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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
54/204

10億円事件――EP.10

[Billion yen robbery.――EP.10]


「ここからは速さが勝負だよ」


 ツヅリが言う。


「そこまで急ぐ必要あるか?」

「よっちゃん殺《PK》したじゃん?」

「そうだな」

「あれ、組織ギルドのメンバは分かるんだよね。コンソールで」

「それはヤバいな」

「下手したら、円卓騎士の連中がもう戻ってきてるかも」


 もちろん、最終的に円卓騎士は埋める。

 だから、この迷宮ダンジョンに来て欲しい。


 しかし、早すぎるとそれはそれで邪魔だ。

 彼らが戻る前に、迷宮の最下層に辿り着きたい。


「邪魔が入る前に7層のボスを倒す」

「了解」


 5層へと伸びる地下トンネル。

 並んで走りながら言葉を交わす。


「7層のボスって、どんなヤツだよ?」

「強いよ」

「それはそうだろうよ」


 下の階層ほど敵は強くなった。

 7層のボスともなれば、間違いなく強い。


「どのくらい強い?」

「まだ誰も勝ったことが無い」

「……は?」

「言葉通りだよ。誰1人として、勝ったことが無い」

「強すぎない?」

「大丈夫、大丈夫」


 いつものように軽い調子でツヅリは言う。


「ここだけの話、ボスには大きな弱点があるんだ」


 流石のツヅリも、勝算が無ければ挑まないか。


「で、弱点ってのは何だよ?」

「キミ」


 キミ。


 はて。


 キミって何だろう。


 そんな関数や対象オブジェクト、在っただろうか。


「悪い。もう1回言ってもらえる?」

「キミ」

「はい?」

「キミだよ、キミ。プレイヤ・ネームはエン。本名は東雲遠しののめえん

「誰、そいつ?」

「だから、キミだって! 変態でシスコンでヒモ野郎のエンだよ!」

「俺は変態でも、シスコンでも、ヒモ野郎でもない!」

「はいはい。期待してるよー」


 その時だ。

 不意に視界が明るくなる。

 眩しさに目を細めると、ツヅリが言った。


「着いたよ。ここが第5層だ」


「ここは、森……?」


 地下とは思えない光景が広がっていた。



 ◆


「ツヅリ、ここは地下だよな?」

「地下だよ。良く見てごらん」


 確かに、見上げれば天井が在った。

 しかし、自ら発光している。

 おかげで外のような明るさ。


 見渡せばそこかしこに滝があった。

 どうやら上層から流れ落ちているらしい。


「昔は農場だったらしいんだよね」

「なるほど。そういう設定・・ね」

「そゆこと」


 4層の水路は、農場に水や肥料を供給する仕組み(システム)だったのか。

 幾本もの滝が、澄んだ湖や小川を造り出す。

 のどかな光景だ。


 草原に寝そべって、本でも読んだら気持ちが良いだろう。

 めいと一緒にお弁当を作って、ピクニックも良いか。


 しかし、すぐにの彼女が思い浮かぶ。

 病院のベットで管に繋がれた命のことを。


「ツヅリ。急ごうぜ」

「そのつもり」


 その時だ。


 不意に、地面が盛り上がる。

 土はみるみるうちに集まり、人の形を成す。

 それが10体も、20体も。


「早かったね」

「こいつは?」

土くれの人(クロディ・マン)。剣、貸して」

「ああ。宣言:関数デクラレーション・ファンクション  早業クイック・チェンジ


 愚者の剣を呼び出す。

 出現した瞬間、ツヅリが一閃。

 まるで見えなかった。

 しかし、全ての人形が土に還る。


「意外に弱い?」

「弱い? まさか」


 その時だ。

 視界の端で何かが動く。

 反射的に跳んだ。

 それは根だった。

 ムチのようにしなる木の根が、俺を打ったのだ。

 辛うじてかわす。

 えぐれた地面からその威力を察する。


「5層はもともと農園だったんだよね」

「そういう設定な」

「だから、防衛機構が生きてるみたいなんだよね」

「なるほどな……」


 すでに土くれの人(クロディ・マン)が湧いている。

 先ほどツヅリが倒した数よりも多い。


 しかも、周囲から樹の根や岩が飛んでくる。


 俺たちはただ立っているだけだ。

 それだけで、

 土が、

 水が、

 木々が、

 5層の全てが、

 俺たちを排除しようとする。


「5層の敵は、5層そのものなんだ」


 ツヅリは言う。

 澄んだ湖面から飛び出した、水の槍を弾きながら。


「上等」


 流石は最高難易度の迷宮か。

 短剣を抜く。


「やってやんよ!」

「あ、やらないで良いよ」

「良いの!?」

「良いよ」


 そして、ツヅリは不敵に笑う。


「道はボクが造るから、キミは着いてくるだけで良い」




 言葉の通りだった。


 立ちふさがる土人形。

 鞭のようにしなる根や枝葉。

 刃のように鋭い岩。

 毒をまき散らす花。

 爆発する果実。

 矢のように飛来する鳥。

 溺れさせようと溢れる湖沼。

 突如と口を開ける落とし穴。


 ありとあらゆる障害を、ツヅリは残さず叩き潰す。


「ついてきてるー?」


 振り向いたツヅリは問う。


「お、おう……」


 一方、俺は本当にジョギングしているだけだ。

 それどころか方向転換すらしていない。

 ただ、もう、走るだけ。

 滑車を回すハムスタを連想するくらいに。


「ボクに勝てるわけないじゃん! この美少女のボクに!!」


 舞い降りた怪鳥を一撃で粉砕。

 ツヅリが叫ぶ。


「見た目は関係無いだろ」


 と思いながらも、口には出さないでおく。


 彼女が装備しているのは、石礫の鎚ハンマ・オブ・グラベル

 三層の門番、石礫を統べる者ザ・ロード・オブ・グラベルの身体を素材に使った。


 彼も強かった。

 そして、彼から造った武器も強力だった。

 その武器は機能ファンクションを備えていた。


 再生リジェネレーション


「珍しくない機能だけど、まあ、便利だよねぇ」


 ツヅリは言っていた。


 進行方向に岸壁がせり上がる。


「マジかよ……」


 その威容いように呟く。

 しかし、


「よゆー、よゆー。はい、振り被ってぇ!」


 野球選手のように石のハンマを構えるツヅリ。


「どーん!!」


 粉砕。

 砕け散る壁。

 しかし、その威力にハンマも耐えきれなかった。

 持ち手だけを残して粉々に砕ける。

 しかし、その破片が独りでに集まる。

 まるで逆再生した動画のように。

 数秒後、ツヅリの手元には元通りのハンマがあった。

 これが石礫の鎚ハンマ・オブ・グラベルの機能、再生だ。


「コレ、便利だねー」


 実質、耐久無限。

 敵が湧き続ける5層に相応しい武器だ。


「あ、ツヅリ。あれ」


 俺が指差す。

 その先に、もくもくと上がる三本の煙。


「野営だね。どこかのパーティが休憩してるんじゃないかな」


 鎚を振りながら答える。


「こんな環境で?」

「やろうと思えばできるよ」

「って言うことは、あの煙の傍にプレイヤが居るってことか」

「邪魔されたら面倒だから、なるべく避けようか」

「了解」


 いくらツヅリとは言え、手練れのプレイヤを複数相手にするのは厳しいか。


「本当はあの野営を襲うつもりだったんだけどね」

「あ、そういう……」


 どうせ埋めるなら強いプレイヤが良い。

 しかし、最強格のプレイヤはこの迷宮の外、未踏破領域にいるらしい。

 だから、PK騒ぎを起こして、彼らを呼び寄せるのだ。


「よっちゃんを倒せたのは運が良かったな」

「そうだね。1人で済んだし」


 彼女は最大手組織(ギルド)の幹部級。

 間違いなくトップクラスのプレイヤだ。

 そんな彼女が突如としてPKされた。

 これは事件だ。


「今ごろ大騒ぎかもね」


 ツヅリの押し殺した笑い。


「良い性格してんな」

「褒めないでよー」

「褒めてない」


 6層を目指して俺たちは走り続ける。






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-64,471,129(日本円)




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