表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
51/204

10億円事件――EP.8

[Billion yen robbery.――EP.8]


「宣言:関数 劫火インフェルノ


 瞬間、全ての氷柱が空中で溶けた。

 ボタボタと水だけが落ちる。


「大丈夫。ボクも強いから」


「聞いてへんよー」


 よっちゃんが言った。


「帰ってええ?」

「もちろん。強制退場ログアウトさせてあげる」

「そ、それは違うやん!?」

「弱くて最初から(ニューゲーム)、行ってみようか。宣言:関数――」


「待て待て待て!」


 両手を広げ、ツヅリの前に立ちふさがる。


「おお! お兄さん、イケメン!」


 背後でよっちゃんが拍手している。


「なんだよー?」

「この人と戦うメリットが分からない」

「メリットならあるよ」

「どんな?」

「倒してからじゃダメ?」

「相棒だろ」


 その一言が効いたらしい。


「キミは話が早いから良いけどさ……。円卓騎士の主要メンバって、ゲーテの大迷宮にはいないんだよね」

「どこにいるんだよ?」


 ゲーテの大迷宮は最難関ダンジョンだ。

 最強クラスのギルドが、ここ以外どこを探索するというのか。


未踏破領域みとうはりょういき


 未踏破領域。

 噂には聞いたことがあるが。


「――本当に、あるのか?」

「あると思ってるんでしょ。この人たちは」


 しかし、ツヅリの意図は読めた。


 俺たちは今、大量のプレイヤをこの大迷宮ごと埋めようとしている。

 しかし、どうせ埋めるのであれば、より強いプレイヤを埋めたい。

 そのほうが手に入る金が多いからだ。


「コイツ、円卓騎士の重役でしょ?」

「らしいな」

「コイツを倒せば、他の主要メンバも戻ってくるよ」


 確かに、どうせ埋めるなら大手ギルドの主要メンバを埋めたい。

 そのほうが儲かる。


 よっちゃんに向き直る。


「よっちゃん。悪い」

「い、イケメンのお兄さん。もう少しだけ頑張ってみいひん?」

「ツヅリを説得するより、アンタを倒す方が楽だ」

「な、なんやて!?」


 短剣を抜く。


「……び、美人のおねえさんやでー?」


 よっちゃんが身体をくねらせる。


「ボクの方が美人だけど?」

「せ、せやった……」

「ツヅリ。どうする?」

「ん? 合わせるよ」

「了解」


 短剣を投げる。


宣言:関数デクラレーション・ファンクション  早業」


 指先からその柄が離れる寸前、それは巨大な剣に変化。

 しかし、この関数が書き換える情報は武器の種類(・・・・・)だけ。

 速度、という情報は変わらない。

 すなわち、巨大な剣は勢いそのまま、よっちゃんに迫る。


「ひえぇ!? 宣言:関数 氷縛ブロック・ロック


 瞬間、宙に氷の立方体が出現。

 それは爆発的に成長。

 そのまま剣を呑み込んだ。

 大剣は氷塊に突き刺さったまま、動かなくなる。

 しかし、


「行くよ」


 ツヅリは飛び出していた。

 勢いの乗った回し蹴り。

 刺さった大剣の柄を蹴っ飛ばす。

 大剣は氷を砕き、なおも前進。

 よっちゃんに迫る。


「ひゃあっ!」


 よっちゃんは背中の長槍を抜く。

 柄は白銀。

 刃は透明な青。

 氷の海のような青だ。

 宝石の類か。

 そんな槍で迫る大剣を弾く。


「エン!」


 ツヅリが叫んだ。

 短剣を投げる。


「宣言:関数 早業」


 瞬間、愚者の剣に変化。

 一直線に飛翔。

 よっちゃんが跳んで避ける。

 しかし、ツヅリはが大剣を空中で掴んだ。


「なんやてっ!?」


 ツヅリはよっちゃんを追いかけて跳躍。

 空中で回転。

 華奢きゃしゃな少女は、自身の数倍もある白刃を叩き込む。


「宣言:関数 氷縛ブロック・ロック


 出現した氷の立方体が斬撃を阻む。 

 しかし、勢い全てを殺せなかった。

 よっちゃんが吹き飛ばされる。

 水路に衝突。

 粉砕して止まる。


「……お嬢さん。おいたが過ぎひん!?」


 よっちゃんが身を起こす。

 その時には、彼女の背後にツヅリがいた。

 大剣を振り下ろす。


「ひょえっ!?」


 バネ仕掛けのように身体を捻るよっちゃん。

 回転の勢いを乗せて槍を振るう。

 辛うじてツヅリの一撃をいなす。

 しかし、ツヅリは止まらない。

 身の丈を超える大剣を、右へ、左へ、振り回す。

 辛うじて槍で受けるよっちゃん。

 しかし、波間に浮ぶ木の葉のよう。


「か、かんにん! 宣言:構造デクラレーション・クラス  氷縛壁ブロック・ウォール!!」


 無数の氷の立方体が地面にばら撒かれる。

 それらが爆発的に成長。

 わずか1秒にして氷の城壁を造り上げる。


「エン!」

「あいよ。宣言:関数  早業 愚者の鎚」


 巨大な戦鎚を投げる。

 おもり部分だけで使い手よりも大きい。

 不格好な戦鎚。

 ツヅリはそれを空中で受け取ると、氷の壁にぶち込んだ。

 一撃で粉砕。


「あんた、つよいなぁ」


 しかし、砕けた壁の向こうで待っていたのは、微かに笑うよっちゃんだった。


「つよいさかい、これくらいは砕く思うとった。宣言:構造 樹氷林フロスト・フォレスト


 ツヅリが砕いた氷の欠片が、周囲を舞っている。

 宝石のようにキラキラと光りながら。

 そんな欠片が瞬間的に膨張。

 まるで、植物の成長を早送りにしているように。

 無数の欠片から氷の枝が伸びる。


「宣言:関数 劫火」


 ツヅリが関数を呼び出す。

 彼女を中心に燃え盛る炎。

 しかし、


「甘いで。起動:機能アウェイク・ファンクション 冬の訪れ(ウィンター・フォール)!」


 白銀の槍を握りしめ、よっちゃんが高らかに叫ぶ。

 瞬間、空気が凛と張り詰めた。

 一瞬にして気温は氷点下。


「これは……」


 吐く息がきらきらと光る。

 息に含まれる水分が凍ったのだ。

 吸った空気の冷たさに肺が痛い。


 機能ファンクション


 それはごく一部のアイテムのみが持つ特殊効果。

 プレイヤは関数ファンクションによって世界の情報を書き換える。

 それと同じように、機能ファンクションも世界の情報を書き換えるのだ。


 書き換えられる情報は限られる。

 しかし、その分、効果は絶大。


 恐らく、冬の訪れ(ウィンター・フォール)は周辺の温度という情報を書き換える機能。


 ツヅリを取り巻く、炎の勢いがみるみると弱まる。

 そのまま、彼女は樹氷の森に呑まれた。


「……ツヅリ?」


 沈黙。


「ふぅ。まずは、1人……」


 よっちゃんが俺に向き直る。


「あの、見逃してもらえたりって、します?」

「おもろいこと言うなぁ」


 しかし、その目は笑っていない。


「うちを倒すほうが楽なんやろ?」






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-64,470,670(日本円)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ