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キミが最強になることを、今から証明しようか。――EP.9

「俺の勝ちだ」

　巨大な剣が刃虫の群れを押しつぶす。

　轟音。

　そして、静寂。

　キラキラと翅の欠片だけが舞っている。

［>>> formation blade fly defeated. 4.2(JPY) aquired］

［>>> formation blade fly defeated. 4.2(JPY) aquired］...

　コンソールを開けば滝のように流れるログ。

　その全てが、

「編隊刃虫《フォーメーション・ブレードフライ》を撃破。4.2円を獲得」

　と告げる。

「やばい……」

　資産が約1万円も増えていた。

　1回の戦闘でここまで増えたことは無い。

「1層、制覇だね。おめでとう」

　振り向けばツヅリが笑っている。

「予想以上だよ。たった1日で編隊刃虫を倒すなんて。キミを相棒にして良かった」

「待て。まだなってねえぞ」

「まだ(・・)？　へぇ。それじゃあ、いつボクの相棒になってくれるのかな？」

「すり寄ってくんな。言葉の綾《あや》だよ」

「ま、良いんだけどね。無理強いはしないよ」

　意外にもあっさりと引き下がる。

「ところで、この1層を制覇するのプレイヤのレベルは幾らくらいだと思う？」

「10万円級じゃないのか？」

　実際、俺が10万円級のプレイヤだ。

　そのの強さは、下から数えた方が早い。

　最難関迷宮(ダンジョン)とは言え、浅層はこの程度か。

「残念。はずれ」

「いや。流石に1万円台じゃ厳しいと思うぞ」

「逆だから。最低でも100万円(・・・・・)。単独踏破ならもっとかかる」

「――は？」

「嘘、ついてるように見える？」

　下から俺を覗き込むツヅリ。

　大きな瞳。

　映った俺の戸惑う顔が見えるほど。

　静かな湖面のように凪《な》いでいた。

「キミさ、STR（筋力）に全然、振ってないでしょ」

　STRが高いほど、プレイヤは強い力を発揮できる。

　つまり、より重いモノを持ち上げられる。

　拳を繰り出せば強力な一撃となる。

　しかし、

「多少は振ってる」

「多少？」

「必要最低限だよ。そもそもSTRに振る金が無い」

　プレイヤのSTRも情報だ。

　書き換えるには相応の計算が必要。

　つまり、金が必要なのだ。

「それで器用に戦っているわけだ」

「まあな」

　代わりに思いついたのが「関数　早業」を使うこと。

　ごく小さな武器を構え、インパクトの瞬間だけ巨大な武器に持ち代える。

　この方法ならSTRは最低限、在れば良い。

「AGI（速さ）は？」

　AGIはプレイヤの身軽さを決定するパラメタ。

　これが高いほど、速く走って、高く跳べる。

「多少は振ってる」

「……多少って？」

「必要最低限だよ。そもそもに振る金が無い」

　代わりに思いついたのが「関数　早業」を使うこと。

　呼び出した武器を簡易《インスタント》の足場にして、空中で方向転換する。

　或いは、長物を呼び出し、その反動で加速する。

　この方法ならAGIは最低限、在ればよい。

「VIT（体力）は？」

　VITとはつまり、頑丈さ。

　言い換えれば死ににくさ。

　振れば振るほど、傷を受けても死亡することが無くなる。

「多少は振ってる」

「……多少って何なの！？」

「必要最低限だよ。そもそもAGIに振る金が無い」

　代わりに思いついたのが「関数　早業」を使うこと。

　呼び出した巨大な剣を盾の代わりにする。

　攻撃を受けたときは死ぬ時だと割り切っている。

　この方法ならVITは必要最低限、在ればよい。

【計画】に置けるプレイヤの属性《パラメータ》は3つのみ。

　STR（筋力）

　AGI（速さ）

　VIT（体力）

　当然、どれも情報だ。

　情報を書き換えるには計算が要る。

　電力を消費し、計算機《CPU》を駆動させる必要がある。

　つまり、金が要る。

　しかし、俺には金が無い。

「分かる？　異常なんだよね」

「このご時世、貧乏人なんて珍しくもねえだろ」

「そうじゃなくて、異常なのはキミのヘンタイ的な立ち回り」

「編隊？」

「変態！　アブノーマルっ！」

　ふぅ、とツヅリが息を吐く。

「本当は100万円級じゃないと勝てない敵に、エンは変態的な立ち回りのせいで、10分の1のパラメータで勝ってるんだよ」

「……そうなのか？」

「そうなの！」

「実感が無い」

「辺境でずっと小銭を稼いでたんだよね？　だったら気づかないだろうけど……」

　確かに、他のプレイヤと比べる機会は無かった。

　積極的に避けていたから。

　このゲームでは対人戦《PvP》が禁止されていない。

　仮に彼女の話を事実だとする。

　10万円しかない俺が、100万円級プレイヤと同等の強さ。

　つまり、通常のプレイヤの10倍は戦える。

「いや。でも、ちょっと待てよ」

「どうしたの？」

「矛盾してる。俺が本当に強いなら、どうして誰も同じことをしない？」

「したよ。少なくともボクはした。でも、できなかった」

　ツヅリはそう言って、足元の小石を拾い上げる。

「練習ならそこまで悪くないんだけどね。宣言：関数《デクラレーション・ファンクション》――」

　小石を投げる動作を始める。

　指先が離れる寸前、

「――早業《クイック・チェンジ》」

　小石が長剣に変化。

　やや斜めに逸れた。

　しかし、前方には飛んでいる。

「悪くねえな」

「だよね？　だけど本番だと上手くいかないんだ」

「本番？」

「うん。動的対象《ＭＯＢ》と戦ってる時」

　それには思い当たる節があった。

「……あー、原因だけど、分かったと思う」

「なになに！？」

「企業秘密だな」

「えー？」

　ツヅリは唇を尖らせる。

「心配すんなよ。分かったところで、どうにかできる原因じゃない」

　ツヅリがその原因を解消することは不可能に近い。

　恐らく。

「あ、そう。じゃあ良いや」

「良いのかよ」

「だってボクの相棒だからね！　底知れないくらいが丁度良いよ」

「だから、相棒にはならない」

「でも、これで分かった？」

「何を？」

「キミは普通の10倍強い。実際、大迷宮の1層を踏破した。だから、分かったでしょ？」

　ツヅリはイタズラを企む子どものような顔をしていた。

　それは無邪気な興奮。

「――キミが間違いなく、最強になること」

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総資産：104,171(日本円)

［You'ill be invincible.――EP.9］