あ。俺、人間を殺したのか......。――EP.9
[Did I kill a human......?――EP.9]
「お前がクズで良かった」
罪悪感が少なくて済むから。
さあ。
何回で死ぬだろうか。
「宣言:制御 繰返し――――」
◆
「死体もきちんと残るのな……」
見ていて気持ちの良いモノでは無いけれど。
手足は
「関節が幾つ有るのか?」
と言った具合に曲がっている。
ひしゃげた鎧は、もう脱ぐことはできないだろう。
ここまでして、ようやく彼は死んだ。
俺のSTR(筋力)が低いばかりに、苦痛を長引かせてしまった。
反省はしていない。
「見苦しいなら燃やそうか?」
ツヅリは訊ねながらすでに
「宣言:関数 劫火」
その死体を灰に変えていた。
手際の良いことで。
「一歩、強くなったね」
「ああ」
冷静に観察し、勝ち筋を見つける。
これが1層で学んだこと。
しかし、その先が在った。
こちらの動きで、逆に相手を意のままに動かすこと。
例えば、今しがた倒したPKer。
俺が転んだ(振りをした)ことで、とどめを刺しに来た。
つまり、とどめを刺すよように誘導したのだ。
当然、その行動は読んでいる。
だから、隙を突けた。
相手が手練れならば、こう簡単にはいかなっただろうけど。
コンソールを開く。
[>>> player(aws022987124) defeated 1,852,331.01(JPY) aquired]
メッセージは端的に語っていた。
つまり、PKerを撃破。
そして、約180万円を獲得、と。
「ひゃ、ひゃく、はちじゅうまん……」
何度、確認しても、その数字は185万2331円。
こんな額を手に入れたことは人生で初めて。
「1年は余裕で暮らせんぞ……」
「エン。約束、忘れてないよね」
「……分かってる」
PKerと戦う前、ツヅリは俺に条件を出した。
それは、手に入れた報酬の96%を能力値の強化に使うこと。
つまり、178万円もの金を使って、俺のSTR(筋力)、AGI(速さ)、VIT(体力)という情報を書き換えるということだ。
「……やっぱり、振らなきゃダメ?」
「エン。約束だよ?」
「だよな……」
「きちんと守るところ、好感が持てるねぇ」
「はいはい……」
178万円。
これで1年以上は暮らせる。
しかし、変数を書き換える為に消費してしまえば、それきり。
STR(筋力)を減らしてお金に換える、なんてことはできない。
それが【計画】というゲームの仕様だった。
「そんな目で見ないでよ」
「どんな目?」
「捨てられた子犬の目」
「うっ……」
今後、人生でこんな大金を手にすることが有るだろうか。
180万円に対する未練を断ち切る方が、PKerを倒すよりも難しいくらいだ。
「……振ったよ」
96%を変数の書き換えに使う。
この条件を断る選択肢は無かった。
「断ったらどうなる?」
と問えば、
「じゃあ、あのPKerはボクが蒸発させるね」
と彼女は答えた。
そうなれば全ての金はツヅリのモノ。
ならば、4%だけでも手に入れた方が得だ。
「試しに、動いてみたら?」
ツヅリが言う。
「そうだな」
助走を着けず、その場で地面を蹴る。
垂直跳び。
「うおっ!?」
想像の数倍の高さ。
人間、2人分の高さは跳んだか。
足元にツヅリが見下ろす。
彼女はひらひらと手を振っていた。
空中で体勢を崩しながらも着地。
「身体が軽い」
「もともと、いくら振ってたんだっけ?」
「どの変数も3万円ずつだな」
「3万……。良く死ななかったね……」
「生活懸かってるからな。必死さが違う」
「なるほど……」
走ってみる。
走り出した、と思ったときには壁が目の前に在った。
前足で壁を蹴り衝突を回避。
「ちょっと待てよ。コレ、いけるか……?」
インベントリから取り出したのは愚者の剣。
身の丈はゆうに超える肉厚の大剣。
以前はピクリとも動かせ無かったが……。
両手で柄を握る。
「…………う、うおっ! 動く!?」
その鉄塊がゆっくりと持ち上がる。
しかし、刃先は地面についたまま。
全てを持ち上げることは無理か。
「ふぅ……。こんなもんか……」
「感想は?」
「悪くない。けど、自分の身体じゃないみたいだな……」
「いきなり20倍の金額を振ったからね。普通は少しづつ増やすからさ」
「そうなのか」
「そのうち馴染むよ」
「なら良いけどな」
試しに、その場でジャブを繰り出しながら答える。
身体が軽い。
180万は惜しい。
しかし、これなら普通に稼ぐことができる。
長い目で見れば、こちらの方が得だったのでは。
ただ、気になることが在った。
「どうしたんだよ?」
ツヅリがやけに大人しい。
「あ、分かる?」
「お前さん風に言うなら、これも【計画】が一歩、進んだんじゃないんのか?」
「そうだね。だけど、気になってることが在るんだ……」
「何を?」
「PKerが弱い」
「まずいのか?」
「分からない……。分からないから、気になってる」
「ツヅリと俺だと背景知識が違う。順を追って説明してくれよ」
少し考えてから、彼女は話し始める。
「ゲームに限った話じゃないんだけどさ、何事も極めると、もっと高い目標を目指したくなるんだ」
「まあ、そうかもな……」
一度クリアしたステージを、何度もクリアしても飽きてしまう。
そういうことだろうか。
【計画】の他にゲームなんて遊んだことが無いから想像でしかないけれど。
「【計画】のプレイヤも同じだよね。程度は人それぞれだけど、大体のプレイヤはあるMOBを倒すと、次はもっと強いMOBを倒したくなる」
「だろうな。稼げる金も増えるし」
「でも、中には度が過ぎるプレイヤもいるんだね」
「と言うと?」
「あのPKer、強かった?」
「あー、そう言うことか」
「エン。流石だね。話が早くで助かるよ」
話が読めた。
同じMOBを倒しても詰まらない。
より強いMOBを。
求め続けるうち、彼はもっと強い存在に気付く。
つまり、プレイヤに。
「だから、今までのPKerは「強者を求めた侍」的な人が多かったんだよね」
「どっちにしろ迷惑ではあるな」
「まあね。でも、そんな感じだから1000万級のプレイヤが、単独で殺《PK》して回ることが多かったんだ」
「なるほど……」
それに比べて今回は100万級のプレイヤ。
上級者では有るが、ランカにはほど遠い。
「それから、数十人のグループだったのも妙だよね」
「強いやつと戦いって感じでも無かったよな。むしろ――」
「殺すのが愉しい、みたいな?」
「そうだな」
聞くところによると、数人で格下のプレイヤを狩っていたらしい。
ただ、
「で、話をまとめると「分からない」ってことか?」
「ま、そうなるよねー。でも言えることがあるよ」
「何?」
「人間が群れる時は、必ず長がいるんだ」
「必ず?」
「そう。必ず。知ってる? ある研究によれば、2人だけで話してる時だって、どちらか一方が主導権を握ってるんだ。心当たりはない?」
「言われてみれば……」
「○○がリーダー」と明文化されていなくても、その場を支配する人間はいるのかもしれない。
しかし、黒幕か。
「それで、どうするんだよ?」
「んー、何もしない、かな……」
「しないのかよ」
余計なことに首を突っ込まないのなら、俺としては安心できる。
「ボクの【計画】を邪魔しない限りは、ね」
しかし、ツヅリはそんな物騒な一言を付け足した。
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総資産:1,911,110(日本円)




