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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
202/204

手伝ってくれるよね?――EP.5

[You have no Choice.]――EP.5



「これでPKer、だいたい退治したかなあ……」


 よっちゃんはつぶやく。

 その表情は暗い。

 結局、PKerたちを取りまとめる黒幕の情報は手に入らなかったからだ。


「連中、徹底しているやんなぁ……、その黒幕さん、よっぽど怖いんやろうかねぇ?」

「黒幕を守るため、というよりかは自分自身のためだろうな」

「どゆことやろ……?」

「だってあのPKerたち、普通の人間だろ?」


 だから、隣の席のクラスメイトが、教壇きょうだんの教師が、コンビニの店員が、或いは家族の誰かが、PKerかもしれないのだ。

 もちろん、PK行為は違法では無い。

 しかし、金を積んでまでそんな行為にふけっていた。

 それが公になってしまえば、社会的信用を失うことになる。

 地位のある人間なら特に。


 結局、よっちゃんとはここで別れることになった。

 去り際、ふと彼女は言った。


「エン君も、もうPKなんてしたらアカンよ? そしたら、ウチ、またエン君を倒さなくてはいけんからなぁ」

「悪いけど、それは約束できないな」

「な、なんやて!?」

「少なくとも、1人は倒さないといけないヤツがいるから」

「だ、誰なん!?」

「俺をPKしたヤツだよ」


 しかし、よっちゃんは笑いだした。


「あー、それなら別に気にええよ」

「え?」

「だって、勝てるわけないやろからなぁ……。龍ちゃんには」

「勝てる勝てない、じゃないんだよ……」

「どういうことなん……?」

「勝たないといけないんだよ」


 あいつに奪われた2000万円。

 きちんと返してもらわなければ。

 しかし、よっちゃんは静かに笑うだけだった。

 俺がドラゴンに敵うとは微塵みじんも思っていないようだった。

 その証拠にこんなことを言い始める。


「あ、せや。PKer退治、手伝ってもろたお礼をしてへん」

「良いのか?」

「もちろんやぁ。だって、1人も退治できてへんやろ?」

「ああ」


 そうなのだ。

 大抵のPKerはよっちゃんが関数で倒してしまった。

 生き残ったPKerも自分からゲームオーバしてしまった。

 おとりと言う危険な役目を買って出たのに、実入みいりが無かった。


「これ、取っておき……」


 よっちゃんがインベントリからアイテム類を具現化する。

 透明な小瓶がいくつか。

 中身は薄緑色の液体。


「うわぁ……。これ綺麗!!」


 シイカが中身を覗き込みながら言った。


「これ、良いのか……?」


 上位の回復薬だ。

 おそらく、瀕死ひんしの重傷ですらたちどころに回復させてしまう神薬しんやくたぐい

 使っても良いが、売ればかなりの金額になるだろう。


「かまへん。ウチは幾つも持っとるからなぁ」


 流石はトップランカだ。


「次に会う時も、敵同士じゃないとええなぁ」


 よっちゃんは言った。


「悪いけど敵同士だな。ドラゴンを(PK)してるから」

「あはは。それは無理やって」


 そうして、俺たちは別れを済ませた。

 その時だった。

 この深い霧の中、1匹のフクロウが舞い降りた。

 漆黒の翼をはためかせ、よっちゃんの頭上に舞い降りる。

 梟の足首には、紙切れが括り付けられていた。

 よっちゃんが取り外す。

 どうやら手紙らしい。 

 中身を確認するなり、彼女の顔色が変わる。


「あ、やっぱり駄目! 2人とも、行ったらダメやん……!!」

「「え?」」

「何も言わんとウチと一緒に来てくれへん……?」


 シイカが伺うように俺を見た。

 しかし、俺にもどういうことか分からない。


「一緒に来いって、どこまで?」

水都すいとファレン」

「聞いたことがある」

「せや。ギルド:円卓騎士のお膝元や……。副団長がエン君に会いたがっとる」

「何の用だよ?」

「ウチが聞きたいくらいや!」

「……ちなみに、断ったら?」


 よっちゃんが背負った槍に手をかける。


「緊急につき手段は問わず。手紙には書いてあるんや」

「ずいぶんだな……」

「できればこの槍、抜きとうないなぁ……」


 よっちゃんは言う。

 向こうは最強プレイヤの一角。

 一方、こちらはリスタートしたばかり。

 能力値も、装備も、弱いまま。

 よっちゃんに勝てる可能性どころか、逃げられる可能性も低い。

 他に選択肢は無かった。


「……分かった。行くよ」


 はぁ、とよっちゃんは安堵の溜め息を吐く。

 槍から手を離した。


「良かった。正直、君とはあんまり戦いとう無かった……」

「あんたが勝つだろ」

「でも、エン君、死ぬ気で向かってくるからなぁ。怖いんよ……」


 生活かかってるんだよ。



 ◆


 森から出ると、すでに迎えが来ていた。

 真っ黒い馬車だ。

 角灯ランタンを吊った西洋風の装飾。

 しかし、【計画】の世界にも不思議と馴染んでいる。

 プレイヤメイドだろうか。

 ただ、その馬車を引くのは馬ではなく、真っ黒いトカゲのような動的対象《MOB》だった。

 まるですみでできたような身体だった。


「お、火蜥蜴サラマンダァやん」

「こいつが……」


 馬車を引いてるけど。


「よっちゃんさん。お待たせしました」


 目つきの鋭い女性プレイヤだった。

 わざわざ御者台から降りて、よっちゃんに頭を下げる。

 それから、俺を一瞥いちべつした。


「エン君。ほな、行こかぁ……」


 よっちゃんが馬車に乗り込む。

 彼女の後に続く。


「私、馬車って初めて乗るなー」


 そして、当然のようにシイカも乗り込んだ。

 

「お前さん、来るの?」

「酷い!」

「うわぁ……。エン君、今の言い方はないんやない……?」

「そうだよ! よっちゃんさん、もっと言ってやってよ!」

「せやせや! 歌姫(笑)に対してあんまりな態度やないん?」


 今、歌姫の後に何か付いてた気がする。


「そうじゃなくて、今から行くのは円卓騎士のホームだぞ」

「うん」

「円卓騎士と言えば、PKer狩りで有名だ」

「知ってるよ」

「で、俺はPKer。たぶん、【計画】が始まってから1番殺してる。ツヅリと一緒にな」

「あ、ヤバいじゃん!」

「ヤバいんだって……」

「なおさら私が行かないと!」

「え?」

「大丈夫。一緒に行こう。私が助けてあげる!」


 胸を張るシイカ。

 すでに馬車は走り出していた。

 果たして大丈夫なのか……?






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-69,391,211(日本円)

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