表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
5/204

邂逅、$10億ドルの少女。――EP.5

[A boy meets a billion dollars girl.――EP.5]


「おら! 掛かって来いよ節足動物どもが! 収穫祭じゃあっ!」


 叫び声に反応したアリが一斉に飛び掛かる。


宣言:関数デクラレーション・ファンクション 早業クイックチェンジ 騎士の護剣」


 現れた剣を地面に突き立てる。

 剣の柄を足場に跳躍。

 ほんの一瞬、遅れてアリが殺到。

 黒いアリ団子が出来る。

 キモい。


「宣言:関数 早業 大戦槌」


 振り上げた両手に出現したのは、


「デカい鉄の塊に棒を生やしました」


 といった風情のハンマだ。


 重りの部分だけで既に俺よりも大きい。

 もちろん、こんな重量物を扱う筋力は無い。

 しかし、後は重力が仕事をしてくれる。

 武器による一撃、というよりか「落石」という表現が正確。

 最早、災害。

 アリ団子目掛けて、墜ちる。


 新聞紙を丸めて握り潰す感覚に近い。

 この大槌にかかればアリの装甲もその程度。 

 アリ塊から茶色い汁が噴き出す、が、一息吐く時間も無い。

 その屍を乗り越えて、次から次から新規のアリが殺到する。


「しっかし数が多い……」


 それだけ儲けも多いが、殺されたら元も子も無い。


「勿体ないけど、宣言:制御デクリアレーション・コントロール 繰り返し(ループ) 範囲:1-5《レンジ・1から5》――」


 後ろ向きに跳躍。


「――早業 愚者の剣」


 瞬間、この手に出巨大な剣が出現する。

 それを手放す。

 直後、再び剣が出現。

 それも手放す。

 繰り返すこと5回。

 折り重なる巨大な剣が即席の柵になる。

 殺到したアリたちが柵に詰まる。

 押し寄せるアリの流れが緩んだ。

 これで戦える。


 潰したアリから飛び散る体液に萎えそうになる気持ち。

 しかし、妹を思い浮かべて鼓舞。


「兄さん、頑張るからな」


 こうして独り、地下で巨大な節足動物を潰し続ける。






「うーん。段々、コツを掴んできたぞ。基本は潰すに限るな。虫だし」


 斬撃や刺突は利きにくい。

 甲殻の滑らかな曲線が刃を滑らせる。

 だから、ひたすら叩き潰す。


 とは言え、巨大なハンマを振り回す筋力も体力も、俺には無い。

 そこで関数:早業の出番だ。


 まずは短剣を構える。

 そのまま、アリ目掛けて振り落とす。

 最も速度の乗ったタイミングで


「宣言:関数 早業」

 

 関数を宣言。

 瞬間、短剣が巨大な槌に変わる。

 そして、その速度は元々の短剣と同じ。

 筋力は要らない。

 ただ、勢いのまま昆虫に叩き込めば良い。


 ハンマで叩き潰しては、短剣に持ち変える。

 そして、再び叩き潰す。

 その繰り返し。


 二時間も経過する頃には、戦闘は「作業」になっていた。

 時折コンソールを開く余裕すら有る。


「しかし、妙だな……」


 ログによれば、


[>>> lake ant defeated. 38.8(JPY) aquired]


 とある。


湖蟻レイク・アントを討伐。38.8円を獲得」


 ということだ。

 つまり、俺が現在進行形で叩き潰しているMOBは湖蟻と言うらしい。


レイク要素、無えよな」


 Lakeという英単語に湖以外の意味が有ったか。帰ったら調べてみ


「――っぶねえ!」


 いつの間にか、足元にアリがいた。

 紙一重、身体を捻ってかわす。

 空を噛むアリの大顎。

 その胴体を蹴り飛ばし、距離が開く。

 槌の間合い。


「宣言:関数 早業」


 ハンマーが出現。

 粉砕。


「危なかった」


 ログを確認する。

 1分あたり2匹を上回るペースで駆除し続けている。


「5000円」


 悪くない。

 しかし、この金額は売上(・・)だ。

 そのまま利益(・・)にはならない。


 関数とは世界を書き換えること。

 つまり、計算をすること。


 計算には金が必要だ。

 だから、アリを倒すのに使用した関数の分、俺は金を消費している。


 しかし、それでも時給換算で千円は超えるか。

 

「兄さん! すごいのです!」


 と喜ぶ妹の顔が浮かんだ。


 単純作業も続ければボロが出る。

 ここらが潮時だろう。

 集中が切れる前に帰ろうか。

 そんなことを思った時だ。


「まあ、そう上手くもいかねえんだろうな」


 群がっていたアリたちが一斉に引く。

 代わりに一匹のアリが群れの中から歩み出る。

 巨大アリの中にあって、一段と大きい。

 普通の個体の二倍は有るか。

 異様に肥大化した顎。

 牙はもぎ取ればそのまま包丁に使えそうなサイズ。

 黒く艶めかしく光る。


「お前さんは兵隊アリってことか?」


 確かに風格が有る。

 戦士の風格。

 アリのくせに。


「なるほどな」


 複雑な敵ほど多くの計算量を持つ。

 だから、敵が複雑であればあるほど、倒した時の報酬(現金)も多くなる。


 ざっくりと言えば、


「強い敵ほど、倒せば沢山の金が手に入る」


 と言うことだ。

 この点が非常に重要だ。


 働きアリ一匹でモヤシ一袋(※注 特売ではない)。

 ならばコイツは。


「お前さん、卵1パックくらいは有るんだろうな!?」


 洞窟の暗闇。

 それを塗りつぶす別の黒。

 ひしめく巨大なアリの群れ

 押し寄せる黒い波だ。


 ぶっ殺してやるぜ。






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:97,224(日本円)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ