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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
47/204

10億円事件――EP.4

[Billion yen robbery.――EP.4]


 見下ろす光景には迫力が在る。

 思わず唾をのみ込む。

 そんな俺の隣で、ツヅリは笑った。


「さあ。4層攻略を始めよう」

「そうだな」

「それじゃあ、さっき倒したプレイヤの500万円、変数パラメータに振ろうか」


 変数パラメータ

 つまり、STR、AGI、VITの能力値。

 それぞれ、筋力、速さ、体力を意味する。


 STRが高いほど強い力を発揮し、

 AGIが高いほど早く動け、

 VITが高いほど死ににくい。


 しかし、それらの変数を増やすにも金が要る。

 世知辛いゲームシステム。


「500万円かぁ……」


 思わずつぶやく。

 こんな大金、今後の人生で手に入れることがあるだろうか。

 しかし、能力値に振ってしまえば消えてしまうのだ。

 溜め息を吐きながらコンソールを開く。

 すると、ツヅリは言った。


「じゃあ、現金化すれば?」

「……え。良いのか!?」

「うん。良いよ」


 予想外の答え。

 しかし、ツヅリがそう言うのなら現金にしてしまうか。


「だけど、大丈夫かな?」


 コンソールに


[>>>|realization《現金化》]


 と打ち込んだ時、ツヅリが言う。


「……大丈夫って、何が?」

「キミはこれから7層まで攻略するんだよ? 貧弱な変数で大丈夫?」

「うっ……」


 死んでしまえば最初からやり直し。

 俺はこの分身アバタを失う。

 つまり、稼ぐ手段を失うのだ。


 仮に500万円を返したとしても、残る借金は6000万円以上。

 返済は不可能だ。


「それにキミ、もうPKerだよね? 追手も掛かるかもしれないなー」

「これが借金地獄か……」

「結婚する?」

「絶対にしない」


 先ほどプレイヤを倒して、手に入れた約556万円。

 3等分して180万円ずつ、STR、AGI、VITに割り振る。


 コンソールを開き確認。


[>>> STR:2,433,333(JPY)]

[>>> AGI:2,433,333(JPY)]

[>>> VIT:2,433,333(JPY)]


 これで、各種パラメタは200万円を超えた。


「試してみたら?」

「そうだな。宣言:関数デクラレーション・ファンクション 早業クイック・チェンジ


 愚者の剣を呼び出す。

 身の丈を超える鉄の塊だ。


「――うおっ! あ、上がるぞ!?」


 そんな巨大な剣が完全に持ち上がる。

 しかし、それで限界だった。

 振るうことは不可能。

 それでも大きな進歩だ。


「どんどん強くなるねぇ」

「ああ。強くならねえと。借金があるからな」


 このまま強くなって、いずれは全額返済。


「借金!? それは大変だ! 幾らあるの?」


 ツヅリがすっとぼけったことを言う。


「6700万円」

「なんだって!?」


 ツヅリがわざとらしく驚いて見せる。

 お前が言うか。


「茶番はこのくらいにして行こうぜ……」

「うーい」


 すたすたと歩き出すツヅリ。

 この迷宮のような水路を前にして、何の迷いも無い。


「道順分かってんのか?」

「もちろん! これ、これ」


 見れば、足元に金属製の杭が刺さっていた。

 先端には銀色のタグが付いている。


「これは?」

「道標。過去のプレイヤの試行錯誤の積み重ね」

「そうか。これを辿って行けば良いのか」

「そゆこと。ちなみに、銀色の札は主要道路メインルートだね。5層まで続いてるよ」

「有難いな」

「ほんと、ありがたいよねー。宣言:関数デクラレーション・ファンクション  地割れグラウンド・フィッシャ


 ツヅリが関数を呼び出す。

 杭を中心に、地面に亀裂が走る。

 ガタガタにゆるんだその杭を彼女はおもむろに引き抜いた。


「感謝だよねぇー」


 投げた。


「え?」


 流石は1億円級ハンドレッド・ミリオン・クラス

 その圧倒的なSTR(筋力)値から放てる投擲とうてき

 杭は流星のように飛翔。

 暗闇に消えた。

 数秒後、


「こーんっ」


 という小気味の良い音が聞こえる。

 どこかに刺さったらしい。


「感謝、感謝!」

「……言ってることと、やってること、違くない?」

「違うよ」

「えぇ……」


 ヤバイ人じゃないですか。


「感謝しながらブン投げてる」

「おかしいだろ」

「忘れた? ボクたちはもうPKerで、これからもっと殺そうとしてるんだよ?」

「ああ。そういうこと……」


 追手が掛かる可能性もある。

 ということは、追跡の手掛かりは無い方が良い。

 道標を破壊していくのは悪くない。


「ツヅリの意図は分かったよ」

「キミは話が早くて助かる」

「だけど、なおさら何してんだよ?」

「ダメだった?」

「ダメだ。着いて来い。あ、道標は壊すなよ」


 しばらく、道標に従って進む。

 何度も曲がり、何度も登り、何度も降りた。

 すでに入口の場所は分からない。

 距離どころか大まかな方向すら不明。


「まあ、この辺だろ。宣言:関数 早業 大戦鎚」


 戦鎚を呼び出す。

 刺さった杭を打つ。

 意外に頑丈だ。

 二度、三度、繰り返してようやく杭を吹っ飛ばす。


「あ! いーけないんだ、いけないんだ!」


 騒ぎ出すツヅリが1名。


「良いんだよ」

「良いの?」

「よく考えてみろよ。最初から道標が無いなら、すぐに引き返せるだろ。そして、対策を立てられる」

「そうだね」

「ある程度進んでから道標が無くなったらどうだ?」

「確かに! そっちの方が時間を使わせられるだろ」

「エン、悪いなー」

「ツヅリほどじゃないけどな」


「「あっはっは」」


 2人で声を合わせて笑う。


「ついでに、通路も所々、壊しておこう。風景を変えれば迷いやすくなる」

「すごいや! キミって鬼畜だね!」

「止せよ」


 そんな言葉、輝く笑顔で言うなよ。


「了解! ハンマ貸してよ」


 ツヅリは戦鎚を引っ手繰ると、手近な水路や水車を叩き割って回る。

 これが1億万円級のSTR(筋力)か。

 背丈を超える鎚を、新体操のバトンのようにクルクル回す。

 華奢で可憐な少女。

 しかし、


「怪獣」


 という言葉が相応しい。


 その時だ。


「あっはっは。楽しいー! ……ん?」


 はしゃぎ回っていたツヅリが、ふと破壊の手を止める。


「どうした?」

「道標ってのも良し悪しでさぁ」

「なんだよ?」

「動的対象《MOB》も学ぶからね」


 【計画ザ・プロジェクツ】の動的対象は、高性能な人工知能を積んでいる。


「知ってるんだろうね。道標の近くにはプレイヤが現れるって」


 嫌な予感がする。


「だからさ、弱い動的対象は道標に近づかない。寄ってくるのは強いヤツだけ。コイツ(・・・)みたいにね」

「……何が?」


 コイツ(・・・)は最初からそこにいた。

 ただ、見えなかっただけで。


 彼女の背後、巨大なタコが姿を現す。






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-64,470,716(日本円)





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