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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
歌姫の計画[The Project of Diva]
201/204

手伝ってくれるよね?――EP.4

[You have no Choice.]――EP.4

 伸びる切っ先。

 しかし、突き込むことはしなかった。

 すでに死んでいたから。

 正確には、俺を見た瞬間、自ら命を絶ったから。


「チッ――」


 思わず舌打ちが零れる。

 理由は明白。

 金が稼げなかったから。

 自死では、俺が倒したことにならない。

 つまり、金が手に入らないのだ。

 いつまでもこの死体を眺めていても仕方ない。

 とりあえず、クロスボウと毛皮の外套マントを引っぺがしていく。

 これでもいくらかの金にはなるはずだ。

 シイカ達が待つ大岩へと引き返す。 


「あ、エンくんおかえりー!」


 聴覚の鋭い彼女は気付いたらしい。

 その声の方向に歩くと、やがて濃い霧の中に2人の人影を見つける。


「それで、どうやったろか……?」

「駄目だったよ。また死なれた」


 よっちゃんが形の良い眉をひそめる。


「うーん……。捕まらんなぁ……」


 PKerたちは何らかの自死する為の手段を持っていた。

 そして、俺たちが彼らを捉えようとすると、決まってゲームオーバしてしまうのだ。

 結果、何も情報を聞き出せないでいた。


「まあ、身バレは絶対にしたくないよな」

「せやねぇ……」


 その時だ。


「エンくん。話が分からないんだけど……?」


 シイカが首を傾げながら言った。

 そんな仕草もあざとく見えないのは、彼女の容姿と無邪気さのためか。


「分からないままで良いんじゃないか?」

「エンくんの意地悪いじわる! シスコン!」

「え? シスコンなん!?」


 よっちゃんまで一緒になって俺をあおり始める。


「……別に、意地悪してるわけじゃないよ。分かったところで面白い話じゃないし、俺たちにはどうしようもないから」

「えー、でも知りたいー!」


 こうなってしまってはシイカはゆずらない。


「良いけど、たのしい話じゃないからな……?」


 俺は念を押す。

 シイカが頷いたので、話始める。


「あのPKerは人を殺すためだけに【計画】をしてるんだよ」

「うん……?」

「【計画】ってめちゃくちゃリアルだろ?」

「そうだね」


 世界の1/3の計算機《CPU》を乗っ取って生み出されたこの仮想世界。

 ちなみに、今もなお現在進行形で乗っ取りは進んでいる。

 つまり、【計画】のリソースは増え続けているのだ。

 実際、人間の脳はこの仮想世界と現実を区別することはできない。


「だから、この世界で体験することは本物と同じだ」

「うん」

「だけど、ここは仮想現実。現実では決してできないことが、できる」

「……それが、殺人《PK》ってこと?」

「そうだな」

「せやせや」


 よっちゃんは腕を組みながらうなずいた。


「つまりやな、【計画】っちゅうゲームを、めちゃくちゃリアルな殺人シミュレータとして使つこうてる連中がいるってことやなぁ……」

「うへぇ……」


 シイカが青い顔をしていた。

 本当に気分が悪いようだ。

 よっちゃんが彼女の背中をさする。


「仮想現実で人を殺して楽しんでるなんて、誰にも知られたくないだろ?」


 シイカがうなずいた。


「そうだね」

「PKerだって人生があるからな」


 彼らも結局は生身の人間だ。

 きっと現実では普通の生活を送っている。

 隣の席のクラスメイトが、教壇きょうだんの教師が、コンビニの店員が、或いは家族の誰かが、PKerかもしれないのだ。

 そんなこと、周囲の人間い絶対に隠しておきたいはず。


「もっと悪いこともあるぞ}

「え?」

「あいつら、プレイヤスキルは無いくせに装備と能力値だけが高すぎるだろ?」

「そういえば言ってたね。でも、それがどうして……?」

「普通に冒険して、装備や能力値を手に入れたなら、スキルは自然と身に着く」

「うん」

「じゃあ、逆に訊くけど、スキルは上げずに装備や能力値だけを上げようと思ったらどうする?」


 しばらく、考え込むシイカ。 

 そして、答えた。


「……誰かにやってもらうとか?」

「正解」


 つまり、PKerのために装備を用意して、能力値を上げる手助けをした人間がいる。


「そんな……、何のために?」


 シイカが分かり切ったことを問う。


「この子、ほんまに良い子やわぁ……」


 よっちゃんが言う。

 それはめ言葉なのか。


「金だろ」


 つまり、金銭と引き換えに、人殺しの経験を提供する。

 そんな商売ビジネスが発生しているのだ。

 もちろん、必ずしも【計画】の中で支払う必要は無い。

 現実世界であらかじめ金を払っておき、【計画】にログインした後にサービスを受ければ良い。


「ひどすぎるよ……」


 シイカは悲痛な面持ちで言った。


「警察とかに言った方が良いんじゃないかなぁ?」


 シイカが問う。


「いや。無理だろ」


 何故なら、PKer達は法を1つだって犯していないのだから。

 ただ、【計画】というゲームをプレイしているだけ。

 【計画】自体は違法だが、プレイすることで罰が課されることはない。

 

「別に、シイカが気に病むことじゃないだろ」


 しかし、彼女は首を振った。


「私、一生懸命、歌ってるんだけどなぁ……。そんなことするより、私の歌を聴いてた方が良くない……?」

「そうだな」


 【計画】の世界はどこまでも精彩だ。

 しかし、所詮は仮想現実。

 だから、心のタガが外れてしまうのか。


「今のはちょっと歌姫っぽいやん……」


 よっちゃんが言った。


「だから、歌姫なんだってばぁ」


 シイカは呟くように答えた。




 それからも、俺たちはさらにPKerを退治した。

 俺がおとりになって、敵をおびき寄せる。

 のこのこと出て来た敵を、よっちゃんが一網打尽にする。

 その繰り返し。

 数十人はPKerを倒したか。

 しかし、その全員が捕まりそうになると、自らゲームオーバを選んだ。

 俺はその死体の口を開ける。


「え、エンくん!?」

「ちょ、ちょ、自分、何しとるんや……?」

「連中、口の中に毒物を含んでるっぽいな」

「「え?」」

「見てみろよ」


 砕けた透明なカプセルが見える。


「……なんで気付いたん?」

「どのPKerも、死ぬ間際に歯を噛み占めるんだ。だから、口の中に何かあると思った」

「大した観察力やん。ほんまにすごいなぁ……」


 それから、めぼしい穴をよっちゃんが凍らせて回った。


「これでPKer、だいたい退治したかなあ……」


 よっちゃんはつぶやく。

 その表情は暗い。

 結局、PKerたちを取りまとめる黒幕の情報は手に入らなかったからだ。






—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:-69,391,094(日本円)

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