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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
21/204

あ。俺、人間を殺したのか......。――EP.2

[Did I kill a human......?――EP.2]

「尾行されてる」

「え?」

「敵。動的対象《MOB》じゃない。……たぶん、プレイヤ」


 ツヅリがそんなことを言った。


「いつから?」 

一昨日おとといから」

「何人?」

「8人」

「ヤバイだろ」

「ヤバいよ。人間・・はヤバい」


 限りなく精緻とは言え、本能プログラムにしたがって行動する動的対象。


 一方、人間は考える。

 臨機応変に最適な行動を探す。


 さらに学習までする。

 一度の戦闘中においてすら、彼らの行動は洗練されていく。


 2064年現在、完全・・な人工知能は未だに再現されていない。

 結局のところ人間が一番怖いのだ。

 

「目的は何だと思う?」


 俺が問う。


「仲良くしようって感じではないよね。足音とか殺してるし」


 ばれてるけど、とツヅリは笑う。


「何で分かるんだよ?」

「ボクだから」

「さいですか……」


 とにかく、追跡者は危険だという認識で一致する。


「目的は金、じゃないだろうな……」

「金じゃないでしょ。儲からないし」


 プレイヤは数十万~数億円の資金を持っている。

 確かに、倒せばその金額を自分のモノにできる。

 しかし、PKプレイヤ・キリングによって、成り上がったプレイヤは聞いたことがない。


 理由は3つ。


 1つめは「PKerプレイヤ・キラは許さない」という共通認識。

 そこそこ儲けたPKerは、一線級のプレイヤに寄ってたかって袋叩きにされる。

 強力なMOBより、中途半端な強さのPKerはむしろ良いカモだ。


 2つ目は、ギルド:円卓騎士の存在。

 【計画ザ・プロジェクツ】日本サーバにおける最大規模のプレイヤの集団だ。

 トッププレイヤも多く参加している。

 ここがロールプレイとして「正義の味方」を営んでいる。

 自ら進んでPKerを殺しつつ、懸賞金まで出してたりする。


 そして何よりも、3つ目。

 プレイヤは普通に強いのだ。

 人間の脳以上に精巧な知能は今のところ存在しない。

 つまり、動的対象《MOB》よりも強力なのだ。

 返り討ちに遭う可能性も高い。


 結論、PKは儲からない。

 他のプレイヤを殺して僅かばかりの金銭を得たとして、カモられて失うのがオチ。


「だけど、なんで殺すんだろうね?」


 ツヅリが呟く。


「人が山に登るのは、そこに山が有るかららしいな」


 つまり、殺人という行為を純粋に楽しむため。


 この世界は、現実と区別がつかないほどに精彩。

 あらゆる行為は現実と同じ感覚。

 当然、あらゆる行為には殺人・・も含まれる。

 しかし、法律では裁かれない。

 所詮はゲームだから。


 罰せられることなく、リアルな殺人を経験ができる。

 PKerはその経験を愉しむのだ。


「人を殺すのは、そこに人がいるから。ヤバいやつじゃん!」

「まともなわけねえだろ……」


 ゲームの中とはいえ、殺人を愉しもうとする人間が。


「そいつらの性癖とかはどうでも良い。問題はこれからどうするかだ」


 そろそろツヅリから逃げようかと考えていた矢先だ。

 しかし、PKerに追われている現状。

 彼女から離れることは賢明でない。


「簡単だよね。倒すか、逃げるか」

「俺は断固、逃げるを推すからな」

「うん。ボクも賛成」

「え?」


 意外にもツヅリも「逃げる」を選ぶ。


「どうしたの?」

「いや、別に……」


 なんと言うか、ツヅリはもっとトリガーハッピィな人間だと思っていた。


「敵? 燃やそうか!」


 みたいな。


「ボクにも【計画】があるからさぁ。あんまり目立ちたくないんだよね」

「あ、そういう……」


 そうだった。

 そういえばこの少女。

 そこらのPKerよりも性質たちが悪いんだった。

 なんでも10億ドル(1800億円。※2064年現在のレートで)稼ぐつもりらしい。


「逃げるにしても、どう逃げようか?」


 ツヅリは困ったように言う。

 しかし、本気ではない。

 その気になれば相手を消せるから。


「そもそも、PKerはどうしてボクたち殺しに来ないんだろうね。ボクたちが強そうだから警戒してるのかな?」

「いや。それは無いだろ。強くて警戒するくらいなら、最初から殺そうとしない」

「それもそうかぁ」

「2人しかいないパーティだからな。その辺りも理由だろう」

「うわぁ……」


 ツヅリは明らかに嫌悪感を見せる。

 気持ちは分かる。

 少数を囲んで、嬲り殺しにしようとしているのだ。

 そして、それを愉しもうとしている。


「世の中にはヤバイ連中もいるってことだな」

「それもそうなんだけどね。ボク、殺人者の気持ちが簡単に分かるエンにも若干引いてるよ!」

「おい」


 なんて失礼な。


「共感じゃねえよ。相手の立場に立つってのは推察だ。理詰めで十分なんだよ」

「そうだった。変態は変態でも、キミはシスコンの方だった」

「変態じゃねえし、シスコンでもねえよ」

「まあ、どうでも良いけど」

「どうでも良くはないぞ。はっきりさせろ。俺は変態でもシスコンでもない」

「そうだね。で、アブノーマル・エン」

「おい!」


 なんという二つ名。


「……でも、それなら話が早いや。人混みに逃げよう」

「人混みってこんな迷宮の中だろ? どこに在るんだよ?」

「在るよ。下に」


 彼女が指さす。

 しかし、そこにあるのは地面だけ。


「は?」

宣言:関数デクラレーション・ファンクション――」


 おもむろに関数を宣言するツヅリ。


「あ、おい! 待て! 何するつもりだ!?」

「――地割れグラウンド・フィッシャ


 轟音。

 同時に地面が割れる。


 ぽっかりと空いた巨大な亀裂クレバス

 1秒前まで足の裏で踏みしめていた地面が、そこに無い。


「あれ?」


 1歩、踏み出す。

 やはり、地面は無い。


「え? なんで? どうして!?」


 他人から見たら相当な間抜けだろう。

 何もない空中で歩こうとしているのだから。

 しかし、そんな浮遊感も束の間。

 重力は何人たりとも逃さない。


「ツヅリぃ!? てめえ、なにしてんだよおおおおおおおおおおおおっ!」


 吐き出した悲鳴が上方へ流れる。

 いや。

 俺が落ちているのだ。

 ツヅリがこの先に在ると言う人混み(・・・)に目掛けて。






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:91,171(日本円)


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