手伝ってくれるよね?――EP.5
[You have no Choice.]――EP.5
「これでPKer、だいたい退治したかなあ……」
よっちゃんはつぶやく。
その表情は暗い。
結局、PKerたちを取りまとめる黒幕の情報は手に入らなかったからだ。
「連中、徹底しているやんなぁ……、その黒幕さん、よっぽど怖いんやろうかねぇ?」
「黒幕を守るため、というよりかは自分自身のためだろうな」
「どゆことやろ……?」
「だってあのPKerたち、普通の人間だろ?」
だから、隣の席のクラスメイトが、教壇の教師が、コンビニの店員が、或いは家族の誰かが、PKerかもしれないのだ。
もちろん、PK行為は違法では無い。
しかし、金を積んでまでそんな行為に耽っていた。
それが公になってしまえば、社会的信用を失うことになる。
地位のある人間なら特に。
結局、よっちゃんとはここで別れることになった。
去り際、ふと彼女は言った。
「エン君も、もうPKなんてしたらアカンよ? そしたら、ウチ、またエン君を倒さなくてはいけんからなぁ」
「悪いけど、それは約束できないな」
「な、なんやて!?」
「少なくとも、1人は倒さないといけないヤツがいるから」
「だ、誰なん!?」
「俺をPKしたヤツだよ」
しかし、よっちゃんは笑いだした。
「あー、それなら別に気にええよ」
「え?」
「だって、勝てるわけないやろからなぁ……。龍ちゃんには」
「勝てる勝てない、じゃないんだよ……」
「どういうことなん……?」
「勝たないといけないんだよ」
あいつに奪われた2000万円。
きちんと返してもらわなければ。
しかし、よっちゃんは静かに笑うだけだった。
俺がドラゴンに敵うとは微塵も思っていないようだった。
その証拠にこんなことを言い始める。
「あ、せや。PKer退治、手伝ってもろたお礼をしてへん」
「良いのか?」
「もちろんやぁ。だって、1人も退治できてへんやろ?」
「ああ」
そうなのだ。
大抵のPKerはよっちゃんが関数で倒してしまった。
生き残ったPKerも自分からゲームオーバしてしまった。
囮と言う危険な役目を買って出たのに、実入りが無かった。
「これ、取っておき……」
よっちゃんがインベントリからアイテム類を具現化する。
透明な小瓶がいくつか。
中身は薄緑色の液体。
「うわぁ……。これ綺麗!!」
シイカが中身を覗き込みながら言った。
「これ、良いのか……?」
上位の回復薬だ。
おそらく、瀕死の重傷ですらたちどころに回復させてしまう神薬の類。
使っても良いが、売ればかなりの金額になるだろう。
「かまへん。ウチは幾つも持っとるからなぁ」
流石はトップランカだ。
「次に会う時も、敵同士じゃないとええなぁ」
よっちゃんは言った。
「悪いけど敵同士だな。ドラゴンを殺してるから」
「あはは。それは無理やって」
そうして、俺たちは別れを済ませた。
その時だった。
この深い霧の中、1匹の梟が舞い降りた。
漆黒の翼をはためかせ、よっちゃんの頭上に舞い降りる。
梟の足首には、紙切れが括り付けられていた。
よっちゃんが取り外す。
どうやら手紙らしい。
中身を確認するなり、彼女の顔色が変わる。
「あ、やっぱり駄目! 2人とも、行ったらダメやん……!!」
「「え?」」
「何も言わんとウチと一緒に来てくれへん……?」
シイカが伺うように俺を見た。
しかし、俺にもどういうことか分からない。
「一緒に来いって、どこまで?」
「水都ファレン」
「聞いたことがある」
「せや。ギルド:円卓騎士のお膝元や……。副団長がエン君に会いたがっとる」
「何の用だよ?」
「ウチが聞きたいくらいや!」
「……ちなみに、断ったら?」
よっちゃんが背負った槍に手をかける。
「緊急につき手段は問わず。手紙には書いてあるんや」
「ずいぶんだな……」
「できればこの槍、抜きとうないなぁ……」
よっちゃんは言う。
向こうは最強プレイヤの一角。
一方、こちらはリスタートしたばかり。
能力値も、装備も、弱いまま。
よっちゃんに勝てる可能性どころか、逃げられる可能性も低い。
他に選択肢は無かった。
「……分かった。行くよ」
はぁ、とよっちゃんは安堵の溜め息を吐く。
槍から手を離した。
「良かった。正直、君とはあんまり戦いとう無かった……」
「あんたが勝つだろ」
「でも、エン君、死ぬ気で向かってくるからなぁ。怖いんよ……」
生活かかってるんだよ。
◆
森から出ると、すでに迎えが来ていた。
真っ黒い馬車だ。
角灯を吊った西洋風の装飾。
しかし、【計画】の世界にも不思議と馴染んでいる。
プレイヤメイドだろうか。
ただ、その馬車を引くのは馬ではなく、真っ黒いトカゲのような動的対象《MOB》だった。
まるで炭でできたような身体だった。
「お、火蜥蜴やん」
「こいつが……」
馬車を引いてるけど。
「よっちゃんさん。お待たせしました」
目つきの鋭い女性プレイヤだった。
わざわざ御者台から降りて、よっちゃんに頭を下げる。
それから、俺を一瞥した。
「エン君。ほな、行こかぁ……」
よっちゃんが馬車に乗り込む。
彼女の後に続く。
「私、馬車って初めて乗るなー」
そして、当然のようにシイカも乗り込んだ。
「お前さん、来るの?」
「酷い!」
「うわぁ……。エン君、今の言い方はないんやない……?」
「そうだよ! よっちゃんさん、もっと言ってやってよ!」
「せやせや! 歌姫(笑)に対してあんまりな態度やないん?」
今、歌姫の後に何か付いてた気がする。
「そうじゃなくて、今から行くのは円卓騎士のホームだぞ」
「うん」
「円卓騎士と言えば、PKer狩りで有名だ」
「知ってるよ」
「で、俺はPKer。たぶん、【計画】が始まってから1番殺してる。ツヅリと一緒にな」
「あ、ヤバいじゃん!」
「ヤバいんだって……」
「なおさら私が行かないと!」
「え?」
「大丈夫。一緒に行こう。私が助けてあげる!」
胸を張るシイカ。
すでに馬車は走り出していた。
果たして大丈夫なのか……?
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総資産:-69,391,211(日本円)




