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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
23/204

あ。俺、人間を殺したのか......。――EP.4

[Did I kill a human......?――EP.4]


 ここは雑果亭ざっかてい


 ニュー・ニシオギクボの目抜き通りに店を構える酒場だ。

 いつの間にかプレイヤたちが集まり、交流所になっていた。


 彼女の視線は、2階席の手摺てすりに向いていた。

 そこには巨大な横断幕が掲げられていた。


「PKer討伐決行。参加者募集」


 ツヅリは地下ビールとやらを飲み干す。


「ツヅリ。あの横断幕は?」

「さあ? とりあえず聞き込みだね」


 そう言って近場の店員を呼び止める。


「エンは何か頼む? ごちそうするけど?」


 厚切り肉が、


「じゅーじゅー」


 と音を立てて焼ける音。

 立ち込める湯気は肉汁と脂の香り。

 それを琥珀色の液体(酒か?)で、喉を鳴らしながら流し込む冒険者たち。 

 美味そうだから困る。


「……いや。遠慮しとく」

「家で妹さんが待ってるから?」

「ああ」


 俺だけ楽しむのは悪い。

 ここがゲームの中とは言え。


「シスコン。ハチミツ酒とキモ焼き。1人前で」


 間もなく、卓に乗せられた酒と肉が運ばれてくる。

 ツヅリは受け取るとしばらく店内を歩き回っていた。

 隅の方、1人で飲んでいる男を見つけると、勝手にその卓(と言っても古いだる)に酒と肉を置く。

 卓上の酒を抱え込むようにして飲んでいた男が顔を上げる。

 ツヅリをにらむ。


「あ、おい。ツヅリ」


 何か良からぬことが起こるのでは。

 1歩後ろで眺めていた俺は、間に入ろうとする。

 しかし、


「一杯、おごる」


 ツヅリの言葉で緊張が解ける。


「マラッカ()。十八()


 男は店員を呼び止め、聞いたことの無い名前の酒を口にした。

 そもそも酒の名前なんて知らないけれど。


「あ。高いヤツじゃん!」


 ツヅリの反応を見るに上等な酒らしい。


「奢るって言ったのはアンタだろ――」


 そのまま男は


「お」


 という口の形で固まる。

 見惚みとれたのだ。

 フードの奥に覗くツヅリの造形に。

 同じ男として気持ちは分かるけれど。

 

「良いことばかりじゃないよね。変に人目を引くから。こういうゲームだどね」


 ツヅリが茶化す。


 【計画ザ・プロジェクツ】においては、現実の身体の構造が反映される。

 勿論、身バレを防ぐために、多少は顔の造形をいじる。

 しかし、変更できない部分が有った。

 例えば性別。

 それから骨格だ。

 顔の各パーツの位置や彫の深さなど、どうしても代えられない要素は存在する。

 左右対称の均整のとれた顔を、人は美しいと感じるらしい。


 だから、少しばかり口や目の形をいじっても美人は美人のまま。

 美人は骨格から美人。

 【計画】はそんなことを証明してしまった。


 一方、目の前のプレイヤは大柄な鎧を身に着けていた。

 しかし、着られている感が否めない。

 元々の身体が小さいのだろう。


 男は一瞬、やっかみの混じった視線を俺に向ける。

 目ざとく視線の意味を拾うツヅリ。


「あ、彼はボクのヒモね。しかもシスコン」

「ヒモなのに妹が好き……。アンタもなかなか業が深いな……」


 あ、知ってる。

 これ、同情の眼差し。


「ま、そんなことより――」


 俺の矜持プライドを踏みにじりながら、


「そんなこと」


 で済ませてしまうツヅリ。


「アンタらが知りたいのはアレだろ?」


 くいっ、と男は顎を動かして横断幕を指す。

 PKer討伐の横断幕。


「そうそう。アレ、なに?」

「言葉通りだよ。最近、PKerの集団がこの辺りに出没してる」


 男が答える。


「PKerの集団・・?」

「言いたいことは分かる」


 そうなのだ。


 PKは儲からない。


 PKerプレイヤ・キラは許さない、という共通認識が有るからだ。

 一線級のプレイヤに寄ってたかって殺されるのがオチだ。

 だから、PKが集団で現れることは無かった。

 時折、愉快犯的なPKが湧く程度。


「集団って何人ぐらい?」

「聞いた話だと30人前後らしいな」

「30人。多いね……」


 ツヅリが俺を見る。


(どうだろうな?)


 と、首を傾げて伝える。

 こういう噂には尾ひれが付き物だ。

 ツヅリも小さく頷いた。

 同じ意見らしい。


「強いの?」

数百万級ミリオン・クラスらしいな」

「普通だねぇ」


 一線級のプレイヤではあるが、ゲーテの大迷宮では珍しくない。

 無双できるような強さではないはず。


「情報の出所は?」

「戦った連中の話だな」

「じゃあ、もう襲われた人がいるんだ」

「ああ。被害者も出てる。100、200万クラスがちらほら。300万クラスもいたかな。全員、大人数に囲まれたらしい」

「チームを組んだPKerかぁ。あんまり聞いたことが無いね」

「そうだな。それで、あの横断幕だよ」

「なるほど」


 PKerが徒党を組むのなら、こちらも束になってかかるという訳か。


「お兄さんも参加するの?」

「参加はする。後詰めだけどな。打ち漏らしが無いように後方待機する」

「大手ギルドがどう動くか知ってたりしないよね?」

「その辺は言えないことになってる」


 PKerに情報が漏れないためか。


「だよね。変なこと訊いてごめん……」


 項垂うなだれるツヅリ。


「おい。騙されるな」


 と心の中で呟く。

 彼女のしおらしい表情。

 演技に決まっている。

 しかし、知り合って数分の彼には知る由もない。

 彼は周囲に視線を巡らせてから、小声で囁く。


「そうだな。マラッカソも奢ってもらったからな」


 マラッカ()

 パチモノ臭いが、そんなに良い酒なのか。


「大手ギルドは動かない(・・・・)


 喧噪けんそうに溶けてしまいそうなほどの小声。


「何で?」


 ツヅリが顔を寄せてささやく。

 男の顔が紅くなる。


「……敵が弱い(・・)から」

「あー、なるほど。ありがと」


 こほん、と小さく咳払い。

 ツヅリは声の大きさを元に戻す。


「今までのPKerは1000万とか、2000万級だったからね。今回みたいな、数百万級が何人もってケースは珍しいんだよね」

「ん? ああ。そうだな」


 今の説明口調は俺に向けたモノ。

 辺境でゴミ漁りをしていた俺は、このあたりの事情に疎い。

 コイツ、よく気が付くよな。


「10億ドル稼ぐ」


 とか言わなければ、なんて思う。


「誰でも参加できるの?」


 再び周囲に視線を巡らせる男。

 小声で答えた。


「できない」

「そうなの?」

「使えないやつが混じっても邪魔だからな。こっちまで危険になる」

「だよね。ちなみに条件とかは?」

「1000万級以上。それか対PKer経験が在る一線級のプレイヤ」

「なかなか厳しいね……」

「参加したいのか?」

「うん」

「条件を満たしてなくても、回復系統の原典なら参加できると思うけどね」

「あ、それなら」


 にやにやとツヅリが笑う。


「アンタ、もしかして?」

「そうだよ。ボク、回復系の原典が使える」


 そう言ってナイフを取るツヅリ。

 刃を手首に当てて滑らせる。


「え!?」


 陶器のように白い肌。

 赤い傷跡の対照的な鮮やかさ。


宣言:関数デクラレーション・ファンクション  癒しの祈り(ヒーリング・プレイヤ)


 指先で傷跡をなぞる。

 なぞったそばから傷が消えて無くなる。

 跡形もない。

 まるで壁の汚れをワイパーで拭ったみたいに。


「ほらね?」


 そもそもツヅリはあらゆる関数を使いこなせる(彼女が言うには)。

 だから回復役ヒーラーにもなれるのだ。


「ちょ、ちょっと待っててくれ」


 男は慌ただしく席を立ってしまった。

 数分後、上役と思わしきプレイヤを連れて戻ってきた。


「PKer討伐は明日の21:00にこの酒場集合だ」






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:91,001(日本円)








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