よわくてニューゲーム!!――EP.3
[New Game with Little Money!!――EP.3]
「その写真は、マジで消してくれよ」
「や!」
飛び切りの笑顔で綴は断言した。
◆
再び、【計画】にログインする。
普段なら、前回ログアウトした地点で目が覚める。
しかし、今回は違った。
真っ白い空間で、マネキンのようなオブジェクトと向かい合っている。
最初に行われるキャラメイクだ。
とは言え、悩む必要は無い。
現実の身体データを入力する。
瞬間、マネキンが形を変える。
「お、俺だな……」
もちろん、身体のサイズを現実から変更することも可能だ。
(脳に悪影響が無いように制限はある。例えば、現実で160センチの人間が、2メートルを超える大男の分身は造れない。逆も同様)
ただ、そうすると動いた時に違和感が生じるのだ。
早業は繊細な身体のコントロールが必要だ。
だから、感覚が狂うと困るのだ。
現実と同じ大きさの分身を使うのが最良だ。
「あとは顔か……」
顔の造形にも制限がある。
例えば、目の位置や形を大きく変更することはできない。
現実と物の見え方が変わってしまうので悪影響があるからだ。
「適当で良いか……」
身バレが怖いので現実世界からは変える。
ただ、どうしても面影は残ってしまう。
こうしてキャラメイクは終了した。
その間、わずかに1分。
とにかく速さが大切だ。
少しでも速く、ツヅリたちに追いつかないといけない。
いわゆるタイム・アタックというやつだ。
その時、視界が白く染まる。
気付いた時には、俺は塔の中にいた。
どこまでも高い塔だ。
見上げても終わりが見えない。
その壁面が全て、本棚になっている。
「ようこそ。【計画】の世界へ」
いつの間にか、隣にNPCがいた。
若い女性型のNPCだった。
白いローブのようなゆったりとした服を着ている。
「これから旅立つあなたに祝福を送ります」
祝福。
つまり、原典だ。
プレイヤはゲーム開始と共に、好きな原典を1つ選ぶことができる。
「司書はある?」
試しに訊いてみる。
すると、NPCは自分の胸に手を当てながら答えた。
「司書は私です」
「あ、そうじゃなくて、司書っていう原典はある?」
「司書と言う原典ですか? いえ。そのような原典はございません」
「だよな……」
しかし、ツヅリは司書という原典を使用している。
やはり、ゲームデザイナであるアサカワが用意したものなのか。
ツヅリにしか使えない原典にどんな意味があるのか。
俺には分からない。
「道化師はあるか?」
「はい。ございます」
答えながら司書は片手を挙げた。
「宣言:参照 道化師」
ふわふわと、どこからともなく本が飛んできた。
分厚い皮張りの本だ。
「こちらで?」
「ああ」
俺が受け取る。
すると、その本は強い光を放つ。
そして、そのまま溶けるように消えた。
「これであなたは道化師の原典を使用できます」
彼女は言った。
再び、視界が白く染まる。
◆
目が覚めると、俺は巨大な聖堂を見上げていた。
聖堂と言って良いのか。
現実世界の宗教とは違う。
とにかく宗教施設だ。
青く透けるガラスと、銀色の鋼材を組み合わせて造られた美しい聖堂。
色とりどりの月明かりに照らされて美しく輝く。
ここは始まりの街、ランベル。
白い石畳と、城壁に囲まれた美しい街だ。
【計画】を始めると全てのプレイヤはこの街に転送される。
辺りを見渡せば、俺と同じようなプレイヤがいた。
全員、【計画】を始めたばかりなのだろう。
まずは状況を確認しよう。
インベントリを開く。
何のアイテムも無い。
空っぽだ。
防具も服の他には、皮の靴と、ごわごわとした生地の外套だけ。
小鬼の石器にも破けてしまいそうな粗末な防具だ。
腰を見れば短剣が一振り。
刃は鈍い。
魚を捌くのにも苦労しそうだ。
コンソールを開く。
[>>> total complexity: 100,000(JPY)]
つまり、総資産10万円の意味だ。
開始時点の総資産は一律で10万円。
もちろん自腹だ。
そんな金は無いので綴に借りた。
また借金が増えてしまった。
とりあえず、1万円だけ残す。
残りを3万円ずつ、STR(筋力)、AGI(速さ)、VIT(体力)へ均等に割り振る。
「ここから2000万円か……」
道程は遠い。
足が竦みそうになる。
しかし、それでも進まなければ。
そんなことを思った時だ。
「やあ、エンくん。探したよ」
突然、背後から声をかけられる。
いやいや。
ヤバいだろ、これ。
俺の名前を知っている。
そして、開始地点で待ち構えている。
こんなことをする心当たりは、1つしかない。
「……あんたは誰なんだよ?」
俺は背中越しに問う。
クスクス、と背後の人物は笑った。
「誰だと思う?」
「円卓騎士か?」
円卓騎士。
別名、PKer絶対殺すギルド。
俺を倒したドラゴンも所属している。
「……良く分かったね。……私が円卓騎士だよ!」
背後の人物が答えた。
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総資産:-69,344,702(日本円)




