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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
28/204

あ。俺、人間を殺したのか......。――EP.9

[Did I kill a human......?――EP.9]


「お前がクズで良かった」


 罪悪感が少なくて済むから。


 さあ。


 何回で死ぬだろうか。


宣言:制御デクラレーション・コントロール 繰返し(ループ)――――」






「死体もきちんと残るのな……」


 見ていて気持ちの良いモノでは無いけれど。


 手足は


「関節が幾つ有るのか?」


 と言った具合に曲がっている。

 ひしゃげた鎧は、もう脱ぐことはできないだろう。

 ここまでして、ようやく彼は死んだ。

 俺のSTR(筋力)が低いばかりに、苦痛を長引かせてしまった。

 反省はしていない。


「見苦しいなら燃やそうか?」


 ツヅリは訊ねながらすでに


宣言:関数デクラレーション・ファンクション 劫火インフェルノ


 その死体を灰に変えていた。

 手際の良いことで。


「一歩、強くなったね」

「ああ」


 冷静に観察し、勝ち筋を見つける。

 これが1層で学んだこと。


 しかし、その先が在った。


 こちらの動きで、逆に相手を意のままに動かすこと。


 例えば、今しがた倒したPKer。

 俺が転んだ(振りをした)ことで、とどめを刺しに来た。

 つまり、とどめを刺すよように誘導したのだ。

 当然、その行動は読んでいる。

 だから、隙を突けた。


 相手が手練てだれならば、こう簡単にはいかなっただろうけど。


 コンソールを開く。


[>>> player(aws022987124) defeated 1,852,331.01(JPY) aquired]


 メッセージは端的に語っていた。

 つまり、PKerを撃破。

 そして、約180万円を獲得、と。


「ひゃ、ひゃく、はちじゅうまん……」


 何度、確認しても、その数字は185万2331円。

 こんな額を手に入れたことは人生で初めて。


「1年は余裕で暮らせんぞ……」

「エン。約束、忘れてないよね」

「……分かってる」


 PKerと戦う前、ツヅリは俺に条件を出した。

 それは、手に入れた報酬の96%を能力値の強化に使うこと。

 つまり、178万円もの金を使って、俺のSTR(筋力)、AGI(速さ)、VIT(体力)という情報を書き換えるということだ。


「……やっぱり、振らなきゃダメ?」

「エン。約束(・・)だよ?」

「だよな……」

「きちんと守るところ、好感が持てるねぇ」

「はいはい……」


 178万円。

 これで1年以上は暮らせる。


 しかし、変数を書き換える為に消費してしまえば、それきり。

 STR(筋力)を減らしてお金に換える、なんてことはできない。

 それが【計画ザ・プロジェクツ】というゲームの仕様だった。


「そんな目で見ないでよ」

「どんな目?」

「捨てられた子犬の目」

「うっ……」


 今後、人生でこんな大金を手にすることが有るだろうか。

 180万円に対する未練を断ち切る方が、PKerを倒すよりも難しいくらいだ。


「……振ったよ」


 96%を変数の書き換えに使う。

 この条件を断る選択肢は無かった。


「断ったらどうなる?」


 と問えば、


「じゃあ、あのPKerはボクが蒸発させるね」


 と彼女は答えた。


 そうなれば全ての金はツヅリのモノ。

 ならば、4%だけでも手に入れた方が得だ。


「試しに、動いてみたら?」


 ツヅリが言う。


「そうだな」


 助走を着けず、その場で地面を蹴る。

 垂直跳び。


「うおっ!?」


 想像の数倍の高さ。

 人間、2人分の高さは跳んだか。 

 足元にツヅリが見下ろす。

 彼女はひらひらと手を振っていた。

 空中で体勢を崩しながらも着地。


「身体が軽い」

「もともと、いくら振ってたんだっけ?」

「どの変数も3万円ずつだな」

「3万……。良く死ななかったね……」

「生活懸かってるからな。必死さが違う」

「なるほど……」


 走ってみる。

 走り出した、と思ったときには壁が目の前に在った。

 前足で壁を蹴り衝突を回避。


「ちょっと待てよ。コレ、いけるか……?」


 インベントリから取り出したのは愚者の剣。

 身の丈はゆうに超える肉厚の大剣。

 以前はピクリとも動かせ無かったが……。

 両手で柄を握る。


「…………う、うおっ! 動く!?」


 その鉄塊がゆっくりと持ち上がる。

 しかし、刃先は地面についたまま。

 全てを持ち上げることは無理か。


「ふぅ……。こんなもんか……」

「感想は?」

「悪くない。けど、自分の身体じゃないみたいだな……」

「いきなり20倍の金額を振ったからね。普通は少しづつ増やすからさ」

「そうなのか」

「そのうち馴染むよ」

「なら良いけどな」


 試しに、その場でジャブを繰り出しながら答える。

 身体が軽い。


 180万は惜しい。

 しかし、これなら普通に稼ぐことができる。

 長い目で見れば、こちらの方が得だったのでは。

 ただ、気になることが在った。


「どうしたんだよ?」


 ツヅリがやけに大人しい。


「あ、分かる?」

「お前さん風に言うなら、これも【計画】が一歩、進んだんじゃないんのか?」

「そうだね。だけど、気になってることが在るんだ……」

「何を?」

「PKerが弱い」

「まずいのか?」

「分からない……。分からないから、気になってる」

「ツヅリと俺だと背景知識が違う。順を追って説明してくれよ」


 少し考えてから、彼女は話し始める。


「ゲームに限った話じゃないんだけどさ、何事も極めると、もっと高い目標を目指したくなるんだ」

「まあ、そうかもな……」


 一度クリアしたステージを、何度もクリアしても飽きてしまう。

 そういうことだろうか。

 【計画】の他にゲームなんて遊んだことが無いから想像でしかないけれど。


「【計画】のプレイヤも同じだよね。程度は人それぞれだけど、大体のプレイヤはあるMOBを倒すと、次はもっと強いMOBを倒したくなる」

「だろうな。稼げる金も増えるし」

「でも、中には度が過ぎるプレイヤもいるんだね」

「と言うと?」

「あのPKer、強かった?」

「あー、そう言うことか」

「エン。流石だね。話が早くで助かるよ」


 話が読めた。

 

 同じMOBを倒しても詰まらない。

 より強いMOBを。

 求め続けるうち、彼はもっと強い存在に気付く。

 つまり、プレイヤに。


「だから、今までのPKerは「強者を求めた侍」的な人が多かったんだよね」

「どっちにしろ迷惑ではあるな」

「まあね。でも、そんな感じだから1000万級テンミリオン・クラスのプレイヤが、単独で殺《PK》して回ることが多かったんだ」

「なるほど……」


 それに比べて今回は100万級ミリオン・クラスのプレイヤ。

 上級者では有るが、ランカにはほど遠い。


「それから、数十人のグループだったのも妙だよね」

「強いやつと戦いって感じでも無かったよな。むしろ――」

「殺すのが愉しい、みたいな?」

「そうだな」


 聞くところによると、数人で格下のプレイヤを狩っていたらしい。

 ただ、


「で、話をまとめると「分からない」ってことか?」

「ま、そうなるよねー。でも言えることがあるよ」

「何?」

「人間が群れる時は、必ずリーダーがいるんだ」

「必ず?」

「そう。必ず。知ってる? ある研究によれば、2人だけで話してる時だって、どちらか一方が主導権を握ってるんだ。心当たりはない?」

「言われてみれば……」


 「○○がリーダー」と明文化されていなくても、その場を支配する人間はいるのかもしれない。

 しかし、黒幕か。


「それで、どうするんだよ?」

「んー、何もしない、かな……」

「しないのかよ」


 余計なことに首を突っ込まないのなら、俺としては安心できる。


「ボクの【計画】を邪魔しない限りは、ね」


 しかし、ツヅリはそんな物騒な一言を付け足した。





—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:1,911,110(日本円)


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