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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
27/204

あ。俺、人間を殺したのか......。――EP.8

[Did I kill a human......?――EP.8]


「だからお前は雑魚なんだよ」


 俺が言い放つ。


「死ね」


 PKerが大剣を振り下ろす。

 しかし、一歩右に踏み出せば、その一撃は空を切る。

 続けざまに横薙ぎの一撃。

 それもかがんでかわす。

 頭上を通過する肉厚の刃。

 髪の毛が数本、持っていかれた。

 しかし、その程度。

 次々と繰り出される斬撃を、俺は躱し続ける。


「……何をした?」


 PKerが問う。


「聞けば教えてもらえると思ってんのか?」


 舌打ちが返ってきた。

 力強い踏み込み、からの強烈な上段。

 さらに速い。

 しかし、それも届かない。


 実際、答えることは無い。

 何故なら、俺は何もしていない(・・・・・・・)


「だからお前は雑魚なんだよ」


 と、彼に言い放った通り。

 敵が弱い。

 そして、冷静になった俺がそのことに気が付いた。

 それだけ。


 高いSTR(筋力)とAGI(速さ)、触れた相手を風化させる関数は厄介だ。

 ただ、このPKer、どうも動きが素人臭い。


 例えば、この振り下ろし。


 まず、踏み込みながら大剣を振り上げる

 そして、振り下ろす。


 1、2のテンポで一撃を繰り出すのだ。

 この「1、」のタイミングで動けば、避けることは簡単。


 しかし、当の本人は無自覚らしい。

 一生懸命、当たらない攻撃を繰り返す。


 俺たちはただのゲーマだ。

 素人に武器を持たせたら、こんなお粗末な動きになるだろう。


 確かに、彼は強い。

 それはあくまでゲームのシステム上での強さ。

 彼自身は弱い。

 ただ、強力な関数と優れた能力値のせいで、本人がそのことに気付かない。

 自覚さえすれば打つ手も在るだろうに。


「てめっ、くそっ――!」


 やみくもに剣を振り回すだけ。


 だた、突進だけは厄介だ。

 こればかりは、技量の有無に関係なく、危険だ。


 しかし、冷静になってみれば対処は簡単。

 壁を背にして戦えばよい。

 壁に衝突するから、下手に突っ込むこともできない。


 立ち回りの基本は冷静に敵を観察すること。

 1層の戦闘で学んだことは対人戦でも変わらない。


「てめぇ!」


 しかし、苛立いらだったPKerは強引に突進を繰り出す。

 横に跳んでかわす。

 案の定、壁にめり込んだPKer。

 反撃の好機チャンス――


「上っ!」


 ツヅリの声に踏みとどまる。

 今の衝突で天井が崩れたらしい。

 頭上から降る瓦礫を寸前で避ける。


(地力が違うな……)


 確かに、注意深く見れば避けることはできる。

 しかし、事故が起こる可能性もゼロではない。

 こちとら十万円以下の木っ端プレイヤ。

 今の落石でも一発で死にかねない。

 長引けばこちらが不利。


「エン! そろそろ限界超えないとー!」


(お気楽に言ってくれるな!)


 刃をかいくぐりながら、言い返す余裕もない。


「ヒントあげようかー?」


 そんなことを言ってくる。


「良いから早く寄越せ!」

「……ん? 聞き間違いかな?」

「お願いします! ヒントをください! 神様、仏様、ツヅリ様!」

「えー、どうしようかなー」


 あのアマからるか。

 そう思ったとき、ツヅリが口を開いた。


「キミが相手を見るように、相手もキミを見るんだよ」


 あ。


 そういう。


 すぐに理解した。


 俺がPKerを見て行動を変えるように、

 PKerも俺を見て行動を変える。


 だから、俺の行動によってPKerを動かすことができる。

 俺の思うままに。


 それを理解してしまえば、後は瞬時に組み上がる計画プラン


 閃いた。


 瞬間、迫りくる横薙ぎの一撃。


(……ここだ!)


 躱す、が、俺は体勢を崩す。

 そのまま後ろに倒れる。

 もちろん、故意わざとだ。

 しかし、そうとは知らないPKer。

 とどめを刺すべく俺に迫る。

 

 そう。


 そう動くと思っていた。


 俺が体勢を崩せば、男は間違いなくとどめを刺そうとする。

 つまり、この一瞬だけは、相手の未来が分かっていたのだ。


 わずか、一瞬。

 しかし、一瞬が勝負を決める。


 地面に付いた腕を砂礫に突き込む。


「宣言:関数 早業 騎士の護剣」


 地面の下、握った短剣が幅広の長剣に姿を変える。

 当然、PKerには見えない。

 単純に不発と思ったのか、


「死ね!」


 と気炎を上げる。

 ここぞ、とばかり。

 剣を振り上げ一段と強く踏み込む。

 つまり、今しがた出現した長剣の腹を。


「宣言:関数 早業 空《Null》」


 関数を発動。

 長剣が消える。

 PKerの足の裏を支える剣が消えたのだ。


「うおっ!?」


 同時にPKerはその場で盛大に転ぶ。

 その一撃は何もない地面に突き刺さる。


 簡単な話だ。


 強烈な一撃を繰り出すべく、全体重は踏み込んだ右足に乗っていた。

 しかし、その足を支える剣が一瞬で消えたのだ。

 まともに立つことなどできない。


 顔面から地面に突っ込んだPKer。

 慌てて立ち上がった時には、俺は準備を終えていた。


 頭上高く掲げた短剣を、振り下ろす。


「宣言:関数 早業 大戦槌」


 振り下ろした瞬間、短剣が巨大な槌に変化。


 確かに、彼に触れた傍から武器は風化してしまった。

 しかし、風化の速度は有限だ。

 ならば、全てがちりと変わる前に、大質量で押し潰せば良い。


「っせい!」


 気合一発。

 振り落とす。

 仮説は正解だった。


 戦槌は三分の一ほど砂に変わった。

 しかし、それでも十分な質量を残したままPKerを潰す。


 とは言え、相手は100万級のプレイヤ。

 致命傷ではない。

 しかし、彼は動けない。

 ここは【計画ザ・プロジェクツ】。

 仮想では在るがどこまでも精彩な世界。

 この世界ではきちんと痛い(・・・・・・)


 全身がプレスされる。

 恐らく、人生で感じたことのない痛みだろう。

 神経を流れる「痛み」という情報の奔流ほんりゅう

 それがPKerの脳を焼き尽くす。


 PKは儲からない。

 ならば目的は金ではない。

 純粋にこの行為(殺人)を楽しむためだ。

 痛みにのたうち回る、誰かを見下ろすという行為を。


「お前がクズで良かった」


 罪悪感が少なくて済むから。


 さあ。


 何回で死ぬだろうか。


宣言:制御デクラレーション・コントロール 繰返し(ループ)――――」






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:1,911,110(日本円)


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