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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
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キミが幸せになれるわけないじゃん!――EP.8

[You can't be happy! ――EP.8]


 かくん、と項垂うなれたと思ったら、額を俺の胸に押し当てた。

 そのままの姿勢で言う。


「私、兄さんの妹で良かった」


「――!?」


 これ以上、兄冥利(みょうり)に尽きる言葉があるか。


 蝉の声が聞こえなくなった。

 鼓動が速くなる。

 胸にかかる心地よい重み。

 そして、命の息遣い。

 今、世界に存在しているのはそれだけ。

 惜しむべきは、命の表情がうかがい知れないことか。

 ずっとこのままでいたい。

 そんなことを思う。


 しかし、


「チッ」


 いつの間にか、背後に男が立っていた。


「あ、どうも……」


 俺が慌てて道を譲ると、


「……っ!?」


 命は頬を赤らめながら顔をそむけた。


 男は、俺たちと目線を合わせることもなく、廊下を歩いて言ってしまった。

 彼もこのアパートの住人。

 お隣さんだ。

 とは言え、互いに名前も知らない。

 こちらから挨拶をしても返ってきたことはない。

 あとは時々、壁を叩かれるくらいか。


 お隣さんが去ってからしばらくして


「兄さんっ」


 俺の裾を引っ張って命は抗議する。

 頬をふくらませながら。


「廊下であんなことしたのは、貴方じゃないですか」


 などとは言い返せないけれど。




 カルビ、ロース、タン、ホルモン、ミノ。

 狭いちゃぶ台を埋めつくすように並んだ肉たち。

 もちろん全てアメリカ産。

 しかし、壮観。


「兄さん! 舶来はくらいものですよ!」

「……そ、そうだな」


 牛肉に関して言えば国産の方が高い。

 普段、牛肉なんて買わないから失念しているらしい。

 もちろん、わざわざ訂正なんて野暮なことはしない。


「最近、頑張っていたのはこれのためですか?」

「まあ、一応」

「無理だけはダメですよ」

「当然」

「本当にダメですからね?」

「最近さ、効率よく稼ぐ方法が分かってきたんだ」


 ツヅリのおかげだ。


「そうなのですか?」

「ああ。これから、もう少し余裕もできると思うよ」

「流石は兄さんなのです」


 命は手のひらを顔の前で合わせる。


目途めどが立ったよ」

「目途、ですか?」


 今の成績を維持しながら高校を卒業。

 奨学金を獲得した上で大学に進学。

 そして、真っ当な職に就く。

 それが俺の計画だ。


 しかし、一番の懸案事項ネックはそれまでの生活費だった。

 職に就くまでの数年、きちんと生きていられるか。

 食べて行くにも金が要る。


 ただ、それにも目途が立った。

 俺は強くなったから。

 【計画ザ・プロジェクツ】で、十分な金を稼ぐことができる。


「くぅ~」


 その時、命がお腹を鳴らす。


「命さん?」

「聞かなかったことにして欲しいのです……」

「わ、悪い。食うか」


 山盛りの肉を前にして、これ以上は我慢の限界だった。

 ホットプレートをコンセントに繋ぐ。

 1分ほどで温まる。

 牛脂を落とせば雪のように溶ける。

 香ばしい香り。

 

「「んんっ!!」」


 思わず声が漏れる。


 チャイムが鳴ったのはそんな時だった。

 命が窓から外を伺う。


「あ。お隣さんですね」


 顔見知りだから、という油断が在ったのかもしれない。


「私が」


 そう言って立ち上がる命に、


「悪い。頼む」


 と答えてしまったのだ。


「はい。今、出ますね」


 扉を開けた姿勢で命が固まった。


「どうした?」


 問いかけると、彼女は首だけで振り向いた。

 ぱくぱく、と口を動かす。


「兄さん」


 そう言おうとしたのか。

 声の代わりに口から零れたのは、赤い血の泡だった。


「……命?」


 刃は、彼女の胸に深々と突き刺さっていたのだ。






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:1,881,004(日本円)




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