表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
22/204

あ。俺、人間を殺したのか......。――EP.3

[Did I kill a human......?――EP.3]


「ツヅリぃ!? てめえ、なにしてんだよおおおおおおおおおおおおっ!」


 吐き出した悲鳴が上方へ流れる。

 いや。

 俺が落ちているのだ。

 ツヅリがこの先に在ると言う人混み(・・・)に目掛けて。


 あ。


 やばい。


 そう。


 この世界はリアル。


 だから、死ぬ。

 

 高所から落下すれば、当然のように。


宣言っ!(デクラレーション)


 脳裏を死がよぎった瞬間。

 身体が動いた。


:関数(ファンクション)  早業クイック・チェンジ


 この手に出現する幅広の長剣。

 膝を一杯に折り畳み、足裏を刃に乗せる。

 即席の足場。

 蹴り飛ばす。

 若干、緩まる落下の速度。

 しかし、迫る地面はすぐそこに。

 

「宣言:関数 早業ッ!」


 繰り返す。

 追加で呼び出した剣を足場に。

 蹴り飛ばして落下の勢いを殺した、と思った時には足の裏が地面に着いた。

 刹那せつな、身体を真横に倒す。

 勢いにもてあそばれ、ぐるん、ぐるん、と地面を転がる。

 壁面に衝突してようやく止まった。


「ひゅぅー」


 聞こえたのはからかうような口笛。


「流石。エンじゃなかったら死んでたよ」

「ざけんな。俺だってギリギリだよ……」

「うん。約束をすっぽかしたのは、これで許してあげるよ」

「……悪かったよ」

「シスコンもほどほどにね」

「だからシスコンじゃない」

「良いけどさ。それより、これで連中《PKer》は撒けたかな?」


 ツヅリが差し出す手。

 その柔い手のひらを握りながら起き上がる。


「多分な……」

「さあ、人混みに紛れようか」

「人混みって言ってもこの洞窟だろ?」


 しかし、その時、確かに聞こえた。

 風や水の音ではない。

 不規則で、無秩序な音の重なり。

 喧噪。

 人混みの創り出す音。


「こんな地下でどうして?」


 油の燃える匂い。

 目線を上げれば、洞窟の奥からぼんやりと光が見えた。


「ゲーテの大迷宮の前哨基地。ニュー・ニシオギクボはすぐそこだよ」





 街と呼んでも差し支えない。

 そんな空間が地下の巨大な空洞に広がっていた。


 そこかしこに吊るされた無骨な鉄製の角灯ランタン

 投げかける光は柔らかい。

 揺らめく炎の灯り。

 油臭さの原因はこれか。

 そんな光に照らされて、露店から2階建ての商店まで。

 大小無数の店が軒を連ねる目抜き通り。

 

 人だかりのできた一角は酒場だろうか。

 道端の小さな卓で、肩を寄せ合うように酒を飲むプレイヤの集団。

 小声で何の算段を付けているのか。


 干からびた草のような物体を商う露店。

 天秤で金貨を測る両替商。

 巨大な肉塊を炭火で炙る屋台。


「これは、ちょっと、悪くねぇな……」


 冒険者の街。

 そんな言葉がしっくりくる。


 もちろん、遊びじゃない。

 【計画ザ・プロジェクツ】には生活が懸かっている。

 しかし、全ての感情を殺しているわけでもない。

 やはり、ときめくモノは仕方ない。


「キミもなかなか浪漫ろまんが分かってるじゃないか……」


 ツヅリが言った。

 浪漫、という単語の選択チョイスが少しだけ嬉しい。


「まあな。お前もなかなか、って、おい。それなんだよ?」


 ツヅリの片手には、彼女の顔よりも大きなジョッキ。

 くいっ、と中身をあおれば白い泡のひげが生える。


「ぷはーっ」


 息を吐きながら口元を拭う。


「地下ビールだけど?」


 彼女が答えた。

 息に混じるアルコールの香り。


「それって本当に(・・・)酔えるやつじゃねえの?」

「あたり前じゃん。お酒なんだから」


 しれっと言ってのけるツヅリ。


 余談だが、【計画ザ・プロジェクツ】の酒は本当に酔うことができた。

 酔っぱらいの脳波に似た電気信号を、BMIを介してプレイヤの脳に送り込む。

 結果、プレイヤは


「はぁ~。染みるっ!」


 と言った具合に「酔える」のである。

 今のツヅリのように。


「もしかしなくても電子ドラックじゃねえの?」


 当然、違法。

 しかし、存在自体が違法の【計画】ではあたり前のように流通している。


「電子ドラックかぁ。そういう言い方もできるよねー」

「普通はそう呼ぶんだよね」

「エンも飲む?」


 ぐい、と突き出されたジョッキ。


「……遠慮しとくよ」

「あ! ひょっとして照れてる? 美少女との間接キスだから?」

「違う」


 だってそれ違法ドラックじゃん。

 照れるとか、そういう話ではない。


「冒険者の街だよ? お酒の一気飲みくらいはして、気分を上げてかないとさぁ。楽しまないと?」

「浪漫に理解が有りすぎんだろ……」

「まぁねー」


 さらり、と髪を掻き揚げる真似をする。

 腹立たしい、その仕草。

 そして、そのままスタスタと酒場へと向かう。


「待て待て待て」

「ん?」


 不思議そうな顔をするツヅリ。

 その表情が不思議。


「酒場でダラダラするつもりなら俺は帰るぞ? こっちは稼がないとまずいんだ」

「PKerがうろついてるのに?」

「う……」


 言葉に詰まる。


「正直、8人もPKerがうろついてるのは不自然だよね」

「PKerじゃない可能性は?」

「じゃあ、ストーカーだ。足音を殺してこっちを遠巻きに監視してるんだからね」

「どっちも嫌すぎんだろ」


 殺人者か、変態か。


「そう。だから情報収集」


 かろん、ころん。

 ドアベルを鳴らしてツヅリは店内に踏み込む。


「情報収集なら……」


 仕方なく後を追う。


 扉を潜ると人混みができていた。

 その端にツヅリを見つける。


「あれ、見て」


 ツヅリが言った。

 彼女の視線は、2階席の手摺てすりに向いていた。

 そこには巨大な横断幕が掲げられている。


「PKer討伐決行。参加者募集」





—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:91,001(日本円)






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ