10億円事件――EP.12

[Billion yen robbery.――EP.12]


「俺たち、勝てるのか?」

「よゆー、よゆー」


 しかし、ツヅリは笑う。


「キミがいるからねぇ」




 5層には驚いた。

 地下空間に森が広がっていたのだ。


 しかし、6層にも驚かされる。


「ここは城か?」

「そんな感じだよね。実際、何かは不明だけど」

「遺跡だから?」

「そうそう。遺跡っていう設定だから」


 5層よりも遥かに高い天井。

 遠くに塔が見える。

 その塔を中心に、城壁が何重にも張り巡らされている。

 巨大な石で組まれた城壁だ。

 整然と立ちはだかる。

 紙一枚、入る隙間が無い。


「7層はボスの部屋しかないから、実質これが最後だね」

「そうか……」


 ツヅリと出会った時は、辺境の迷宮ダンジョンでひたすら雑魚を狩っていた。

 それが今や、最難関迷宮の奥深くにいる。


「断言する。キミは、必ず最強になる」


 そう言われた時には詐欺を疑ったが。


「どうかしたの?」

「なんでもない。それより、契約の内容は覚えてるよな?」

「もちろん。ボクと結婚すると借金が無くなるよ!」

「そこじゃない。報酬の話だ」


 契約の内容は大雑把に次のようになる。


 6700万円を年利20.3%で借りる。

 しかし、【計画ザ・プロジェクツ】でツヅリに協力している間は返済を猶予する。


 ただ、ツヅリに協力すれば儲けが発生する。

 何故なら、ここは【計画】の中。

 敵を倒せば、本物の金に変わる。

 そして、契約にはその分配も盛り込まれていた。


「キミの取り分は、ボクが得た利益の10%。だよね?」

「そうだな。今回、10億円分PKする。間違いないか?」

「その予定」

「つまり、10億円の10%。だから、1億は俺のモノになる。これも間違いないか?」

「疑ってるの? 酷いなぁ」

「確認だよ」

「疑ってるじゃん。契約書に、お互いの指紋も虹彩パタンも登録したからね。裁判所へ提出すればきちんと証拠になるよ」


 1億円あれば、借金を返済しておつりが来る。

 3000万円は残るか。

 命が大学を卒業するまで9年弱。

 それだけあれば生きていける。


「【計画】も辞め時かな」

「辞めるの?」

「たりめーだろ。犯罪だぞ。金さえあればこんなゲームに用は無いんだよ」

「もしかして、キミ、借金を返そうとしているの!?」

「……そのつもりだけど」

「なんでさ!」


 詰め寄られて、顔を逸らす。

 金を返そうとすると怒り出す貸主。

 何者なのか。


「人から借りたものは返さないとダメだろ……」


 人として。


「でも、返しちゃうとボクと結婚できないよ?」

「しない。以上」


 言い放つとツヅリが頬を膨らませる。

 キッ、と俺をにらんだ。

 その時だ。


「ピピピピピピピピピピ」


 乾いた電子音と共に、勝手にコンソールが立ち上がる。


[>>> WARNING:consecutive play time exceeded 7 hours]


 警告が表示された。

 つまり、


「連続プレイ時間が7時間を超えました」


 という意味になる。

 このままプレイを続けると、8時間になった時点で強制ログアウトされる。

 身体に大きな負荷が掛かることを防ぐ安全機構セーフティだ。


「腹立つよな。違法ゲームのくせに……」

「無駄にしっかりしてるよね。違法ゲームなのに……」


 プレイヤが減ってしまうと【計画】側としても困るということか。


「7層のボスを倒すまで、あと1時間で行けるか?」

「さすがに無理だね」

「いったん休憩するしかないか」

「だねー」

「円卓騎士が来ないか気になるな」

「かなり飛ばしたからね。1時間そこそこじゃ来ないでしょ」


 30分ずつ交代でログアウトすることになった。


 現実世界で1秒が過ぎれば、【計画】の中でも1秒進む。

 そして、その間もプレイヤの分身アバタは無防備な状態で放置されるのだ。


「地面に穴を掘れば一緒にログアウトできないか?」


 実際、2~3層ではそうやって安全地帯を確保していた。


「それが、できないんだよねぇ。宣言:関数デクラレーション・ファンクション  地割れ《グラウンド・フィッシャ》」


 ツヅリが関数を呼び出す。

 しかし、何も起こらない。


「見ての通り。この壁とか、地面とか、破壊不可らしいんだよね」

「厄介だな」

「そういうわけだから、交代でログアウトしよう」


 お先にどうぞー、というツヅリの言葉に甘えさせてもらう。


「悪いな。それじゃ」




 夏の大気。

 古い畳の匂い。

 カチコチと時計の音。


 築50年超の6畳一間。


「兄さん。おかえりなさい」


 という声は無い。

 彼女は今、病院のベッドで管に繋がれている。

 空っぽの部屋に響くセミの声がやけに大きい。


「ふぅ」


 ヘルメットのようなBMIブレイン・マシン・インタフェースを脱いだ。

 籠った熱気が逃げる。

 汗で濡れた前髪を掻き上げる。

 気持ち良い。

 型落ちのBMI。

 最早、骨董品の類だ。

 しかし、孤児の俺にはそれを買うことも困難だった。


「2年か……」


 コツコツ金を貯めて、そのくらい掛かった。

 僅か数万円のBMIを買うために。


 しかし、これを被るのも次で最後。

 そして、次にBMIを脱ぐ時、俺は1億円を手にしている。


 それだけあれば真っ当に生きられる。


めい。待ってろよ……」





—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-64,471,141(日本円)


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